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32. ふんきゅう の しゅうかい

よろしくお願いします。

長ゼリフがあります。

打ち合わせの後、村長さんが村の人達を集めて、僕達が撤収すること、村に残っている皆も避難してほしい旨を伝えたのだけれど……


当然の話、集会は大いに紛糾することになってしまったのだった。



「ふざけんな!!」


まあ今このブラウン村にいる人は、自分達がこの村を守るという自負を持って、危険とわかっているこの地に残っている人達なのだ。


冒険者は帰るからお前達も村を出ろ、なんて言われて納得出来ないのも無理はない。



「元はと言えばお前らのせいでこんなことになってんじゃねえか!なんとかしろよ!」


村長さんやケウラさん、先程一緒に僕達の話を聞いていた人が、なんとか彼らをなだめようとするも止まらない。



「お前らみたいな根無し草の余所者は、俺達がどんだけ苦労してこの土地を守ってきたかわかってねえんだよ!」


特に声を上げているのが、村長さんの孫であるドンタルさんを中心とした青年団の人達。



「高い金払って呼んだのに何だよそれ!おかしいだろ!」


本来であればこういう場合、話し合いの中でお互いに譲歩していきながら落とし所を探るというものになるのだけど、残念ながら今回については僕達からの譲歩は出来ない。


撤収する際に避難者を町まで護衛する、これが僕達に出来る最大限の譲歩だ。



「魔物退治がお前ら冒険者の仕事だろ!今この村が魔物に襲われてるじゃねえか!倒せよ!」


たまりかねて言い返そうとしたジェナさんの口をユーナがふさいだ。


驚いて目を見開くジェナさんに、ユーナは黙って首を横に振る。



「それとも無理だの何だの言って報酬のつり上げでも狙ってんのかよ!それが冒険者のやり口かよ!」


ドンタルさん達が思う様大声を出し続けて息継ぎに少し間が空いたところで、ケウラさんが声を上げた。


「ご迷惑をおかけしているのは、誠に申し訳なく思っています。ですがこの現状をどうにかすることは、今用意出来る人員では不可能なんです。避難先での生活も、バラーズ商会と打ち合わせの上で出来る限りお力になれるようにさせていただきますので、ここはどうか、ご理解をお願いします」



ドンタルさんがこちらに目を向けるも、僕……というよりも後ろで腕を組んで立っているアリサから視線を外した。


「……なあ、なんとかなんねえのかよ」


アリサが怖いのか、口ごもるように言葉を続けるドンタルさん。


「力が足りずお恥ずかしい限りだが、説明があった通りここは一時避難してもらい、ツタ人間の活動の収束を待つのが最善の方法と考える。今のまま禁断の森やツタ人間に手を出せば、犬死にどころかさらに事態が悪化する可能性もある」


「それにここでもしあなた方の要請通りに無茶をして死人が増えた場合、あなた方から補償はしてもらえるんですか?遺族の今後の生活とか、関係者への賠償とか」


「それは……あんたら、冒険者なんだから……」


アリサと僕の返事を受けて、ドンタルさんの勢いがさらに下火になる。



まあ実際のところ冒険者が依頼中に死んだからといって、依頼者や冒険者ギルドから補償が出るなんてことは無いのだけれど、ここは脅しも込めて言ってみる。




言い返せずに僕達をにらみつけるドンタルさん達の様子を見ていた村長さんが、ここで重々しい口調で口を開いた。


「儂は……この人達の言う通りにする。残った村の者達を避難させるんじゃ」



「なっ!?」


その言葉が予想外だったのか、再び声を荒げ始める青年団の人達。


「何だよ婆ちゃん!何言ってんだよ!!」


「俺達の村だぞ!!」


「村長あんた怖気付(おじけづ)いたのかよ!」


「ああ怖気付(おじけづ)いた!!」



言い募る若者達を、村長さんの大声が一喝した。


その予想外の声量にたじろぐドンタルさん達。


そんな彼らに村長さんは言葉を続ける。


「儂らは何もかも間違っておった。儂らは怖気付(おじけづ)かねばならなかった。もっと早くに、怖気付(おじけづ)いておらねばならなかったんじゃ」



嗄れた声で、でも強い口調で話す村長さん。


「禁断の森に入るという話が出た時、儂はなんとしてでも止めるべきじゃった。儂にも、あの森の木を切り出すことが出来れば、大きな道が出来れば、この村の生活はもっと良くなるのではないかという思いがあった。あの森は、本当に入ってはならん場所なのかと疑う気持ちもあった。だからアーニング坊から話があった時も、そこまで強く止めることはせなんだ。だがその結果がこれじゃ。ご先祖様の(いまし)めを忘れ、森を畏れる心を忘れておった結果じゃ」


「……」


ドンタルさん達は言い返せず、でも恨みがましい上目遣いで村長さんをにらみ返している。



「確かに土地は大事。だがこれ以上、村の者に人死にを出すことは出来ん。その人達の言う通りに、一旦この地からは離れて、森の怒りが鎮まるのを待つんじゃ」


「……本気で言ってんのかよ」


「本気じゃ」


「……クソ!」


ドンタルさんは吐き捨てると、取り巻きの青年団に「行くぞお前ら!!」と怒鳴りつけて、若者5人程を引き連れて足音も荒くその場を立ち去った。



「クソが!どいつもこいつも、俺を一体誰だと思ってやがる!」


「止めましょうよドンタルさん。さすがにこれはヤバいっすよ」


「こんなことやったら、下手したら村を追い出されますって」


「うるせえ!このままバカにされて、お前ら黙って引き下がるつもりかよ!この村の奴らにも、あの冒険者の連中にも思い知らせてやる!」

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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