28. そんない の さんげき
よろしくお願いします。
へたり込んでいる僕達を訝しそうに見て、ロロカイ村長さんが問いかけてきた。
「……何が起こった?」
「森が……襲ってきました」
僕は村長さんに、先程森の側で起こった事を説明する。
森の中からツタが襲いかかってきたことには村人一同顔を青ざめさせていたけれど、一方でアーニング氏が森に引きずり込まれたことを話すと、皆が驚愕と悲しみの表情を浮かべる中一部の村人からは笑い声が上がった。
見ると嬉しそうな声を上げたのは、村長の孫のドンタルさん。
青年団……というより、彼の取り巻きみたいな若者を数人連れて、1人だけ笑顔を浮かべている。
「ヒ、ヒャハハハハ!そうか、あの野郎くたばりやがったのか!これまで好き勝手やってやがった報いだ!ざまぁみやがれ!」
と大声で笑い、もうこの場にはいないアーニング氏に悪態を吐く。
取り巻きが「ちょ、ドンタルさん今はまずいっすよ」と止めようとすると、
「なんだおめえら!おめえらだってあんな奴死ねば良いって言ってたじゃねえか!これであのクソ野郎の商会も終わりだ!売女のキリアも終わりだ!そして俺は次の村長様だ!良い気味だ!」
「やめんか!!」
喚き散らすドンタルさんを、村長さんが声を張り上げて一喝する。
あの痩せた身体の、一体どこから出ているのかと思う程の大声だ。
怒られたドンタルさんは一瞬笑い止んで村長さんを見たものの、堪えきれずという感じで再び笑い出す。
少しの間その場で騒いでいたけど再度村長さんに叱られて、そのまま取り巻き達を連れて村内へと戻って行った。
去って行くドンタルさんを苦々しく見送っていた村長さんだったけど、やがてため息を1つ吐いて僕達に目を向けた。
「すまんの。あれは小さい頃に二親を亡くしてしもうてな。なるべく不自由はさせんようにと思って育てておったが、気がつけばあんな風になってしまった」
ドンタルさんには他に兄弟などもおらず、ただ1人の孫と思ってついつい甘やかしてしまったのだそう。
まあ確かに、ああいう人が後々このブラウン村の長になるのかと思うと、この村の先行きがかなり不安になってくるところがある。
実際村人からも、前々から彼の素行の悪さに将来を不安視する声が上がっていたらしい。
ただこれについては「キリアと結婚して子供の1人も生まれれば落ち着くだろう」ということで、とりあえずは静観ということになっていたのだそうな。
ちなみにこの話を聞いた際は、アリサとユーナが「妻と子供を、馬鹿につける薬か何かだと思っているのか……?」「生贄じゃないそんなの。逃げたくもなるって……」と静かに腹を立てていた。
とはいえ、依頼で来ただけの僕達が、村の内部事情に口出しするというのもどうかなわけで。
肩を落としている村長さんに声をかけられずにいると、少しして村長さんが顔を上げた。
「それで、あんた方はこれからどうなさるのかな?」
少し休んでいるうちに動揺も治まってきたので、僕はひとまず森を確認してみることにする。
さっき火炎瓶投げちゃったし。
「とりあえず僕、ちょっとだけ森の様子を見て来ます。皆はここで……」
「……っ!!」
僕が言いかけたところに、村の中から響いてきた悲鳴。
何だ!?
僕達は一瞬顔を見合わせると、即座に悲鳴の聞こえた方に向かって走り出した。
行った先で僕達が目にしたのは、
「あぁ、何これ!?何!?」
1軒の家の玄関の前で腰を抜かして悲鳴を上げる女性と、その家からゆっくりと出てくるツタ人間。
……ツタ人間!?
一瞬目を疑うも、目の前にいるのはまぎれもなく、昨晩見たのと同じツタ人間だ。
え、いつの間に村の中に侵入された!?
慌てて僕達や、アーニング氏の護衛達が武器を抜く。
そんな僕達に、それまで地面にへたり込んでいた女性が慌ててすがりついてきた。
「待って!殺さないで!お父さんなんです!!」
「お父さん!?」
お父さんて言った!?
この人のお父さんがツタ人間になったのか!?
「皆離れて!手を出さないで!!」
僕の指示に、他の皆は慌てて飛び退ってツタ人間を囲む。
するとそこに、周囲のあちこちからも立て続けに悲鳴が上がった。
外に出てきた村人がこの事態を目にして叫んだのかと思って見たら、その先で起こっていた事に僕は再び目を疑った。
僕の見た先にあったのは、村内の複数の家から逃げるように飛び出して来る村人と、それを追う様にして中から現れるツタ人間の姿。
ツタ人間が複数!?
てことは、あれも村人の家族がツタ人間になったのか!?
動揺しながらも、僕達は逃げ出して来た村人達を引っ張り集め、彼らを背にかばいツタ人間に向けて武器を構える。
ツタ人間の包囲から一転、今度は僕達が囲まれるような形になった。
現れたツタ人間は全部で4人。
ただ昨晩見たツタ人間みたいに、僕達の方に近寄ってくる様子は無い。
どちらかというと戸惑っているような感じ。
遠巻きに観察していると、ツタ人間達は自分の顔を確かめるように触ったり、お互いに顔を見合ったりしている。
少しの間そうしていたけれど、やがて全員何かに引き寄せられる様に、禁断の森の方に向かって歩き出した。
村人達からは「おい!どこに行くんだよ!?」「お父さん待って!行かないで!!」という声が上がるけど、彼らの足は止まらない。
やっぱり禁断の森に行くつもりなのだろうか。
後を追おうとした村人もいるけど、周りにいた人達が慌てて止めている。
助けることは……難しいか。
少なくとも僕には、彼らを元に戻す方法なんて思いもつかない。
1人だけでも捕まえておくべきか、それとも……
と、とにかく、行く先だけでも確認はしておかないと。
よろよろとした足取りで、でもどことなく足速な感じで歩き去って行くツタ人間達。
僕は皆にこの場に残るように伝え、ユーナと一緒にツタ人間を追うため走り出そう……としたところで、またもや後ろから絶叫が上がった。
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