36. ひがい の がいよう
よろしくお願いします。
ブラウン村からある程度距離を取ったところで改めて確認したところ、僕達が村から連れ出すことの出来た村民は20人程だった。
禁断の森のすぐ側にいたドンタルさんはじめ青年団の人達、それから突然の襲撃で逃げ遅れた人達がさらに犠牲となってしまった。
他にも「生まれ育った村を捨てるぐらいなら森に行く」と家に残った人もいたらしい。
残念だ。
今現在僕達は、ブラウン村に向かう際に乗った馬車2台と、アーニング氏の邸宅にあった馬車2台、それから村の方で用意していた荷馬車1台と人が引く荷車1台の、計6台の車でリントンの町へと向かっている。
村長さんや年寄りなどは馬車に乗せ、歩ける人は歩いてもらう形だ。
一応『白と茶のシマリス』が交代で後方を警戒はしているものの、特にツタ人間が追いかけてくる気配は無い。
僕は馬車の1台に乗り込んで、荷台に座っていたロロカイ村長さんに禁断の森で見た顛末を報告する。
ドンタルさん達が禁断の森に火を付けた後、森から一斉にツタ人間や大量のツタが現れて襲いかかってきたこと。
ドンタルさんをはじめ禁断の森に火を付けていた人は、全員森に呑み込まれてしまったこと。
村人も、逃げ遅れた人は助けられなかったことなど。
「本当に、申し訳ありませんでした。また何人も、犠牲を出してしまいました」
そう言って、僕は村長さん達に頭を下げた。
「そうですか……ドンタル……あの、バカ者め……」
話を聞き終えた村長さんは悲痛な表情で俯いて、歯の隙間から呟きを洩らした。
一緒に聞いていた村人達は、村長さんと同じく俯く人、何かを言おうとしてそのまま黙り込む人、実際に強い口調で言いかけて他から制止される人などといった反応だ。
そんな中、
「あれは……」
と村長さんがかすれた声で話し出す。
「ドンタルは、生まれて間もなく二親が病で死んでしまってな。子供の頃にはドンタルを親無しとからかう者もおったらしい。それもあって、あれにはなるべく不自由はさせんようにしてきたつもりだったんじゃが……」
なるほど、村長の権限で「ドンタルさんには不自由はさせない」と配慮していたのが、どういう経緯か村内で「ドンタルさんには逆らえない」という状況が出来上がり、その結果あのわがまま放題の性格になってしまったわけか。
「儂が間違っておった。今回の事は、儂の責任じゃ」
と、村長さんは深くため息を吐いた。
アリサやユーナ、それから周りの村人達は、何も言うことが出来ずに村長さんを見つめている。
僕は子育てといったら兄上の子のジークとニクスの時ぐらいしか知らないけど、やっぱり色々と思うようにはいかないものなんだな。
「アタシら、何も出来なかったな……」
重い口調で呟くラルバさん。
「俺達本当に、ただ行って現場を見たってだけだったっスね……」
サムさん達『白と茶のシマリス』も、かなり落ち込んでいる様子。
「気を落とさないで、あれは……どうしようもないよ」
「少なくとも僕達は、あの場所に何があるのかというのをちゃんとこの目で見てきました。それだけでも、行った意味はあります」
そんな彼らを、ダンさんや僕が背中を叩いて慰める。
仕方ない……とは、言うべきではないのかもしれないけど、今回は相手が想定外過ぎた。
後僕達に出来るのは、テアレラ市に戻ったら冒険者ギルドと軍に可能な限り正確な報告を上げること。
あの森の危険性を訴えて、これ以上の犠牲者の発生を防ぐこと。
村長さんには、今後のことについて話をする。
僕達はテアレラ市に戻ったら冒険者ギルドと軍に、今回の事件と禁断の森について報告を上げる。
とはいえ、テアレラの冒険者ギルドには現状、この事態の収拾に回せるだけの戦力は無い。
なのでおそらく軍が動くことになると思うから、その場合事態の収束や村への帰還などについては軍の判断になるだろう。
村長さんの話では、リントンやテアレラ、近隣の村や集落に親類を持つ村人はそちらに避難をして、村に帰れる日を待つ。
頼る先の無い人は皆で相談して、場合によっては国の支援を頼ることになるかもしれないとのことだった。
今回、事の発端はアーニング氏とテアレラの冒険者ギルドということになるので、もしかしたらバラーズ商会やギルドの方からも補償か、賠償のようなものがあるかもしれない。
その辺については、町に着いてからの話になるだろう。
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