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23. まちから の だっそう

よろしくお願いします。

昼ぐらいまでかけて解体は無事終わり、僕は警備隊の人達からシャドウタイガーの毛皮と、ついでに骨を何本かと爪をもらった。


毛皮と骨と爪は、これも警備隊からもらった大きな布に包んである。



ちなみに解体作業の最中、僕は自分の体がシャドウタイガーの血と臓物でドロドロのぐちゃぐちゃだったことに気づいて、慌てて魔法の『クリーン』で自分の体をきれいにした。


きれいになったはずなんだけど、まだなんとなく気持ちが良くないな。


宿に帰ったらお湯をもらって顔洗おう。




僕は包みを結び終えると、副隊長さんに向き直って改めてお礼を言った。


「何から何まで、どうもありがとうございました」


「何度も言うけどな、助けてもらったのはこっちなんだよ。それじゃ、悪いが首と魔石はこちらで引き取るぞ。んで領主様が戻られたら報告をして、そうしたらお前にも褒賞金が出るだろうから、何日かしたら連絡が行くと思う。宿はタンポポ亭でいいんだよな?」


「はい、ただ冒険者ギルドには基本毎日顔を出しますから、そちらに連絡してもらえれば大丈夫だと思います」


僕が泊まっているタンポポ亭の名前と場所は、既に副隊長さんに伝えてある。


と、話している間に荷車への積み込みも終わったみたいだ。



シャドウタイガーの首と魔石と骨の大部分は、警備隊が持ってきた荷車に乗せられている。


改めて見るとやっぱり大きいな。


首なんて僕の背丈と同じくらい……とまではいかないにしても、僕の胴体ぐらいはありそうだ。


もし噛まれたりしたら、上半身ごと持っていかれてたかもしれない。


今更だけどよく勝てたもんだ。


僕の狙いが上手く当たったというのもあるけど、それより何より運が良かったとしか言い様が無い。



そしてシャドウタイガーの胸から取り出された魔石は、大体30cmくらいの大きさで濃い紫色で、なおかつ向こう側が透けて見えるくらいに透き通っていた。


宝石にしたってこんな綺麗なのは見たこと無い。


眼福眼福。


物凄く価値のあるものなんだろうけど、僕が持ってたって役に立てられないし、しかるべき所に引き取ってもらった方が間違いなく良い。


まあ、物凄い金額で売れるだろうからそこはちょっと惜しいけど。



ちなみにシャドウタイガーの身体で素材になるのは、魔石と毛皮と爪と牙と骨。


あとはこれといって役には立たないし肉も美味しくないそうで、兵士さん達が持ってきた桶に溜めて荷車に積み込んでいた。


後で訓練場の隅にでも埋めとくみたい。


この場で放置したり埋めたりすると、匂いを嗅ぎ付けた他の魔物や獣に食い荒らされる可能性がある。


弱い魔物の残骸ならまだいいけど、シャドウタイガーのような強力な魔物の肉を食べたりすると、肉に残っている魔力を吸収して普通の獣が魔物化したり、弱い魔物がより強力な魔物に進化したりすることがあるそうな。


内臓とか洗って加工すれば何かに使えないかと思うのだけど、僕はそこらへん素人だからわからない。


腐りやすいから駄目なのかもしれない。




「わかった。じゃあそれでよろしく頼む。俺達はこれから町に帰るが、お前さんも馬車に乗って行くか?」


副隊長さんの提案に僕は首を横に振る。


「いえ、歩いて帰ります。ここで一緒に馬車に乗っていったらまた目立ってしまうので」


「それもそうか。それじゃ、町はすぐそこだが気をつけて帰れよ。あとは後日改めてギルドに連絡するから待っててくれ。最後に何度も言うが、今回町を救ってくれたこと、本当に、心から感謝する。ついでに良い歌も教えてもらったしな」



彼の言う良い歌というのは作業の間、僕が景気付けに歌っていたマーチ。


前世の歌なんだけど、仕事が大好きな人達を唄った朗らかな曲。


歌っていたら兵士さん達から教えてほしいと頼まれたので、歌詞をちょっと軍隊風にアレンジして教えてあげたら、みんな気に入ったみたいで瞬く間に歌詞のメモが回り、しまいには全員で合唱しながら解体作業をしていた。


気に入ってくれたのは嬉しいけど、でもよかったのかなあ。


タイトルや歌の中に出てくる、人を呼ぶ合図みたいな言葉の意味とか未だにわからないし、これ元は鉱山夫の歌みたいなんだけど……まあいいか、歌詞にもある通り歌ってて楽しけりゃ。



頭を下げてきた副隊長さんに僕もお辞儀を返し、最後に馬車に乗り込んだ兵士さん達にも頭を下げると、皆手を振りながら町へ帰って行った。


そんなこんなで、僕は警備隊の皆とは離れて1人町に戻った。


知らせを聞いて集まった住民達の大歓声を受けながら大通りを歩く警備隊の人達と、そんな観衆の後ろを大風呂敷を背負ってこそこそと歩く僕。


……ふと思ったんだけど今の僕の姿って、まんま泥棒?


やば、疑われる前に急いで宿に戻らなきゃ。



そうして、なんとかシャドウタイガーの皮と骨と爪をせしめて町に戻った僕。


すぐに武器屋に寄って使ったククリの手入れを頼み、店主さんに革用品店の場所を教えてもらってそちらにダッシュ。


革用品店の店員さんを拝み倒して皮の防腐処理を頼んで(シャドウタイガーの皮ということで驚かれたけど、もらい物ということで押し通した。多分何かしら気づかれてたとは思う)、ついでに腕の良い革職人さんがいる町を教えてもらう。




大急ぎで旅の支度を整えてその間3日。


おかみさんに挨拶して宿をチェックアウトして、武器屋で手入れの終わったククリと革用品店でトラの皮を受け取ったら、最後ギルドに出立することを報告してそのまま町を飛び出した。


せっかく世界を見るために旅に出たんだ。


お使いじゃあるまいし、旅立ってすぐに実家のお隣の領で捕まってたくなんかない。


受付嬢さんからは「仕事が丁寧だから今後に期待してたのに~」と残念がられたけど申し訳ない。


そこは次の町で頑張るってことで。




次に目指すは南方ソマリ男爵領コモテ。


隣国クロウ共和国との国境近くにある、交通の要衝の町だ。


そういえばあの副隊長さん、名前聞くの忘れてたなあ。

お読みいただきありがとうございます。


また、評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。



当然の話ですが、コタロウは『ハイホー』がどういう意味なのかなんて知りません。


そして特に意味の無い設定なのですが、コタロウは口笛が吹けません。



次回第1章エピローグになります。

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