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26. もり の さいかくにん

よろしくお願いします。

長ゼリフがあります。

「なんとか受けてほしい」「いや無理です」「受けてもらえないなら、この邸宅への滞在は認められない」「なら村の宿屋に移るまで」「報酬が不満なら……」「ゴロゴロゴロ……チェッ(猫の舌打ち)」と話は平行線。



押し問答の末、再度僕達が禁断の森の様子を確認して、そしてその上でもう1度検討し直すということに落ち着いた。


どのみちもう数日村に滞在して、禁断の森の調査をするつもりではいたのでそこは問題無い。


僕達としては森には入らないという方針に変更は無いのだし、調査しました→検討しました→やっぱりダメよ、で済ませても良い。



アーニング氏は「偵察をした上での遠征なら有りだと言っていたというのに……」などと不満を洩らしていたけどそれは仕方ない。


大量の犠牲者が出ている現状を見れば考えとて変わる。




打ち合わせを終えて少しの休憩を挟んだ後、僕達は皆で邸宅を出て禁断の森へと向かった。


昨日も森は見たのだけど、その時は夕方村長の屋敷に行く途中で少しだけ立ち寄っただけだったので、今日は昼のうちに見られる範囲で見ておこうという考えだ。


アーニング氏と、その秘書と護衛の人達も僕達に同行する。


秘書は男性と女性が1人ずつで、それぞれ名前をマルシオさんとアイナさんというらしい。


これに加えて、武装した護衛の人達が5人付く。


これはどちらかというと、禁断の森というよりはブラウン村の血気に逸った人から襲われるのを警戒していると見える。



空は曇り天気ではあるけれどまだ昼間で明るいし、あのツタ人間が森から出て来ることもないだろうとは思う。


まあそれでも警戒を怠るわけにはいかないので、僕達は禁断の森からは距離を取り、元進入防止の柵が設置されていた場所からさらに少し下がって森を観察する。




禁断の森の様子は、昨日とさほど変わりは無し。


昼間で昨日よりも周囲が明るいとはいえ、森の奥がまったく見えないのは同じだ。


予想通り、中からツタ人間が出てくる様子も無い。


後はこれも昨日と同じく、森の中から鳥や虫の鳴き声などは聞こえてこない。


ユーナが気付いた通り、空を飛んでいる鳥達が禁断の森に降りる様子も無い。


鳥達は離れた所の山などには普通に降りたりしているので、やはりこの森の異常さが際立っている。



僕は横で、青ざめた表情で森を見つめているダンさんに尋ねてみた。


「ダンさん、改めて見てどうですか?何か昨日と違うことなどは」


「いや……良くも悪くも、昨日と同じだね。尋常じゃない妖気だ。バラーズさんはさっき入れば報酬が倍と言ってたけど、僕はとても入れないね」


ラルバさんとも頷き合い、「何度も言うけど、本当によく遠征隊はこの森に入れたものだ」と嘆息するダンさん。



実際のところ、遠征隊はこの空気には気づかなかったんだろうか?


遠征隊が入った時は、また違う状況だったんだろうか。


とにかく、今現状わかるのはこんなところか。


エアーナさんや『白と茶のシマリス』の人達にも意見を聞いてみたけど、これ以上は特に思い当たることは無いらしい。




後はどうしよう。


このまま森を監視して、ツタ人間が出てくるところと戻っていくところを確認するか、他は……


ツタ人間の情報がもう少しほしいから、1体捕まえて調べて見るか?。


でもあれが元冒険者ということを考えると、解剖なんていうのもちょっとなあ……


盗賊か何かを森に放り込んで、ツタ人間になって出てきたところを捕まえるか。


それだったら心も痛まない。


そういったことを、僕は冒険者の皆と相談する。


皆の考えも同様で、アーニング氏の護衛の人達も、口には出さないけれど僕の考えに賛成の様子だ。


アーニング氏が、僕達の前に進み出たのはそんな時だった。




アーニング氏は森の入口の祠の側に立ち、森を背にして僕達に向き直る。


「もうそろそろ良いかね?こうしてただいつまでも森を眺めていたところで、どうなるものでもないだろう。改めてお願いするが、もう1度この森に入ってもらえないか?してもらうことは、私が手配する戦力の道案内だけだ。他には望まない」


そんなアーニング氏に、僕は真っ直ぐに目を向けて返答する。


僕の答えは代わらない。


「残念ですが、やはりこの森への第2次探索の道案内というご依頼については、お断りさせていただきます。こうして改めて確認しましたが、ここに入って無事で出てこれるという確信が全く持てません。この森は危険過ぎます。出来ましたら、この森の開発計画についてもご再考いただけないかと、何卒お願いいたします」


そう言って僕は頭を下げるけど、アーニング氏は渋い顔。


「それでは困るのだよ。この計画は既に始まっているのだ。冒険者ギルドにも、もう少なくない額の金を出している。ギルドの方からも、何か言ってもらえませんかね。それだけのものは払っているはずだ」



話を向けられたケウラさんは困った表情で僕を見てくるけど、僕が首を横に振ると息を1つ吐いてアーニング氏に顔を戻す。


「誠に申し訳ございませんが、依頼を受けるかどうかはあくまでも冒険者の判断となります。依頼料の他、今後のことについてはテアレラに戻り次第のご相談とさせていただきたいと思いますので、どうかここはご了承いただけないかと……」


本当なら、指名依頼などで半ば強制的に依頼を受けさせる方法もあるにはあるのだけど、今はそのことについては言わないでおいてくれるらしい。



ケウラさんの返答に、アーニング氏は苦々しく舌打ちをして声を上げた。


「確かに、大勢の犠牲者が出ていることは私も残念に思っている。だがここで止めたら、これまでに死んだ者達は無駄死にになってしまうではありませんか。あなた達冒険者には、そういう死者の無念を晴らそうという気概は無いのですか!出来る出来ないではない、やってもらいます!」


両手を広げて、数歩後ろに下がりながら言葉を続ける。


「君達は危険だと言うが、命を懸けているのは君達だけではない。私だって、この計画に命を懸けているつもりだ。私はね、この禁断の森の開発を足がかりにして、このブラウン村に街道を通したいと思っている。イノン侯国のキーレン市からブラウン村を通り、テアレラ市へつながる大きな街道だ。この道があれば、ブラウン村は確実に発展する。ひいてはテアレラの、いや、スカール公国の大きな発展につながるのだ。どうかわかってほしい。すべてはこのブラウン村の、そしてスカール公国の未来のためだ。そのためにも、この開発計画はどうしても必要なのだ。やらなければならな……」



その時だった。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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