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19. そんちょう の はなし

よろしくお願いします。

アーニング氏の家は、ブラウン村の家々が集まった所からは少し離れた、小高い丘の上に建てられていた。


ケウラさんから話に聞いていた通りの大きな邸宅で、いかにも大富豪ですという存在感と、周囲への威圧感を放っている。


造りも都会風で正直に言うと、この田舎の村の風景にはかなりミスマッチ。



まあ快適な滞在先があるというのはありがたいことだし、連絡も無しに突然来た僕達を泊めてくれるというのに文句なんかは言えない。


邸宅の周囲は頑丈そうな塀に囲まれているので、僕達と同じく滞在する荷馬車や、その馭者さん達が危険に遭うこともなさそうだ。



僕達の部屋は来客用の寝室で、中のドアでつながった2つの部屋に、ベッドが2台ずつ並べられているという非常に豪華なものだった。


他の部屋も大体同じ造りというのだから、アーニング氏の力の入れ様が見て取れる。


そのアーニング氏だけど、僕達が屋敷に着いてからは奥の自室に引っ込んだっきり顔を見せない。


商会の仕事が忙しいのだろうか。




屋敷の中に案内されて、通された部屋に荷物を置いた僕達。


少し休憩したら、皆で屋敷のロビーに集まって食事をしながら今後のことを話し合うことにする。


この村に来る途中で打ち合わせてはいたのだけど、まずは禁断の森と、今ブラウン村に現れているという魔物について知らなければならない。


先程の村の様子を見るに、その魔物というのも今すぐに襲ってくるようなものではなさそうだ。


というわけでまずは村人達から話を聞く必要があるということで、食事と打ち合わせを済ませた僕達は、それぞれ分かれて村内に散らばって行った。




ブラウン村の本来の人口は約300人とちょっと。


でも現在村にいるのは、大体50人程といったところらしい。


話にあった謎の魔物が現れるようになってからは、女性や子供を中心に村民の大部分を実家のある他村やリントン市などに避難させていて、今ブラウン村には若い男性を中心にこの村を守りたいと希望する人や、体力的に移動が厳しかったり家を離れたくないという年寄りなどが残っているのだそう。


他、この村に魔物が現れるようになった際に応戦して負傷し、家で寝込んでいる人が数名。


後は先日の、禁断の森探索の遠征隊に付いて一緒に森に入って、そのまま出て来なくなった人もいる。



そういったこともあって、情報収集に村内に繰り出した僕達に向けられる村民達の目は、かなり厳しいものがあった。


アーニング氏が禁断の森の開発なんてことを考えなければ、そして冒険者ギルドがそんな話に乗らなければ、こんなことにはならなかったというわけだ。



そんな村人達の険悪な態度やたまに向けられる怒りの声に悩まされながらも、半日程かけて出来る限りの話を集めて回った僕達。


こういうことは初めてになる『風の流れ人』や『白と茶のシマリス』の面々はかなり戸惑っていたし、実際話を聞くのにもかなり苦労はしていたみたいだった。


騎士のエアーナさんやギルド職員のケウラさんなどは「冒険者って、こういうこともするんですね」「ある程度の情報収集はしますが……彼らはかなり念入りですね」と珍しそうに話をしていた。




僕達は事前に取り決めていた通り、日が傾いてきた頃にアーニング氏の屋敷に戻り、夕食前に皆で集めてきた情報のすり合わせをする。


元は僕が言い出したことなので、自然と僕が音頭を取る形となった。



というわけで、最初は僕から。


「それじゃ皆さん、禁断の森についての情報収集ということで、ご協力いただきありがとうございます。これから聞いてきてもらった話を皆さんにしてもらおうと思うんですが、まずは僕から報告しますので、よろしくお願いします」


僕と、今回の調査に同行した騎士のエアーナさんが聞き込みに行ったのは、ロロカイ村長さんとその周辺の人達。


村長さん本人はどちらかというと積極的に話を聞かせてくれたし、周囲の人達からは当然敵意は向けられたものの、何かあればその度に村長さんが制止してくれたので、そこまで聞き取りに苦労することはなかった。



「結果から言うと、村長さん達も禁断の森の中に何があるのか、なぜ立入禁止になっているのかについては知らないみたいでした」


禁断の森については、村長さんのお爺さんのお爺さんのお爺さんのそのまたお爺さんの……と、とにかくえらい昔から「絶対に立ち入ってはならない」と言い伝えられている土地。


でもその入ってはならない具体的な理由などは、村長さんの家にも残ってはいないという話だった。


これは「長い年月が経つうちに次第に忘れ去られていったのだろう」との、村長さんの見解。


古くから伝えられている書物や文献、あるいは昔の人の日誌などはないか、あれば何か書き残されていたりしないかとエアーナさんからも尋ねてはみたのだけれど、そういったものもどうやら無い様子。


聞けば何代か前にこの地域一帯が酷い飢饉に襲われた際、食料の買い入れのために当時の村長が家の蔵にあったものを一切合財売り払ってしまったことがあったらしく、もし何かあったとしてもその際に失われてしまった可能性が高いとのこと。


ただ村長さんの立場から、このブラウン村がそもそも禁断の森に人を立ち入らせないための、いわば守り人のような役割で作られた村なのではないかというのは、今回の一件もあって感じていたのだそう。



続いて僕からは、今この村に現れているという魔物についても訊いてみたのだけど、それについては「学の無い儂らが話すより、実際に見てもらうのが良い。夜になればわかります」とのことだった。


「そんなわけで今夜、暗くなったら村長さんの屋敷に行って、そこで魔物の確認をさせてもらう許可を取ってきました。この話が終わったら皆で移動しましょう。その時ついでに、ちょっとだけ禁断の森も見て行きますか」



そう言って報告を終えた僕にダンさんが「手際の良いことだなあ」と苦笑いを向けてきた。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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