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22. まもの の よる

よろしくお願いします。

村長さんの家に着いた僕達は挨拶もそこそこに、本当に暗くなって奴らが出てくる前にと村長さんの指示で急いで準備をする。


僕とアリサとユーナ、それから『風の流れ人』の2人は屋敷の敷地内にある離れに通され、ケウラさんとエアーナさん、それから『白と茶のシマリス』の4人は村長さん達と一緒に母屋で待機ということになった。



これで一晩明かすことになるわけだけれど、村長さんはじめ村の人達から繰り返し注意されているのが、決して明かりを付けるな、何を見ても絶対に音を立てるな、声を出すな、というもの。


要は人間がそこにいるのを覚られるな、ということである。


僕達の対応としても、今晩については魔物との交戦は無し。


観察と情報収集のみに努め、見つかって襲われてしまったなどのやむを得ない場合以外は、たとえ倒せると判断しても絶対に攻撃はしかけないと打ち合わせで決めている。


なにせ、この魔物にからんで200人からの冒険者が行方不明になっているのだ。


何が起こるかわからない以上、迂闊に手出しは出来ない。



僕達が待機する離れはどちらかというと物置として使われている、あばら家と言ってもいいような建物。


とはいえ、ところどころに開いた穴や隙間から外が見えるので、こういう観察などをする時はこの方が都合が良いと言えるかもしれない。


窓もあるのだけど、窓は魔物が中を覗いてくることがあるので気をつけるように言われている。



今はまだ表には若干陽の光が残っている時刻なのだけれど、魔物が現れるのはもう少し遅く、完全に暗くなってからのことらしい。


そんなわけで、交代で外の見張りをしながら時間を潰す僕達。


そして、聞いていた通りに日がとっぷりと暮れて、辺りがすっかり夜の闇に包まれた頃、それは森の方からやって来た。




「おい……何だよ、あれ……」


「しっ…!」


現れたものを見て、思わず呟いたラルバさんをダンさんが制止する。



数は……100体かそこらはいるだろうか。


予想以上に多い。


それは、頭があって胴体があって、手が2本の足が2本。


2本の足で立って、村の中をゆっくりとした動きで歩き回っている。



あれが、遠征の後からこの村に現れるようになったという魔物か。


一応人間の形をしているとは言えるのかもしれないけど、星明かりに浮かび上がるその姿は明らかに人ではない。




「……っ!」


割合近くまで来た1体の顔を見て、誰かが息を呑む気配がした。


僕の背筋にも、冷たいものが走る。


その魔物の顔の形は醜く崩れ、人のそれとは大きくかけ離れている。


そして体型もあちこち歪。


片足だけが異様に太かったり、胴体と足は普通でも両腕がロープみたいに細かったり。


そんなのが大挙して、低いうめき声のような声を出しながら村の中をうろつき回る。



こいつらは……一体何だ?


歪な人の形をしていて、ゆっくりとした動きにうめき声に……ゾンビ?いや、なんか違う。


よくよく見てみると、歩き回っているモノの身体にはツタや葉っぱなどの植物が絡みついている。


まあ森の中から出てきたのであれば、森の木の葉やツタが身体にくっついてくるというのも十分あり得ること。


でも、にしては何か違和感があるな……?




そんなことを考えながら、息を殺して歩き回っているモノの様子を見ていた僕。


そしてその中の、ある1体に目を留めた時に、僕はそれに気付いた。



あいつは……口からツタが生えてる!?


歩き回っているモノは皆口を半開きにしているので、ツタをくわえているだけというのではない。


そして再度他のモノも確認してみると、顔の、目のあるはずの場所からツタが生えているモノ、鼻や耳からツタが生えているモノ、そしてむき出しの手や足や、服の下からツタが生えてきているモノなどを見つけることが出来た。


それだけではない。


暗いのではっきりとはしないのだけれど、上半身裸になってる奴などを見ると、顔や身体のあちこちの色が変わってまだら模様みたいになってるようなのもいる。



身体から……ツタが生えてる?……というより、身体が植物と混ざってる?


こんな魔物、見たことも聞いたことも無い。


トレントのような木の魔物というのはいるけれど、今僕達の目の前にいる奴らはそんなトレントの特徴とは明らかに違う。


新種の魔物だろうか?


これまでに確認されていない新種の魔物が、あの禁断の森には住んでいたということなのか。


てことは、森が立入禁止になっていたのもその辺が理由?



にしてもあれは、一体どういう魔物なんだろう。


見たところ魔物の多くは服を着ていて、中には鎧をまとっていたり、背中や腰に剣の鞘を帯びていたりと武装している姿のモノも多い。


オークやゴブリンなんかはよく武装していたりするけど、そういった類の人型魔物だろうか。


それとも、ゾンビなどアンデッド系のように人間が変化した魔物だろうか。


待てよ、人間……?


武装した……大勢の人間……


大規模依頼でこの村に来た、冒険者……


僕が魔物の様子を見ながら考え込んでいた時、不意に外から、がたん、という音が聞こえてきた。




誰もが息をひそめる真夜中のブラウン村。


音といえば謎の魔物が立てる鈍い足音と、低いうめき声だけ。


そんな静かな夜の空気の中、その硬い音は一際大きく周囲に響き渡った。



音がしたのは、この屋敷の母屋の方。


魔物を監視していた誰かが、うっかりどこかに触るか何かしてしまったのだろうか。


そしてその物音が響いた瞬間、辺りにいた魔物達の顔が一斉に音のした方へ向いた。


そして周辺にいた10体程の魔物が、音のした母屋の方へゆっくりとした足取りで歩き出す。


魔物達は母屋の玄関や窓の周囲に集まって、ドアや木戸をどんどんと叩いている。


やっぱり話に聞いていた通り、人間がいたら捕まえて森に連れて行こうとしているのか。


魔物達はかなり強い力で叩いている様で、木戸などが大きく軋んでいるのが見て取れる。


場合によっては戸を破られるかもしれない。



このまま手をこまねいているわけにもいかないので、僕は皆に静かにしているよう合図をし、腰のマジックバッグから白ボトルを1本取り出す。


どの魔物もこちらの方を向いていないことを確認し、離れの窓から村の広場の方に向けてボトルを投げた。


地面でボトルが割れる音が周囲に響き渡り、母屋の戸を叩いていた魔物が先程と同じように広場の方に顔を向ける。



魔物達はよろよろと広場の方に歩いて行き、他の方から集まってきた魔物と一緒になってボトルが割れた辺りを歩き回っている。


どうやらこちらの方に戻って来る様子は無さそうだ。


なんとか注意を逸らせたか。



おそらくは今このブラウン村にいる他の人達も、僕達と同じく息をひそめて隠れているのだろう。


僕の隣と後ろではアリサやユーナ、ラルバさんとダンさんが手で口を押さえ、愕然と外の光景を見つめている。




幸いその後魔物達が近寄ってくることはなく時間が過ぎ、やがて夜が白々と明けてきた。


表が明るくなってくると、魔物達は陽の光を嫌がっているかの様に禁断の森の方へと戻って行く。


こうして僕達は、無事に夜明けを迎えることが出来たのだった。


それにしても、怖い夜だったな……

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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