3. ぱーてぃ の ついほう
よろしくお願いします。
聞こえてくる話から察するに、どうやらパーティの中のメンバー1人がクビにされかかっているところらしい。
1人の気弱そうな軽装の男性を、男性1人の女性2人が取り囲んでリストラの説得にかかっている。
気にはなるけど、他所のパーティ内の揉め事なので僕達が口を出すことでもない。
僕達はホールの騒ぎを避けてカウンターに行き、男性の受付に声をかけた。
「こんにちは、3級パーティの『爆影虎』です。昨日この町に到着したので報告に来ました」
「いらっしゃいませ。3級パーティの『爆影虎』さんで、コタロウさんとユーナさん、アリサさんの3名様ですね。ようこそクワンナへ。今日は何か依頼は受けられますか?」
「いえ、依頼は無しで。この町から海に出る船に乗りたかったんですが、海賊が出るので運休になっていると聞きまして、それについて知りたくて来ました」
ああなるほど、と受付の男性は僕達の後ろをちらりと見て、そしてすぐに僕達に目を戻した。
受付の話によれば、運輸ギルドからこの町付近に出没している盗賊らしき不審な集団の、調査及び討伐の依頼が来ているのは事実。
現在はここクワンナを拠点とする2級冒険者パーティの『大地の黄玉』をはじめとして、約100名程の冒険者が討伐の依頼を受注しており、またこの町で活動している冒険者達にも情報の提供を呼びかけているところだとのこと。
2級か。高ランクのパーティが動いているのであれば、僕達の出番は無さそうかな。
……待てよ?
2級ってなんかついさっき聞いたような……あ。
僕は今もホールで言い合いをしている集団をこそっと示すと、受付は困り顔で小さく頷いた。
あの人達が盗賊討伐の依頼を受けているのか。
そして現在、実力不足と判断されたメンバーの1人を解雇しようとしているところと。
これから盗賊と戦うのであれば、少しでも戦力は多い方が良いのではないかとも思うのだけど、その辺はパーティ内のことだからなあ。
力が足りなくて連携が乱れてしまうとか、色々あるのかもしれないし。
まあそれにしたって、もうちょっと場所を考えて話をした方が良いんじゃないかという気もするけど。
そうしているうちに、3対1の言い合いはそろそろ終わりにさしかかっている様子。
男1人と女2人の言葉に打ち据えられて、1人側の肩がどんどん落ちていく。
「……ユーシラ、君も、俺はいらないっていうのか?」
「……ごめんなさい、サテル。私達、ここで別れて進んだ方が、あなたのためになると思うの」
「サテルさんがこれまで頑張ってきたことは、私達もよくわかっています。魔物や装備品の情報を集めてくれたことも、感謝しています。でも……いえ、だからこそ、サテルさんは他でもっと活躍出来る場所があって、ユーシラはこのパーティでタサワスさんや私と行動するのが1番良いことになると思うんです。このまま無理にユーシラとサテルさんが一緒にいても、いずれお互いに辛くなるだけだと思うんです」
「ベル……」
「まあそういうことだ。俺達も寂しい気持ちはある。これまでずっと一緒にやってきた仲間だからな。でもここからは俺達は俺達の、サテルはサテルの、力を最大に発揮出来る者同士で進むのが1番良いことなんだよ。君もそう思わないかい?ユーシラもベルも、俺がちゃんと面倒を見る。サテルは、何も心配しなくて良い」
「……っ!」
「じゃあ、そういうことで。お前も頑張れよ、サテル」
「さようなら、サテルさん」
「サテル、元気でね……」
俯いて肩を震わせる1人にそう告げると、男性は女性2人を連れてギルドを出て行ってしまった。
1人残されて立ち尽くす彼を、遠巻きに眺める他の冒険者や職員達。
声をかけようとする人は1人もいない。
冷たいと思うかもしれないけど、これもまた冒険者という仕事の一面だ。
命を削ってお金を稼ぐこの冒険者という職業。僕達は今までそういうのに出くわす機会があまり無かったというだけで、力不足で依頼に付いてこれないメンバーを解雇することなんて、決して珍しいことではない。
そして、周囲と馴染めなかったり能力的に合わなかったりする人が集団から弾かれるなんてことは、冒険者パーティに限らずよくある話。
たとえパーティを組んでいたとしても、冒険者はあくまで自己責任の仕事なのだ。
1人その場に呆然と佇んでいた彼、やがてゆっくりと歩き出し、そのまま足取りも重くギルドを出て行った。
そんな彼の姿が見えなくなると、すぐさま一斉に今あったことの噂話を始めるギルドの冒険者や職員達。
僕達は受付に向き直って、再度声をかけた。
「さっきの人達が、2級の?」
「はい。『大地の黄玉』という……今、3人パーティになりましたね。リーダーがタサワスさんといって2級冒険者です。そして脱退となった人がサテルさんといって、4級冒険者です」
なるほど。さっき話をしていた通り、実力不足と見なされたわけか。
ちなみに新加入や脱退などのパーティメンバーの増減はギルドに報告が求められているけど、特に手続きなどがあるわけではなく口頭での申告でかまわない。
ただし死亡については、可能な限り死亡者の冒険者証をギルドへ返納するようにということになっている。
「こう言っちゃなんですけど……大丈夫なんですか?あの人達」
「いや、まあ……ただ、実力は確かな方達なんですよ」
僕の言葉に、受付は苦笑いしながら頭をかく。
既に彼ら『大地の黄玉』を中心とした、100人程の冒険者の盗賊討伐の募集が終了しているらしい。
盗賊に明確な動きが確認され次第、『大地の黄玉』の指揮する冒険者に、この町の駐留軍の部隊を合わせた討伐隊が出撃する手筈になっているそうだ。
なら盗賊退治は彼らに任せるとして、僕達は少しこの町でのんびりして船の運行再開を待つか。
行商の護衛依頼を受けて陸路で南を目指すという手もあるけど、せっかくなので船に乗ってみたい。
ということで僕達は特に依頼を受けることはせずに、そのまま冒険者ギルドを後にしたのだった。
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