22. てがら の なすりつけ
よろしくお願いします。
よかった、刃が通った。
けど……
僕は一瞬気が抜けて膝から崩れ落ちそうになるのをこらえ、腰からボウガンを抜いて地面に倒れたシャドウタイガーに向ける。
ここで油断は絶対に駄目。
完全に死んだということを確認するまでは。
敵を倒したと気を抜いていたら、死んだと思っていた相手が息を吹き返して襲いかかってきたなんて話、狩りでも討伐でもいくらでもあるのだ。
僕はシャドウタイガーにボウガンを向けたまま1分程待ってみたけど、カッと見開いた眼が瞬きする様子は無い。
慎重に近づいて、ククリで眼を軽く刺してみたけど動かない。
これは、死んだな。
僕はほうっと大きく息を吐いた。
やった、勝った……
ほっとすると同時に身体から一気に力が抜けて、僕はその場にへたり込む。
しばらくそのままでゆっくり息を吐いていると、後ろの方から大勢の足音が近寄って来るのが聞こえた。
「お、おい……」
到着したのは副隊長さん以下衛兵さん数十人。
皆がシャドウタイガーの死骸を囲んで見守る中、副隊長さんが僕に近づいて来た。
「や、やったのか?」
僕は頷いて立ち上がり、そして皆に聞こえるように大きな声で言った。
「やりましたね。いやー実にお見事!副隊長さん以下警備隊の奮戦により2級モンスターを撃破、町を守り抜きました!素晴らしい!拍手!」
ぱちぱちぱちぱちぱち。
「……へ?」
呆気にとられる副隊長さん。
でもすぐに我に返って僕に詰め寄ってきた。
「いやいやいやどういうことだよ俺達が奮戦って!?撃破って!?倒したのはお前だろ!?」
「皆さんが倒したことにしてくれないかな~って」
「なんでだよ!?2級の魔物倒したんだぞ!?お前この町を救ったんだぞ!?」
副隊長さん顔が近い顔が近い。
「だって6級冒険者が2級の魔物を倒したなんて誰も信じませんよ。それだったら副隊長さんが的確な指揮で、強敵を撃破したってことにしましょう。そうすれば副隊長さん大手柄。出世間違いなし。給料アップ。奥さんも喜ぶ。愛してるばんざーい」
「ばんざーい……じゃねえよ!」
一瞬つられて手を上げた副隊長さん。
我に返ると僕の肩を掴んでがっくんがっくん揺さぶる。
う~んやっぱり誤魔化されないか。
立場的にあんまり注目されたくないんだけどなあ。
何より騒がれるのめんどくさいし。
「よし、じゃあこうしましょう。僕と警備隊の皆さんが協力してこいつを倒しました。皆さんがメイン、僕は補助」
「無理だ、死骸がきれいすぎる。ほぼ一撃で倒したのが丸わかりだ。第一俺を含め今ここにいる連中に、こいつを倒せるような手練れはいない」
「そこはほら、僕達が構えてました→シャドウタイガーが突っ込んで来ました→死にました。でなんとか……」
「なるかぁっ!」
さっきから大声出しっぱなしの副隊長さんぜーぜー言ってる。
疲れてるなあ。
「僕まだ新人だからあんまり変に目立って目をつけられたくないんですよう」
ここで変に注目を集めたりなんかすると後々絶対にろくなことにならない。
新人冒険者が褒賞なんて目立つ形でお金やら何やらもらったりしたら、絶対にやっかむ人が出てくる。
今回シャドウタイガーを倒せたのなんて、運が良かっただけなんだから。
これで2級モンスターを倒せる力がある、なんて周りに思われても困るのだ。
僕が元貴族だってのはまあ……ばれないと思うし、ばれても問題にはならないと思うのだけども。
「そうは言ってもな……嘘の報告上げるわけにもいかんし、お前もこれだけの大物倒して報酬無しとか嫌だろう。きっと領主様から賞金出るぞ?」
「あ~報酬……じゃあこいつここでバラして皮だけ下さい。倒した証拠なら首と魔石があればいいでしょうし、それは差し上げますから。あ、でも魔石はでっかくて綺麗だろうから、ちょっとだけ見せてもらえると嬉しいな」
シャドウタイガーの皮なら何か使い道があるだろう。
それこそ皮で新しい服作ってもいい。
てかそれ良いな、皮もらえたら服を作ろう。
「新人で目立ちたくないってことはわからんでもないんだがなあ」と頭を掻く副隊長さん。
「とはいえだ」とまた、顔をずずいっと僕に近づけてくる。
あ、この臭い、この人夕べ酒飲んだな。
「お前がシャドウタイガーを倒したことについては領主様に報告する。これについては誤魔化すわけにはいかんからな。ただし、領主様には俺の方から、お前がまだ冒険者としては新米であって、今後の活動のことも考えてなるべく目立たない処置を希望しているということをお伝えする。これ以上の譲歩は出来ん」
う~ん、やっぱりそうなるか。
まあ僕も、言ってはみたけど多分無理だろうなって思ってたし。
そこはしょうがないな。
でもお抱え冒険者の話とかきたらどうしようかな、めんどくさいなあ。
まあなんにせよ、これ以上ここでごねるわけにもいかないか。
「わかりました、それで大丈夫です。ところで皮の方は……?」
「ああ、それならやるよ。どのみちこんな大物、まるごとなんて運べないしな。ここで解体するからしばらく待ってろ。おいお前ら!ここでシャドウタイガーを解体するから準備しろ!あと2人程町に走って、住民と領主様の屋敷に魔物を討伐したことを伝えろ!」
副隊長さんが兵士達に大声で指示を出すと、副隊長さんと一緒に来ていた40人くらいの兵士の内3分の2くらいが町に向かって走り出し、もう半分くらいは残って火を焚く用意を始めた。
町に行く人達は解体用の道具を取りに行くんだろう。
皮については、これもはっきり言ってダメ元で言ってみたことなのだけれど、本当にもらえるとはありがたい。
でも今さらだけど、倒した魔物の素材を勝手に人にやってしまって大丈夫なんだろうか?
僕がその事を副隊長さんに尋ねると、彼は笑いながら言った。
「問題ないさ。お前が倒した魔物だ。まあ、そのことについては俺から領主様に説明するし、責任も俺が持つ。お前がこいつを倒してくれなきゃ今頃俺達全員こいつの腹の中だったろうしな。俺達からの感謝の気持ちだよ。逆に俺達がお前の手柄を分けてもらうことになるんだ。誰にも文句は言わせねえよ」
そう言って副隊長さんは、シャドウタイガーの死骸の側で働いている兵士さん達に目を向けた。
僕も同じように彼らを見ると、皆が笑顔で頷いてくる。
中には頭を下げてくる人もいた。
そうこうしてる間に町からは10人程の兵士さんが荷車や馬車で戻ってきて、積んできた道具でシャドウタイガーの解体を始めた。
始めたはいいんだけど、このトラでかいし作業にけっこう時間かかるよね。
……僕は何してればいいんだろうか?
兵士さん達をほったらかして帰るのもどうかだし、かといって解体に必要な人数は十分いるから手伝うこともなさそうだし。
……応援がてら歌でも歌うか。
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