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38. ほうこくしょ の ていしゅつ

よろしくお願いします。

その後テアレラ市に戻った僕達は、宿に集まって今回の一件のレポートを作成にかかった。


軍へ出すことも考えて、ブラウン村で発生した事件の詳細や、アーニング氏からの依頼の内容、冒険者の遠征隊が全滅した経緯など。



特にあの『禁断の森』に生息していたツタや、そのツタに接触することによって生まれるツタ人間については、その特性や危険さなど、現地で確認出来た限りの情報を書き記し、最後に可能であれば手を出さないことを推奨する旨を記載した。




レポートは同じ物を2部作り、まずは冒険者ギルドにではなく、軍の駐屯地を訪ねて担当者に提出。


ブラウン村の調査に同行したエアーナさんがこちらに帰って来ているらしいので、まずはそちらに確認してもらって「この記録は事実である」との公的な証明をもらっておこうという考えだ。


駐屯地では応接室に通され、そこでエアーナさんと他数人の騎士が対応してくれた。


とはいえ、実際に事件を目の当たりにしたエアーナさん以外の人達にはそう簡単に信じられる話ではなかった様で、案の定報告書を一読した担当者の人達からは「……本当に間違い無いのか?」と繰り返し尋ねられることになってしまった。



ツタ人間の1人くらい捕まえてくれば信じてもらえたのかもしれないけど、危険さを考えるとそうもいかない。


とはいえ、前もってエアーナさんから報告が上がっていたのと(実は彼女、政府内のけっこう偉い人の娘さんで、影響力が無視出来ない人なのだそう)、3級冒険者である僕達や、何よりも2級冒険者であるユーナの存在が功を奏したみたいで、まずは軍から改めての調査隊の派遣が決まっているとのこと。


軍幹部も同行するこの再調査の結果をもって、正式な対応が決まる予定らしい。



僕達からは、詳細については報告書を詳しく読んでもらうとして、調査の際には禁断の森やツタ人間には重々気をつけるようにということと、避難したブラウン村の人達のことをよろしくお願いする旨を担当者さんにお願いする。




僕達からの報告を終えた後のこと、エアーナさんからも僕達に報告があった。


テアレラ市に戻ってからエアーナさん、あのブラウン村周辺の地域で昔何か事件やら変わったことやらが無かったかどうか、市の記録を調査していたのだそう。


「結果としては、あの『禁断の森』に関係する具体的な記録等は出てはこなかったのですが……」


その代わりに、手当たり次第に調べていた資料の中から奇妙な記録をいくつか発見したとのこと。



1つ目は500年程前の、ここがローザリア王国だった時代の警備隊の記録。


当時領内では、民の行方不明事件が頻発していたという。


警備隊の資料にあったのは、当時の警備隊が捜査に当たっていたということのみだったのだけれど、軍の資料では同時期にもう1つ大きな事件が記録されていた。


それは当時リントンの町の辺りを治めていた領主が、突如錯乱したというもの。


彼は長く善政を敷いていた領主だったのだけれど、妻の死をきっかけに何やら得体の知れない研究に没頭するようになり、政務を全く顧みないようになった。


これを重く見た王様が、領主の解任及び領地の召し上げを決定。


軍が領主の城に入ったというところで、記録は終わっていた。


相当昔のこととはいえ、事件の記録が2つ共妙に尻切れトンボな感じで終わっているということと、「領主の得体の知れない研究」と「領民が何人も行方不明」という事件が同時期に起きていたことが、エアーナさん的にはなんだか気になったとのこと。



もう1つは、行政府の資料室にあった記録。


300年程前に、南のグランエクスト帝国との間に小競り合いが発生。


その際、侵攻して来た帝国の部隊をローザリア王国軍が迎撃して、現在ブラウン村がある辺りに追い込んだことがあったという。


その後どうなったのかというのは、どういうわけかこれも記録が残っていない。


そして同じ戦いの記録は、軍の方には見当たらなかった。


パッと見勝ち戦の記録に見えるけど、それだったら喧伝のためにも軍と行政府の両方で残して置きそうなもの。


どうして行政府の方にだけ、こんなあっさりした形で残っていたのか、これも奇妙な話だとエアーナさんは言っていた。



エアーナさんが見つけてくれた手がかりはこれで全部。


結局あの森が何なのかは謎のままだ。


これ以上調べるのは、冒険者(ぶがいしゃ)の僕達には難しいだろう。


後はとにかく、あの森が危険だという事実を皆に伝えて、これ以上の被害を防ぐようにすることしか出来ない。




「お忙しい中調べていただいて、本当にありがとうございました」


とお礼を言う僕達に、


「いえいえ、どうせ今は暇でしたから」


とエアーナさん。


聞けば、今回の一件がエアーナさんから報告されてから、テアレラ駐屯地の上層部は公都ボーンズへの報告やらテアレラ市の行政とのやり取りやらリントンの町との情報共有やらで、大わらわになっているのだそう。


そしてそのどさくさで、エアーナさんの原隊復帰の手続きも忘れられている状態で、彼女としては今現在自主鍛練ぐらいしかやることが無いところだったのだという。


隣で「そうだったのか!?」という顔をしている騎士さんに、「調査隊出発の頃になれば、誰か思い出してくれるのではないかなと思ってました」と笑うエアーナさんだった。



僕達はもう1度エアーナさんや騎士さん達にお礼と『禁断の森』への対処をお願いし、最後に疲れた顔をした事務の人から、訪問時に渡して処理を頼んであった書類束を返してもらって、僕達は軍の駐屯地を後にしたのだった。




後は軍に出したのと同じ報告書を冒険者ギルドにも提出して、報酬を受け取ったら僕達の仕事は終わり。


以後はこの国の上の方での対応になる。


はずだったのだけれど……

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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