33. ひなん の しじ
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そんな彼らを見送った村長さんは、ため息をひとつ吐いてその場に残った村人達に向き直る。
「そういうことじゃ。皆はこれから家に戻って、避難する準備をしてくれ。出発は明日の朝になるからの。今晩もまたあれは来る、決して油断をしてはならんぞ」
「ここには……いつ頃帰ってこれるかのう」
「……わからん。これ以上禁断の森を怒らせなければ、それだけ帰れるのも早くなると、そう信じるしかない」
「……しょうがねえなぁ」
まだ完全には納得していない口振りで呟いて、重い足取りでそれぞれの家に戻って行く村人達。
いよいよ生まれ育ったこの村を出なければならないとなると、気が滅入るのも無理はない。
その後僕達は、一旦アーニング氏の邸宅に戻って撤収の準備。
先程大怪我を負ったマルシオさんはとりあえず傷はふさがった様なので、護衛の人達が明日の朝リントンに運んで治癒師に見せるとのこと。
どうせならすぐに運び出したいところなのだけれど、なんやかやでもう夕方に差し掛かっているところなので、安全を取って明日僕達と一緒に出ることにしたそうだ。
家の使用人達からのお願いを受けた僕達は、邸宅に置いてあった商会の馬車に、家の中の物を可能な限り積み込む。
邸宅の主人であるアーニング氏が実質死亡した様な状況ということで、この邸宅からは一旦人を引き上げることにしたらしい。
あれやこれやとやっているうちに、だんだん辺りも暗くなってきた。
後は出来る限りの情報収集のために、今夜も村長さんの屋敷でツタ人間の様子を見させてもらうのが良いだろうか。
出来るなら大勢の目で、色んな角度から確認すれば新たに気付けることも出てくるのかもしれないけど、皆疲れているようなら今晩は僕1人でも……
そんなことを考えながら、邸宅内の片付けを進めていた僕達。
顔を真っ青にした村人が、息せき切って邸宅に駆け込んで来たのは、そんな時のことだった。
村人は敷地の庭先で作業をしていた僕達を認めると、「大変だ!」と叫びながら駆け寄って来た。
全速力で走って来たらしい彼は、荒い息を吐きながら口を開く。
「どうしました?」
「ドンタルの奴が、禁断の森に火を付けた!!」
「はあ!?」
何だって!?
ドンタルって、さっきの説明会で喚き散らしてた村長さんの孫か!
森に火を……って、何考えてるんだ!?
てか、よくあの森に近づけたな!?
「村内からかき集めた油樽を転がして、松明を投げつけたみたいで……!」
なんていうことを!
この上さらに森を刺激なんかしようもんなら、一体何が起こるかわからんぞ!?
どうしよう。
何も起こらない可能性に賭けて明日の朝まで待つ?
いやもう暗くなるし、もしも異常の発見が遅れたりしたらまた大勢の犠牲者が出る。
となると……逃げるのが1番間違い無いか。
今からだと夜中の移動になるな。
危険はあるけど、やむを得ない……!
あの森を相手にするよりはましだ!
急いで考えをまとめた僕。
まずは冒険者達と邸宅の使用人に指示を出す。
「今すぐに撤収の用意を!これ以上何かが起こる前に、皆で一気に逃げる!準備が出来次第馬車を村の入口へ!」
続いて、知らせに来てくれた村人に、
「村長さんに伝えてください。予定を変更して、これからすぐに避難を開始します。村の人達は、最低限必要な荷物を持ったら急いで村の入口に集まるように」
僕の指図に村人は頷いて、水を1杯飲んだ後駆け戻って行った。
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