41. まちから の とんずら
よろしくお願いします。
無茶振りをかましてくる冒険者ギルドを見限り、『風の流れ人』や『白と茶のシマリス』の皆ともお別れしてテアレラ市から逃げ出した僕達。
幸い町を出るのに、冒険者ギルドの妨害のようなものは無かった。
副ギルドマスター以下職員一同、ギルドで僕達が来るのを待っていたのだろうか。
待ちぼうけを食わせた形になるけど、正直心は痛まない。
現在僕達は急いでテアレラ市から2日程南へ進み、スカール公国とグランエクスト帝国との国境にある、関所の門前町に来ている。
町に到着したのが夕方でもう関所は閉まるというので、今晩はこの町に泊まって明日の朝国境を越えることにしたのだ。
そんなわけで、夕食のために入った食堂の席で僕達3人、疲れてぐったりとしているところ。
1度店員さんが注文を取りに来たのだけど「ごめんなさい、ちょっとだけ休んでそれから……」と訴えたら苦笑いして戻って行った。
そんな店員さんをテーブルから顔を上げたユーナが見送って、そして再び突っ伏してしまう。
今回もまた疲れたなあ。
今頃テアレラ市の冒険者ギルドはどうなっているのやら。
まあ、それなりの騒ぎにはなっていそうだな。
少しの間そうしていると、やがて顔を上げたユーナがため息を吐いた。
「は〜あ、結局報酬はもらえなくて今回はただ働きになっちゃった。残念だね」
そんな彼女に、僕は首を横に振る。
「いや、ただではないかな。『風の流れ人』や『白と茶のシマリス』の人達に払った分と合わせても……ちょっとだけ儲けが出てる」
「はぁ?」
「どういうことだ?」
怪訝な顔をするユーナとアリサに、僕はマジックバッグからお金の入った袋と数枚の紙を出して見せた。
袋の中身は、金貨にして大体11枚分くらいの金額。
紙は、軍と教会と冒険者ギルドに提出した報告書を、禁断の森とツタ人間の説明を中心に簡略化したチラシで、軍の確認済の判が押してある。
報告書と合わせて作っていた書類で、軍に報告書を提出した際に一緒に渡して、エアーナさんや担当者さんと話をしている間に処理をしておいてもらったのがこれである。
「ほら、今回ブラウン村でアーニングさん亡くなっちゃったでしょ?だから2人が出発の準備してる間に、バラーズ商会にこれ持って報告に行ったんだよね」
ブラウン村で生き残ったマルシオさんや護衛の人達は、まだ治療のためリントンの町に滞在しているので、僕が彼らから預かった手紙を届けるのが第一の報告ということになった。
応対してくれた支部の担当者の人は、渡した手紙と報告書を読んで言葉を無くしていたけど、すぐに支部長を読んで今後の対応の話し合いに入っていた。
報告の際に、赤ちゃんを抱いた女性が1人支部長と一緒に駆けつけて来てショックを受けたように床に座り込んでいたのだけど、あの人はアーニング氏の奥さんとお子さんだったのだろうか。
今後は一体どうなるのだろう。
悪いことにはならなければ良いのだけど。
実は猫聴覚で僅かに聞こえてきた話によれば、なんでもアーニング氏、商会内ではかなり立場が悪くなってきていたのだそう。
先々代や先代の会頭と比べてかなり独断専行な性格が強くて、職員の中にも付いていけないという声が大きくなっていたらしい。
近く退任の要望が出されるかもしれなかったとのことだ。
で、商会の対応としては
「すぐにリントンに人をやって、正式な確認はこれからになるって言ってたけど、とりあえずの謝礼」
バラーズ商会を出た後は、テアレラ市の運輸ギルドや商業ギルド、教会、目についた商会などを訪ねて、ブラウン村で起こったこと、リントンの町から先がしばらくの間封鎖されるであろうことを報告して回った。
3級冒険者証を提示したことと、渡した書類に軍の判が押してあったことで基本的には信用してもらえた。
情報料として謝礼をくれた所もあればお礼の言葉だけで終わった所もあったけど、最終的にもらった謝礼を全部合わせたら、これぐらいの金額にはなった。
ついでにこのチラシ、けっこうな数が余ったので、街中で出くわした『巨熊の剛爪』や『黒衣の蟷螂』の人達をはじめ、目に付いた冒険者や行商人などに片っ端から配布して、ブラウン村方面と冒険者ギルドの対応について注意を促してある。
「あの時何やらいなくなったなと思ったら、お前というやつは……」
「抜け目がない……」
「うぇっへっへっへ」
笑ってみせる僕に、そろって呆れ顔でため息を吐くアリサとユーナだった。
「はぁ、なんだか色々と疲れたな」
「お腹もすいたよ」
「すいませーん、注文お願いしまーす」
皆少し元気が戻ったところで、僕は注文のため手を上げて店員さんを呼ぶ。
「いらっしゃい!今日はデラホウ三昧定食がおすすめだよ!」
「デラホウって何ですか?」
「ああ知らない?この辺で栽培されてる果物でね、実は食べられるしツタからも甘い汁が取れるからソースに使ったりするんだよ。葉っぱで肉を包んで煮込んだりね。美味しいよ!」
話から想像するに、ブドウみたいな果物なのだろうか。
にしても……ツタ……
僕達は引きつった顔をお互いに見合わせ、そして異口同音に店員さんに注文を言った。
「「「マス焼き定食!!」」」
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次回、エピローグになります。




