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31. たいおう の ていあん

よろしくお願いします。

今回の1件で僕達、どうやら問題の本質を見誤っていたらしい。


本当に危険なのは『禁断の森』に潜む何かではなく、森そのものだったんだ。


これまでは森を立ち入り禁止にしていたことで大人しく眠っていたけれど、今回の大規模依頼で大勢の人間が踏み込んだことで、森の眠りを覚ましてしまった。


猫だって、寝ているところを無理矢理起こされれば腹を立てる。


叩き起こされて怒った森が今、その怒りをこの村に向けてきている。




僕の言葉に、ケウラさんをはじめ冒険者達の反応は、頷きを返してくる人や俯いたままの人、硬い表情を崩さない人など色々だ。


ただし反対意見は誰からも無かったので、僕は了解を得られたものと判断する。



冒険者側はこれで良いとして、後は村人達の方。


今ここにいる人達は先程の惨状を目の当たりにしたこともあり、僕の判断にも憤る声などは無い。


とはいえ村長さん他、縋るような眼差しを向けてきている彼らを、このまま放置して帰るわけにもいかないわけで。


「儂らは……どうすれば良いんじゃろうか?」


重い口調で尋ねてくるロロカイ村長さん。



そんな彼女達に対して僕は、先程から考えていたことを告げた。


「住民全員の、村からの避難を提案します」


ある程度予想はついていたのか特に驚いた様子も見せず、俯いてほうっとため息を吐く村人達。


「なんとか……ならんもんですか?」


村人の1人の絞り出すような声に、それでも僕は首を横に振る。



少なくとも今いるこの人員と装備では、この村に出現しているツタ人間になってしまった人達に対応するのは不可能だ。


ツタ人間に傷つけられればツタ人間になってしまう以上、負傷することはたとえかすり傷であっても絶対に避けなければならない。


森はともかくツタ人間の方は、油でもかけて焼いてしまえば倒せる可能性はあるかもしれない。


でも、200人からいるツタ人間を焼くとなると、ボトルも油もまるで足りない。


盗賊なら首かっ切れば殺せるけど、同じ様にそれが通じる相手なのかどうか。


敵と判断した時点で一切の容赦が無くなる猫メンタルの僕や、テアレラ市のギルドとの関係も薄いアリサやユーナは割り切ってしまえばともかく、ラルバさんやダンさん、『白と茶のシマリス』の人達には、かつて冒険者の仲間だったツタ人間と戦うのは心情的に苦しいものがあるだろう。



禁断の森自体の方は、まだ大丈夫と見て良いと思う。


確かに森に近づけば、中からツタが襲ってくる。


ただ逆に見れば、近づきさえしなければ襲われないということ。


さっき見た限りでの想像にはなるのだけど、おそらくはあのツタ、森からそう遠くまでは伸ばせないのではないだろうか。


もし際限無く伸びるのだとしたら、今頃このブラウン村全体がツタに覆われていてもおかしくない。


森の周囲に設けられていた石の柵、あれがこの村に代々受け継がれてきたものであるのなら、あの柵がツタの射程というか、ボーダーラインみたいなものと見ておけばいいかもしれない。


ならそのラインさえ越えなければそれで済む。



そして問題のツタ人間の方は、


「何が狙いかはわかりませんが、あれは人間を見ると近寄って来て、森に連れて行こうとする。森に連れて行かれた人は、同じくツタ人間にされてしまう。そしてツタ人間や森のツタに怪我などを負わされれば、おそらくはその傷口からツタの毒か何かが回って、やがてツタ人間になってしまう」


森に入ればツタ人間。


森に近づいてもツタ人間。


ツタ人間と戦ってもツタ人間。


これはいよいよ僕達がどうにか出来るような事じゃない。


というか、人を無策で何百人か突っ込ませて解決出来るような問題でもない。


下手に人数を送り込めば、かえって無駄にツタ人間の数を増やしてしまい、逆に事態が悪化する。


そして最終的には収拾の付かないことになる。


そんな事態は、決してあってはならない。



「なので全員避難して国に報告を上げて、この村……というよりも、この地域一帯を封鎖する。ツタ人間の目の届く範囲には、人っ子一人居ない状態を作るんです」


このブラウン村では、かつて今回と同じ事態が起きていたと考えられる。


でもその後もこの村は放棄されたりはしていない。


となれば、あのツタ人間達もいずれは森から出てこなくなり、それでこの事態も収束する可能性がある。


実際、禁断の森が立入禁止になって数百年の間、このブラウン村は森に飲み込まれることなく存続し続けているのだ。


ということは、森が周囲を侵食して広がってくるようなことは無かったと考えて良いのではないだろうか。


村人に聞いた話では年に1度のお祭りの際、禁断の森の森の前にある祠の周りに塩をまくということをやっていたらしいのだけど、その程度のことで森の拡大は止められるものではないだろう。


