エピローグ
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スカール公国南部にあるテアレラの町で、冒険者ギルドを揺るがす大事件が勃発した。
スカール公国内に、いくつもの支店を展開する大商会であるバラーズ商会。
その現会頭であるアーニング・バラーズ氏より、大規模な依頼が冒険者ギルドテアレラ支部に寄せられたのが、事件の始まりとなった。
依頼内容は、テアレラ市の南西にあるブラウン村にある森の大規模調査というもの。
その依頼に、テアレラ支部はギルドマスターであるカワーグが陣頭指揮に立ち、冒険者約200名を投入の上教会の神官数名を動員して遂行に当たることを決定する。
ところが調査場所である『禁断の森』に進入した遠征隊は、そのほぼ全員が森から出てくること無く消息を絶つ。
さらには遠征隊の禁断の森進入後、謎の魔物がブラウン村に出現し始めたとの報告も寄せられた。
ただ1人生還したギルドマスターのカワーグは、体調が非常に悪いということで現在に至るも療養中であり、面会も出来ず話を聴くことも出来ない状態が続いている。
冒険者ギルドテアレラ支部はこの事態に対し、支部に残った冒険者10名程をブラウン村に派遣し状況の把握を図る。
軍からも事態確認のため騎士が1名同行し、ブラウン村の調査に当たった。
後日、調査から帰還した騎士及び冒険者から冒険者ギルド、軍及び教会に、目を疑う内容の報告書が提出される。
その内容とは、ブラウン村にある『禁断の森』には、極めて危険な植物が生息しており、冒険者の遠征隊もその植物により全滅したというもの。
ツタの形状をしたその植物は、非常に凶暴であり、人体を植物化させる能力を持つ。
植物化させられた人間は半人半植物の状態で夜間『禁断の森』の近辺を徘徊し、感知した人間を捕らえて『禁断の森』に連れ込もうとする。
冒険者が現地で交戦をするも、矢や投石での攻撃は通用せず、その様子から物理攻撃による有効は見込めないと思われる。
また、植物化した人間と接触した者もまた植物化させられてしまうため、近接戦闘は極めて危険。
『禁断の森』自体に対しては、なんと火による攻撃も効果無し。
対処としてはブラウン村の周辺一帯を封鎖し、『禁断の森』及び植物化させられた人間には一切の手出しをせず、監視のみに留めて事態の収束を待つことを推奨する旨がまとめられていた。
この報告内容に基づき、軍は出動を決定。
ブラウン村やリントン市を含めたテアレラ市近郊は国領に当たるため、国軍からの調査隊がブラウン村に急行し、報告書の内容が事実であることを確認。
この調査結果を受けて、軍及びリントン市の警備隊、そしてスカール公国政府とが協議を行った。
その結果、禁断の森を含むブラウン村の付近一帯が封鎖され、以降軍による監視と、定期的な調査が行われることとなった。
ブラウン村の住民については、異常事態の発生直後より自主避難が開始されており、現在は生き残った住民全てがリントン市及び近隣の町や村に移り住んでいる。
彼らの帰還の見込みは、今のところ立ってはいない。
なお、上記の隔離措置については全てが国軍及びリントン市警備隊の対応によるものであり、初期対応に当たった冒険者ギルドテアレラ支部については、調査の後一切の関与が認められておらず、事態の初期調査及び報告を行った冒険者達についても、報告後の消息は不明となっている。
軍及び教会からは、この事態の発端となった冒険者ギルドテアレラ支部の行動の責任を問う声も上がっており、さらに公都ボーンズの支部からは、元職員及び冒険者からテアレラ支部を告発する手続きも行われている。
また、テアレラ支部は大規模依頼の失敗により多数の冒険者を失ったのに加え、その後も残っていた冒険者達の急激な流出が続いている。
信頼回復のための、今後の対応が注目されるところである。
事件の発端となった大規模依頼の依頼主であるバラーズ商会であるが、会頭のアーニング・バラーズ氏がブラウン村にて死亡。
この急な事態に対して、バラーズ商会では現在組織の大がかりな再編が行われている。
本来の後継者と目されているアーニング氏の息子のモルドールはまだ幼少であり、当面はアーニング氏の側近及び商会の幹部が、合議にて会を維持していく予定とのことである。
将来的にモルドールが商会を継ぐことになるのかどうかは、現在は未定となっている。
大きな力を持つ商会を襲った思いがけない急変に、スカール公国内の経済への影響が懸念されている。
この一連の事件については近隣の市町村にも詳細が通達され、何者も決してブラウン村の付近へは立ち入ることが無いようにとの命令が公国政府より出されている。
たまに興味本位と肝試しで封鎖地域に侵入する者も現れるとのことであるが、戻って来た者はいないという。
またそうした行方不明者の捜索のため地域内に入ることも、一切禁止とされている。
誰も立ち入ることの出来なくなったブラウン村であるが、稀に旅の冒険者や行商人が、封鎖地域の近くを通ることがある。
彼等の話によれば、もう誰もいないはずのブラウン村の方からは、今でも夜中に大勢の人間が歩き回る足音が聞こえてくることがあるという。
もしも近づいたりすれば決して生きては戻れないと、付近の住民からは警告がなされているという。
◇
「まったくあの冒険者共、面倒なことをしでかしてくれたもんだな……」
「あ、副ギルドマスター。そうですね、冒険者なんてギルドがなければ生きていけないっていうのに……自分達の立場がわかっていないんですね。おかげでカターギがこないだから大荒れですよ」
「あいつは追加依頼の時も、冒険者に食ってかかっていたからな……ギルドマスターは、まだ出てこないか?」
「声はかけているんですが相変わらずお返事も無いし、昨晩置いといた食事も手つかずなので、本当に大丈夫なのかなって……あれ?」
「どうした?」
「いえ、ギルドマスターの部屋のドアの下から、何かツタみたいなのが……なんだろうこれ?」
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本章の章題及び展開につきましては、故・水木しげる大先生並びにスコット・スミス先生の著作他、某東宝特撮映画より参考をいただいております。
この場をお借りしまして、両先生と映画制作スタッフの方々に御礼申し上げます。




