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20. むらびと の はなし

よろしくお願いします。

続いては『風の流れ人』の、ラルバさんとダンさんからの報告。


2人には現在村に残っているお年寄りを中心に、禁断の森について言い伝えられていることなどを聞き込みに行ってもらっていた。



「とはいってもな。こっちも正直、ほとんど何もわかんなかったぜ?」


「やっぱり、禁断の森に入っちゃいけない理由なんかは皆知らなかったね。ただ年寄りってことで、昔話とか体験談みたいなものはいくつか聞けたかな」



何分先方が年配者の上、こちらに良い感情を持っていない人も多いということで無意味に怒られたり説教されたり、話が長くなったりと色々大変だったらしい。


でもその辺は穏やかな性格のダンさんが、辛抱強く相手の話に付き合って色々と聞き出してくれたのだそう。




聞けた話の内容としては、主にこの村で昔起こったこと。


「子供の頃にあったらしいこと」や「子供の頃に聞いた話」などで、どれもかなり漠然としたものばかりではあったのだけれど、それでも今の僕達にとっては貴重な情報だ。


話は主に「言い伝えを信じない若い者が数人連れ立って禁断の森の中に入って行き、それきり出てこなかった」という内容が多い。


他には「遊んでいた子供が禁断の森に近付いてしまい、そのまま行方がわからなくなった」とか、「飼っていた犬がある日ぷっつりと姿を消してしまい、直前に禁断の森の方に走って行くのが目撃されていた」とか。


後は「いなくなった人を探しに禁断の森に入った人も、2度と帰ってこなかった」といった後日談が付いた話もあった。


それ以外では「夜中に禁断の森の方から、足音やうめき声が聞こえてきた」なんて話もあったらしいけど、これは森の中の獣や魔物の可能性もある。



こういった話から推察出来るのは、どうやら禁断の森は入ったらいけないのではなく、近付くだけでも危険らしいということか。


やっぱり禁断の森には、森の中を縄張りにしている強力な魔物が何かがいるということなのだろうか。


いずれにしても僕達は禁断の森には入るつもりは無いし、近付くだけでも止めておいた方が良さそうだ。




続いては『白と茶のシマリス』の4人からの報告。


彼らにはこの村に1軒だけあるという宿屋を中心に、酒場や集会所など、人の集まる所を中心に聞き込みをしてもらった。


人の集まる所とはいっても、現在この村は住民の大部分を避難させていてあまり人が残っていない。


加えて何よりも『白と茶のシマリス』の人達はこんな聞き込み調査なんてしたことがなかったということで、かなり戸惑いもあって苦労していたとのこと。



ちなみに、僕達と同行してきた人達は、僕が3級とはいえそれよりもランクの高いユーナや、元軍人として指揮に慣れている感のあるアリサを差し置いて、年若い僕が指示出しをすることにやや当惑していた様子だった。


ただそれも、ブラウン村に向かう途中の野営地での僕とアリサの基礎鍛錬と模擬戦の様子を見てからは、そうした困惑の気配も無くなっている。



「宿屋で話は聞いて来たんスけど、主人は何年か前に病気で死んで、今は女将がやってるみたいス。宿の女将もまだ30そこそこの歳で、しかも他所から結婚してこの村に来た人みたいで、昔のことはよく知らないって言ってました。それから酒場は宿の中にあったんスけど、俺達が行った時は客はいませんでした。この騒ぎになってからは、夜は誰も出歩かないみたいで」


僕や『風の流れ人』の聞き込みでもそうだったのだけれど、この村に出るようになった魔物については、尋ねても皆言葉を濁すばかり。


これは言いたくないというよりも、どう説明したら良いのかわからないといった様子ではあった。


ただ、魔物は夜になると禁断の森から現れる、日が昇ると森に戻って行く、村人が何人も連れ去られている、だから夜には決して外に出るんじゃないといったことは、話を聞いた全員から言われたことだった。


そんな状況なので、村に残っている人達も夜に酒場で酒盛りなんてことも出来ないし、宿には閑古鳥が鳴いている状態とのこと。



『白と茶のシマリス』の4人としては、宿屋での聞き込みと合わせて周辺にいた人達にも話を聞いてはみたのだけど、昔話や魔物については特に目新しい情報などはなかったらしい。


