8. ありさ の くんれん
よろしくお願いします。
「どうしたもうへばったのか!それで4級冒険者のつもりか!!」
「イ……イエス、マム……!」
「何だそのネズミの様な声は!まったく聞こえんぞ!返事!!」
「イエス、マム!」
「聞こえないと言っている!!」
「イエス、マムッ!!」
「ユーナサボるな!お前達の訓練でもあるんだぞ!」
「なんで私達まで!?」
「コタロウ変な歌を歌うな気が抜ける!なんでカメとウサギが競争を始めているんだ!」
「ふぎゃあぁぁあん!」
現在サテルさんと僕とユーナは、アリサに追い立てられてクワンナの町の城壁の内周を走らされている。
要はいつもやっている基礎練習にサテルさんも参加して、さらにはアリサがソマリ男爵領の騎士団で学んできた叱咤激励が追加された形だ。
一応あくまでも訓練の一環であり、アリサとしても楽しんで罵声を浴びせているわけではないという話なのだけれど、こういう時の彼女がやけに活き活きとして見えるのは気のせいなのだろうか?
「なんだ、彼らは今日もあんなことをやっているのか。涙ぐましいことだな。ベルとユーシラも、そう思わないかい?」
「なんて言うか、恥も外聞も無いっていう感じですね。あの新顔の人達は高ランクって話でしたけど、もうちょっと考えて動けないのかなって思っちゃいます」
「う、うん……」
「ユーシラ?どうかしたのかい?」
「あの……サテルと、あの人達と、さっきから何回も走って来るの見てるけど……皆、この町を何周してるのかなって……」
「……!」
『大地の黄玉』を始め、今やクワンナの町の人達から笑いの的になっているこのランニング。
なのだけどアリサは素知らぬ顔で、僕とユーナとサテルさんは周りを気にする余裕も無い。
このランニングが終わったら、次は少しの休憩を挟んで模擬戦である。
そんな感じで僕達は、特に依頼などを受けることはせずにここ数日、サテルさんと自分達の訓練に費やしていた。
スパルタな訓練だけど、少しはサテルさんの気もまぎれると良い。
依頼といっても、最近は盗賊騒ぎのせいで皆が町の外に出たがらず、採集依頼などは受注がかなり減っているらしい。
そんな状況なので、多少の貯えのある僕達やサテルさんと違って5〜7級の冒険者は色々と大変みたい。
早いところこんな状態にもけりが付けばいいのだけれど。
その日僕達はランニングを終えて、水を飲みながら休憩を取っていた。
地面に足を投げ出したサテルさんが、同じく地面に座り込んでいる僕達に声をかけてくる。
「改めてになるけど……君達も凄いな。その歳で2級と3級なんて」
「まあ、たまたま大物のモンスターに出会して、運良く倒すことが出来て、死骸をギルドに出したら……こうなっちゃいました」
僕の返答に、軽く息を吐いて微笑むサテルさん。
「でも、いつもこんな訓練やってるなら、強くもなるか。君も3級が認められたってことは、やっぱりそれだけの戦果を上げてるってことだろ?」
「運が良かったんですよ。色々と」
僕の返答にサテルさんは「運も実力の内だよ」と言って遠い目をする。
「俺も敵の偵察とか、食料や装備品集めとか色々と頑張ったつもりではあったんだけどなぁ……」
「そういうのも重要だと思うんですけどね」
前線働きと後方支援と、こういうのはどちらか一方だけが大事だというものではない。
とはいえ後方業務の価値を認めず、わかりやすく命を懸ける前線での功績のみを重要視する風潮が、ある所にはあるのも事実だ。
『矢弾の届かない後方でぬくぬくとしている連中なんだから、武器や食い物や情報を用意するのは当たり前。こっちは前線で命を懸けて戦っているんだ』というのは、冒険者に限らず軍隊などでもよく聞く話ではある。
もしかしたらここクワンナの冒険者ギルドも、そういう傾向があるのかもしれない。
そういう場所では、サテルさんのような斥候職の人はやり難いだろう。
「なんでしたらこの町を出て、どこか他の町のギルドで頑張ってみるなんていうのはどうですか?」
サテルさんは今はパーティを抜けて1人身なんだし、他に特に事情などが無ければ別の町の、働きやすいギルドに移動するというのも1つの手なのではないだろうか。
自分を追放した『大地の黄玉』と一緒の町で働き続けるというのも辛いものがあるだろうし。
「うん、そう……だね。ちょっと考えてみるかなぁ」
そう呟きながら、額の汗を拭いつつ空を見上げるサテルさんだった。
◇
「あの……タサワスさん」
「何だい、ユーシラ?」
「私達、何もしなくていいのかしら……」
「何かって、何をだい?」
「その……私達盗賊討伐の依頼を受けてるでしょ?依頼に備えての訓練とか、盗賊の情報集めとか……」
「なんだそのことか。前のやり方を気にしているんだね?サテルは確かに敵の情報にこだわっていたけど、俺達はもう以前の俺達とは違う、2級パーティだ。あんな弱腰のやり方をいつまでも続けてはいけないよ。強い者には強い者の取るべき態度というものがあるんだ。そう思わないかい?」
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