23. まもの の ぶんせき
よろしくお願いします。
一晩明けたところで村長さんの家を辞去した僕達は、アーニング氏の屋敷に戻って一旦休憩。
昼まで休んだところで、改めて集まって今後の打ち合わせをすることにした。
正直皆眠れる気分ではなかったのだけれど、それでも休める時に休んでおかないと後が大変だ。
もっともアリサとユーナの話では、僕に限っては皆を尻目に1人ベッドに丸くなってぐうぐうと寝ていたらしい。
昼前になって起き出した僕達は、邸宅の食堂に集まって昨晩目にしたモノのことを話し合うことにする。
とはいえ……あんなもの見た後で、一体僕達何を話し合えば良いのやら。
何かを言うにしても言い出すタイミングが掴めずに重苦しい空気が漂う中、最初に口を開いたのは『白と茶のシマリス』の重戦士であるトマスさんだった。
「あの、昨日の夜は、すんませんでした。俺、うっかり音立てちまって……」
どうやら昨晩、村長さんの屋敷の母屋から音がしたのは彼が原因だったらしい。
確かに失態ではあるのだけど、一方で不幸中の幸いな部分もある。
「いえ、なんとか対応出来ましたし、あれのおかげで魔物についていくつかわかったこともあります。ただ身の安全に関わることなので、今後は気をつけてもらえれば」
僕の言葉に、トマスさんはもう1度申し訳無さそうに頭を下げた。
「今言った、わかったことというのを教えてもらえますか?」
騎士のエアーナさんの問いかけに、僕は頷いて口を開く。
「まずこの村に現れている魔物の姿については、皆さん見てもらった通りです。人の身体に、植物が混ざったような形。で、おそらくは人間と同じく、目と耳で周囲の物を見ています」
昨晩もかなり近くまで寄ったにもかかわらず、連中は建物の中の僕達には気づかなかった。
ということは、多分臭いなどにはそこまで敏感ではない。
「また、この村にある建物の構造なんかは理解してるっぽいですね。頭はそこまで良くはなさそうですが」
トマスさんが物音を立ててしまって魔物が村長さんの屋敷に殺到した際、連中は玄関や窓などに集まっていた。
つまりは、その場所から出入りが出来るというのを理解していたということになる。
その一方で、僕がボトルを投げて気を逸らした後は、連中は村長さんの屋敷に戻ってくるということは無かった。
そこまで物覚えは良くないということなんだろうか?
「後は、これも聞いた話にありましたが、やっぱり陽の光を嫌がる様で」
連中、夜が明けてきて辺りが見えてくるようになると、逃げるようにして禁断の森の方へと戻って行った。
見ていたところ太陽の光……というよりも、周囲が明るくなるのを嫌がっているような印象を受けた。
これは何かあるのか、それとも僕の考え過ぎか。
「他、力はかなり強いみたいですが、動きは見ての通り鈍かったですね。一般人でも、走れば逃げられそうな程度ではありました。今まで村人が何人か連れ去られているという話ですが、おそらくこれは不意を突かれたか、恐怖とか怪我とかで動けなくなっているところを捕まったものと考えられます」
後はもしかしたら、人を襲う時は動きが速くなるとか、ゾンビのように体力が無尽蔵という可能性もあるので、実際逃げ切れるかどうかというのも軽く判断は出来ないか。
とりあえず思い付くことといったらこんなところ。
僕はそう言って一旦話を切った。
話を聞いて頷くエアーナさんと『白と茶のシマリス』の面々。
皆が思ったことも大体同じらしい。
そんな中、『風の流れ人』の2人が終始俯いているのが気にかかったけど、とりあえずは話を続けてみる。
「そして、一応の確認なんですが、皆さんの中にあの魔物についてご存知の方はいませんか?直接見たことは無くても、似たような話を聞いたことがあるとか、そういうのでも良いんですが」
皆に尋ねてみるも、ケウラさんもエアーナさんも、『白と茶のシマリス』の面々も、ついでに後ろで控えていた屋敷の使用人の人達も、黙って首を横に振るのみ。
そんな中、今までただ黙って俯いて何かを考え込んでいたラルバさんが、ここでぽつりと呟いた。
「……魔物じゃねぇよ」
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