であるならば、後はこれ以上ツタ人間を増やさないように、禁断の森を刺激しないように注意さえしていれば、被害の拡大は抑えられるはず。


多分に楽観的な考えではあるのだけど。




「以上のことを、僕からはご提案いたします。後はどのようにされるかは、村の皆さんの判断にお任せします」


と、僕は考えを皆に伝えた。


ただし僕達としては、これ以上この村に留まっての協力は出来かねるということも、合わせて伝える。


「ただし避難される場合、町までの護衛などについてはお手伝いさせていただきたいと思っていますので、それも踏まえて住民の方々へのお伝えをお願いします。エアーナさんは、このことを軍に報告する準備をお願いします」



沈痛な面持ちで俯く村長さん達に伝え、続いて何と言って良いかわからないという表情のケウラさんに、この対応で問題無いかを確認。


「やむを……得ませんね。ギルドには、戻ったら私から報告します。この村に起きていることは私も見ましたし、今のテアレラ支部には、事態を解決出来るだけの戦力もありません。話は、通ると思います」


「私もテアレラに戻ったら、急ぎ軍に報告を上げます。後は、上の方での検討になると思いますが……避難民の受け入れは、リントンでってことになるかな……?」


重い口調ながらも、ケウラさんとエアーナさんの了解は得られたので、僕は最後に青ざめた顔の村長さんに向き直る。




「皆に……話をしてみよう」


しばらく迷っていた村長さんだったけど、やがて小さく頷いて、絞り出すように言葉を発した。


村人からの反発は……あるかもしれないな。


特に今この村にいる人は、あえて避難とかしないで、自分で村を守ろうとして残ってる人達みたいだし。


まあその辺は、村長さんとケウラさんに説明を頑張ってもらうしかないか。



「今日はもう時間が経っているので、今夜もう一晩様子を見て、その間に出来る限りツタ人間の情報を集めましょう。出立は明日の朝一の予定で、避難する村人達はその時一緒に連れて行きます。皆さんはそれまでに用意をお願いします」


「この村に、残るという人がいたら……?」


「……申し訳ない限りなんですが、僕達はそれには付き合えません。ただ、準備が間に合わないということがあれば少しなら待ちますし、歩くのが大変な人とかは荷馬車に乗ってもらうことも出来ますので。村長さんとケウラさんはその旨、村の人達への周知をお願いします」


僕は2人にそう伝え、「私が!?」という顔でこちらを見ているケウラさんから目を逸らして、冒険者達には今後の予定と注意事項を打ち合わせする。



「そういうわけで、今夜もう一晩よろしくお願いします。ただし昨晩同様、くれぐれもツタ人間には手を出さないで、気付かれないよう監視するだけに留めてください。1人くらい捕まえることが出来れば、後々研究が出来るかもしれないですが……止めましょう。今は人の少ないブラウン村だから被害も抑えられているけど、テアレラ市みたいな人の多い所でツタ人間が増え始めたら手がつけられなくなります。危険が大きすぎる」


「今夜も、きっと来ますよね……」


エイミーさんの呟きに、僕は頷く。



「繰り返しますが、ツタ人間には見つからないことを最優先で、交戦は無し。万が一見つかってしまった場合は、まず第1に逃げる。やむを得ず攻撃する場合は罠か飛び道具に限定。接近戦は絶対に避けて、寄られたら寄られただけ退く」


「じゃあ、もしもだよ?もし彼らが村に居座ったりしたら……」


「その場所は放棄」


僕の躊躇いの無い返答に、息を呑むダンさん。



実際その可能性も無くはないのだけど、だからといって現状僕達に打てる手は無い。


僕は皆に他に質問が無いことを確認して、打ち合わせは終了となった。



エアーナさんと、今すぐ動けるという村人数人が、軍への報告と町での受け入れ要請のために、一足先にリントンへと出発していった。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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