一方で聞けたのが、村に来る途中のケウラさんの話にも少し出てきた村長のラーズ家と、アーニング氏の家であるバラーズ家の対立の話。




元々どういう経緯があって2家が反目し合うようになったのかは宿の女将さんも知らないみたいだったけど、その争いはここ数年、アーニング氏のバラーズ家側がかなり優位に立っていた。


村長さんのラーズ家はもう既に形骸化しているとはいえ貴族の家系で、何代もの間ブラウン村を治めてきたという実績を持っている。


しかしこれに対して、いかに今は平民の身分で昔は煙たがられていたとはいえ、村にわかりやすくお金をもたらしてくれる人がいるとなれば、利のある方に付くのが人の常。


幼い頃に祖父と両親に連れられ、半ば逃げ出すようにして村を出て行ったアーニング氏が大商人として凱旋した時には、それこそ村人達が諸手を挙げての大歓迎だった。


開催された宴会の席では、「次の村長はアーニング坊で決まり」などと、村長に聞こえよがしに言う者までいたらしい。


事実、アーニング氏は自費でリントンの町とブラウン村を結ぶ街道を整備したり、不作の年は村人の畑の野菜を高額で買い取ったりと、かなり精力的に活動していた。


実際その恩恵は非常に大きく、このままいけば次の村長はアーニング氏であるというのが、村人の大半の共通した認識であったという。



となると当然面白くないのが、村長のラーズ家派の人達である。


特に村長の孫であるドンタルさんという人は相当に腹を立てており、バラーズ家派の人達とのいがみ合いや暴力沙汰が、一時期ブラウン村の中で頻繁に発生していた。


村長の息子夫婦は数年前に亡くなっており、何事も無ければ普通にドンタルさんが次期村長と目されていたところに強力な対抗者が現れたわけで、まあ焦るのも当然と言える。


さらには、ドンタルさんの幼馴染で許嫁でもあったキリアさんという女性が、短気で粗暴な性格のドンタルさんを見限ってアーニング氏の下へ走った。


彼女の行動については村内では「ドンタルの暴力から身を守るためやむを得ないことだった」「夫の欠点を支えるのも嫁の役目であり、彼女はそこから逃げたダメ女」と評価が分かれている。


彼女はそのままアーニング氏の夫人に納まり、現在は子供も1人いるとのこと。


これにはドンタルさんも大荒れで、「屋敷に乗り込んでアーニングもキリアもブッ殺す!」なんて大声で騒いでいたこともあったらしい。


そのキリアさんと子供は、この事態が起きてから彼女の家族も含めて早々にアーニング氏がリントン市へ避難させているそうな。


これは魔物もさることながら、どちらかというとドンタルさんに害されることを危惧しての措置ではないかというのは、僕の考え過ぎだろうか。


『白と茶のシマリス』の人達が集めてきた話は、こんなところである。



「小さな村だが、それでも色々とあるものなんだな」


「なんか、イメージと違ったね」


「小さな村『だが』ではなく、小さな村『だからこそ』ですね。何か1つ揉め事が起きるとそれが延々と、何代にも渡って尾を引いたりするんです」


思いの外ドロドロとした話を聞いて、アリサとユーナとケウラさんが小声で喋っている。




最後に、そんなアリサとユーナが聞き込みに行ったのは、村の青年団の所。


先程話にも出た村長の孫のドンタルさんが団長を務めていて、村内の警備や土木工事、畑の開墾などを村人の中心となって行う集まり。


僕達がこの村に入ってきた時、僕と村長さんが話しているのを少し離れた所から睨みつけていた、若い人達の集団が彼らだ。



「いや酷かったね」


「青年団なんて言うが、ごろつきみたいな連中だったぞ」


結論から言うとこの人達が一番非協力的な態度な上、特に禁断の森についての情報なども持ってはいなかった。


一方で美人のアリサとユーナの身体を下卑た視線で眺め回したり、このままこの村に残って俺達の嫁に来いとしつこく口説いてきたりもしたのだとか。


最終的にそんな連中の態度に辟易としたアリサが、側の地面に転がっていた石を取り上げて握り潰して見せたら、全員青い顔で何も言わなくなったのだそうな。


アリサとユーナが口説かれたということで連中に祟ってやろうかとも思った僕だったのだけど、その話を聞いて少し溜飲が下がった。



皆が集めてきた話としては、以上となる。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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