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11. ありさ の すいさつ

よろしくお願いします。

長ゼリフがあります。

抑揚のないその言葉に、会議室内の全員の目がアリサに向いた。


それまで何かを考え込む素振りをしていたアリサは顔を上げ、そんな皆を見渡して言葉を続ける。


「これまでの行動から見て、敵はほぼ間違い無く、この町への攻撃を最終目的としているものと考えます。素通りは無いと見て良い。おそらくは近日中に、ここに来ます」


「そ……そうなの?」


隣から尋ねたユーナに、アリサは小さく頷いて見せた。


「数日間わざとクワンナの周辺で姿を見え隠れさせて、町方に盗賊の存在を印象付ける。町の緊張が高まったところで、100と少し、要は駐在軍と冒険者の主力を出せば討伐出来るくらいの人数で近場の村を襲撃。実際町方は人数的に勝てると踏んで、準備していた軍の部隊と冒険者を出撃させた。そうして、おびき出した討伐隊を迎撃陣地に誘い込んで、総力でまとめて殲滅」


一息吐くアリサ。


固唾を呑んで聞いている皆をちらと見て、話を続ける。


「連中のこれまでの動き、全てはこの町の防衛戦力の主力を誘い出して潰すのが狙いだったんだ。向こうはクワンナ市の対応を全て計算の上で、準備万端整えて討伐隊が来るのを待っていたんだよ。そして戦力を失って手薄になったこの町に、総攻撃をかけて一挙に攻め落とすつもりだ。最短の攻城戦だな」


「……」



元軍人の彼女。


騎士団にいた頃に勉強していた軍略や戦史の中で、今の状況に似たものを見た記憶があるという。


城に籠もる敵を野戦に引きずり出して撃滅、後に空になった城を余裕を持って落としにかかる。


なるほど確かにありそうだ。


アリサの語る内容に、言葉を無くす一同。


一応、この地方の領主様宛に救援の要請は出しているので、籠城して援軍が来るまでなんとか持ち堪えるというのが現在の基本方針ではある。


ただし彼女の推測では敵もそれを見越していて、おそらくは援軍の到着前にけりを付けようとしているのだろうとのこと。


さらには送り出した伝令が、敵に捕らえられている可能性もあるという。


もしそうなれば、当然援軍は見込めない。



「おそらく敵は今頃、一戦(ひといくさ)の後の部隊再編を行っているところでしょう。まだしばらくはかかると思いますが、それが終わり次第攻めて来る。こちらは完全に向こうの策に()められました。敵ながら見事な作戦ですね。私達も見習わなければ」


そこまで言ってから、アリサは皮肉げな笑みを浮かべた。


「……見習う機会が、あればだが」


彼女の推察に、そろって息を呑む一同。


先程の希望的観測は、どうやら一時の現実逃避でしかなかったらしい。



「し、しかし……なぜここなのだ!?」


狼狽した声を上げるのはクワンナ市長。


でも確かにその通りだ。


何度も言うけど、略奪なんてのは弱い所を狙うのが定石。


なのに敵は今回、かなりの手間暇をかけてクワンナ市への襲撃を企てている。


なんでわざわざ防壁のあるこの町を襲撃する?


確かにこれだけの都市なら、略奪して奪える金品や食料品も多いだろう。


でもそれだって、守りの薄い村や集落をいくつか襲う方が遥かに楽のはず。


防衛戦力の主力を潰しているとはいえ、町を囲む防壁を抜くというのは決して簡単なことではないのだ。


その理由がわからない。



皆から目を向けられたアリサも「さすがにそこまでは……」と言葉を濁している。


「そもそも、帝国の西にいた傭兵団がなんでこっちに来てるの……?」


誰ともなしに呟くユーナ。


このグランエクスト帝国は、大陸の南沿岸に沿って領土を有している。


当然の話その領土は広大であり、特に南北はともかく東西に長いので、西から東への移動となると相当な時間と労力が必要となる。


最も脚の速い魔獣が休み無しで走っても、1ヶ月は優にかかると言われている。


そんな距離を、千人以上の人数が移動するというのだから、これは並大抵のことではない。



ただその疑問の答えについては、先程と同じく運輸ギルドのギルド長が知っていた。


理由としては単純。


帝国西部に、大規模な傭兵団の仕事が無くなったからだという。


帝国は先代の皇帝陛下になってから先々代まで続いてきた領土拡張の政策を取り止め、周辺国との融和政策に切り換えている。


とはいえ、クロウ共和国や中央諸国連合との停戦が比較的円滑に進んだこちら帝国東方とは違い、西方ではわりと最近まで近隣の国との小競り合いが繰り返されていたという。


運輸ギルド長が船で交易をしている商人から聞いたという話によれば、


「西方で続いていたザオン王国やラネット神聖皇国との緊張も、今ではほとんど収束していると聞く。傭兵団としての働き場が無くなったことで、こちらに移動してきたのではないか?」


とのこと。



なるほどそういう事情があったか。


西部から流れて来た傭兵団がここを通過して、どこか乱れている国へ仕事を求めて引っ越しの途中といったところなのか。


どこへ行くつもりなのかは知らないけど、じゃあこの町を襲うのは、その移動に要する物資の補給のため?


待てよ、乱れている国?


なんか最近、そんな話を聞いたような……あ。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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