18. そんちょうと の あいさつ
よろしくお願いします。
アーニング氏については、とりあえずはケウラさんから説明をしてもらうしかないだろう。
もしどうしても森に入れとかなんとかごねる様であれば、僕達は「協力が得られなかったので依頼遂行不可能」と言って帰るだけだ。
まあそれはあくまでも最後の手段なので、とりあえず僕はまだこちらに険しい目を向けているロロカイ村長さんに近寄って、話を聞いてみることにする。
「突然お仕事の邪魔をして申し訳ございません。僕は3級冒険者のコタロウと申します。先日、こちらにお伺いした冒険者の遠征隊の現状確認と、現在この村で起こっている事態の調査を冒険者ギルドから依頼されて来ました。この度は皆さんに多大なご迷惑をおかけしている中、他の皆共々村への滞在をお許しいただき誠にありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げると、村長さんは少し驚いた様に目を見開いた。
「ほう、この間の冒険者達は、ろくでもない態度の人も多かったが、あんたは礼儀をわかってらっしゃる。それに見たところお若い様だが3級とは、さぞかしギルドからも期待されているのじゃろう。今ここにいるということは、あんた方はあの、禁断の森に入るという話は受けなかったんですかな?」
「はい。一応話だけは聞きましたし依頼参加の要請もあったのですが、入ってはいけないと言い伝えられている場所なら、やはり無闇に立ち入るべきではないと考えて辞退しました。一緒に来た彼らも、同じ理由で辞退した者達です」
そう言って僕は、アリサとユーナと、『風の流れ人』と『白と茶のシマリス』の面々を村長さんに紹介した。
ただ僕は正確には、大規模依頼の説明会では「立ち入ってはいけないと言われている場所に入るならもっと情報を集めるべき」と言ったのであって「入るべきではない」などとは言っていないし、『白と茶のシマリス』の面々にいたっては説明会に参加すらしていなかったのだけど、その辺りは黙っておく。
ここで変に揉め事を増やしても仕方ない。
僕の言葉を聞いて、村長さんや後ろで聞いていた村人達の態度も少し和らいだ気配がする。
「しかし……」と、またここで村長さんの表情が難しいものに変わった。
「さっきのアーニング坊と同じことを訊きますが、冒険者は、あんた方で全員なのかな?今起きていることを解決するには、ちょっと少な過ぎると思うが……」
「それについては、こちらも先程の繰り返しになりますが申し訳ないとしか言えません。僕達自身、この戦力で事態の収拾が出来るとは思っておりませんし、何よりもここに来てさあ追加で禁断の森に入りましょうでは、なんの意味もなくなってしまいますから」
「では、あんた方は一体何をしに、こんな所まで来たんですか」
「遠征隊に何があったのか、そして今この村で何が起きているのか、その調査に来ました」
僕の予想にはなるのだけど、おそらくはこの一件、最終的には国に報告を上げて、軍などで対応してもらうことになるのではないかと考える。
テアレラ市のギルドにはもう事態収拾が出来るだけの戦力は残ってないだろうし、近隣の町のギルドから人を集めるとしても限界はあるだろう。
どんな形になるにせよ、そのためにもまずは今この村で起きていることと、何よりも遠征の後から現れるようになったという謎の魔物の確認をしなければ始まらない。
そのための状況確認要員として、軍から騎士さんも1人この場に来ている。
といったことを、僕から村長さん達に説明する。
後ろの村人達からは「じゃあ、まだしばらくこれが続くってのか?」とか「それじゃ、お父さんは!?」といった声が上がるけど、その人達は村長さんが制止する。
でもその村長さんも、相変わらず僕達に向ける顔は厳しい。
それにしても今のこの村、ついさっき入ってざっと見た限りにはなるのだけど、魔物に襲われているにしては妙に生活に余裕があるように見える。
そこまで切羽詰まってはいないということなのだろうか?
魔物は出るけど、人を襲うようなものではないとか。
でも村人にも被害が出ているという話だったし、さっき「家族が連れて行かれた」なんて声も聞こえてきたし、どういうことなんだろう。
これらについては、後で詳しい話を聞いてみよう。
少しの間黙って考えていた村長さんだったけど、やがて重々しく口を開いた。
「わかりました。儂達の望みは、1日も早く元の暮らしに戻れること、ただそれだけです。出来るだけ急いでの対応を、お頼みします」
「ありがとうございます。力を尽くします」
僕はお礼を言って、続いてこの後村の言い伝えなど禁断の森についての話を村人達に聞いても良いか尋ねると、それには了承をもらえた。
ただし、今回の遠征の一件で村人達は冒険者にかなりの悪感情を抱いている、訊いたところで答えてくれるかどうかはわからないぞとのことだった。
そうしているところに、離れた所で話し込んでいたケウラさんとアーニング氏が戻って来た。
話し合いの結果、僕達がこの村にいる間はアーニング氏の家に滞在する許可をもらえたということで、一行はまずは荷物を置きに移動することとなる。
村長さん含め、村人達からの視線は概ね好意的とは言えないものであったのだけれど、その中で1つ。
村長さんの側からは少し離れた所で固まっている、若い人達10人程の一団が僕達を睨みつけている眼差しが、なんとなく気にかかった。
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