34. わかもの の きょうらん
よろしくお願いします。
え〜と、後皆に言うことは……
僕は皆に向き直って、残りの指示を伝える。
「皆は準備が出来たら、村の入口で村の人達を待ってください。僕は別行動で村内の様子を確認に行きますが、人が集まったら僕は待たなくて良いのですぐ移動を始めてください。それからもし何か異常が起こったら、村人が集まってなくてもその時点で逃げるように。自分の身を守ることを最優先で動いてください。アリサは皆の指揮をお願い」
「別行動ってお前……」
慌てた顔のアリサに、僕は大丈夫と頷いてみせる。
「何が起こるか、一応見られるだけ見てくるよ。出来る限りあの森と、ツタ人間の情報を集めないと。危ないと思ったらすぐ逃げる。後で追い付くから。ユーナも、馬車をお願いね」
ツタ人間には近づくことが出来ないので、ユーナの強力な弓は馬車の守りの大きなカギになる。
「……そうか、わかった。くれぐれも気をつけろよ」
「キミなら大丈夫と思うけど……お願いだから、無事に帰ってきてよ」
心配そうな2人に微笑んで頷いてみせていると、そこにラルバさんとサムさんが声をかけてきた。
「なあ、アタシも、一緒に行って良いか?」
「あの、俺も一緒に……良いっスか?」
「……良いんですか?」
僕が尋ねると、2人は若干青ざめた表情ながらも頷く。
「テアレラに帰ったらギルドにも色々訊かれるだろうからな。その時に何も見てませんじゃ格好つかねぇし」
「俺は……今後の経験もあるし、見といた方が良いかなって。ただ、あんまり大勢で行っても邪魔だろうから、俺だけで。他の皆には言ってあるっスから」
なるほど確かに。
『風の流れ人』と『白と茶のシマリス』からもギルドには報告を上げなきゃならないわけだし、確認できるものはしとくにこしたことはないか。
この2人だけであれば、一緒に行ってもらっても大丈夫だろう。
ただし……
「わかりました、行きましょう。ただしこれだけは徹底してください。絶対にツタ人間には手を出さない。見つかった場合はとにかく逃げる。もし捕まっている人がいても助けない。くれぐれも自分の身を最優先で」
「ああ」
「わかったっス」
非情な判断になるけど、逃げ遅れたりして襲われている人は見捨てる。
今の状況は助けられる人を助けるので精一杯。
それ以上を望めば、今度は僕達が生きて帰れない。
2人が首肯したのを確認して、僕は村内に向かって走り出す。
ラルバさんとサムさんは、パーティメンバーにひと声かけて、心配顔の仲間に見送られて僕の後に続いた。
少し走ったところで、禁断の森の入り口に着いた僕達。
そこで見たのは、燃え上がる森の前で大騒ぎしている数人の若者達の姿だった。
「ヒャアッハッハッハッハ!!どうだ燃えろ!燃えちまえ!」
若者達の中心になって、大声を上げているのは村長さんの孫のドンタルさん。
「バラーズの奴もこの中にいるんだったな!一緒にまとめて焼け死んじまえ!そしたら次はキリアだ!頼みのバラーズが化け物になりやがったことも全部バラしてやる!これであの裏切り者のクソ女も、奴のガキも終わりだ!吠え面かきやがれ!!」
狂ったようなハイテンションで、森を焼く炎に照らされて笑い、はしゃいでいる。
このまま出ていったら何かトラブルになりそうな気配もするので、僕達は物陰に隠れて少し様子を見ることにする。
「俺に逆らうな!俺の思い通りにならねぇ奴は皆くたばりやがれ!俺が次期村長だ!この村は俺のもんだ!ヒャアッハッハッハッハ!!」
「あ……う……」
よく見ると喜んでいるのはドンタルさん1人だけ。
他の取り巻き達はやや引いた様子で、ドンタルさんと森を見比べている。
そして、そんな彼らが付けた炎は夜の闇を赤々と照らし出し、森の入口を焼き払い、そして消えた。
「……は?」
「……え?」
そう、燃えたのは禁断の森の入口付近だけ。
森の中までは、まったく燃え広がる様子は無い。
樽数個分の油を撒いて火を放っているのに。
「マジかよ……」
「何なんスか……あの森……」
僕の後ろから、ラルバさんとサムさんのかすれた呟きが漏れる。
「なんだ!?どうなってやがる!!」
そして僕達以上に、火の消えた森を前に狼狽えるドンタルさん達。
火を付けられた森に、今のところ動く気配は無さそうだけど……
このまま何も起こらずに済む、なんてことには、なってくれないかなあ。
そんな一縷の望みをかけて森を見ていた僕。
そんな僕の背筋に、突如大量の氷でも突っ込まれたかのような悪寒が走った。
「……来る」
口をついて言葉が出たけど、僕自身何が来るのかわかっていたわけじゃない。
ただ1つだけわかるのが、今まさに物凄い危険が迫っているということ。
禁断の森を包む闇の奥から、大挙して何かが来る。
頭の中に、ガンガンと痛いぐらいに鳴り響く危険信号。
思わず僕は立ち上がり、ラルバさんとサムさん、それに森の入口にいるドンタルさん達に向かって思いきり叫んでいた。
「逃げろ!!」
「へ?」
僕の声に、その場にいた全員の目がこちらに向いたその時、森が、溢れた。
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