17. むらびと の ふんがい
よろしくお願いします。
ブラウン村に着いた僕達を最初に出迎えたのは、村内で野良仕事をしていた村人達の憤りのこもった視線だった。
荷馬車から降りた僕達を見て、村の入口付近にいた数人が村の奥へと走って行く。
少しの間待っていると、やがて杖を付いた年配の女性を先頭に十数人の村人が奥から出て来て、僕達の前をふさぐようにして立った。
どう見ても友好的な雰囲気ではないけど、まあ経緯を考えれば当然の話ではあるか。
彼らに対して、ギルド職員のケウラさんが年配女性の前に進み出た。
「お忙しいところ失礼します。私は冒険者ギルドテアレラ支部の職員でケウラと申します。この度は先日お伺いした遠征隊の安否確認と、この村で起きていることの調査でお邪魔しました。失礼ですが、村長様でいらっしゃいますか?」
「ええ、儂がこのブラウン村の長のロロカイです。冒険者ギルドの方、この度は大変なことを仕出かしてくれたもんですなぁ」
ケウラさんの挨拶に静かな、しかし怒りを押し殺した声で答えるロロカイ村長。
高齢で嗄れた声をゆっくり目で話すけど、かくしゃくとした感じの人で言葉遣いははっきりとしている。
そんな村長に、ケウラさんは深々と頭を下げる。
「今回のことにつきましては、お詫びのしようもございません。先日ご連絡をいただきまして、私達もこの事態の把握と、出来れば解決のお力になれないかと考えてお伺いした次第です。どうかしばらくの間、村への滞在をさせていただきたく、お願いします」
「……」
再度頭を下げてお願いするケウラさんを、ロロカイ村長は冷たい目で見返している。
そこに、村長の後で控えていた村人達から声が上がった。
「ふざけるな!お前達のせいで村が今大変なことになってるんだぞ!」
「禁断の森に入るからこんなことになるんだ!」
「私の家族が連れて行かれたわ!どうしてくれるの!」
「今すぐ出ていけ!!」
口々に僕達に怒号を浴びせる村人達。
トマスさんが前に出て言い返そうとするも、アリサとラルバさんが制止する。
聞けば遠征隊が禁断の森に入ってからこの村に謎の魔物が出現するようになり、村人にも被害が出ているらしい。
であれば、彼らの怒りももっともなことなのだ。
そんな彼らを村長の「止めるんじゃ!」という声が一喝する。
村人達の怒声が治まったところで村長は僕達に向き直り、静かな声で告げた。
「話はわかりました。この村への滞在を認めます。1日でも早く、今起きていることの解決を、お頼み申します」
「村長!」
村人達の咎める声に、村長は冷静な口調で返す。
「今夜もまたあれは来るんじゃぞ。儂達の力ではあれはどうにもならんことは、皆よくわかっているじゃろう。それに、この中にも禁断の森を開拓するという話に賛成して、あの探索に来た冒険者達を歓迎していた者がおるではないか。儂達にも責任はある」
そう言って村人達を諌めた村長。
でもすぐに「しかし」とこちらに向き直る。
「儂達が納得しているかどうかは別ですじゃ。今回の件、バラーズ家のアーニング坊と、そしてあんた方が事の始まりであったのは間違い無い。村の中にも、冒険者達と一緒に森に入ってそれきり出てこない者もおる。夜毎来るあれに連れ去られた者もおる。あんた方を歓迎などは出来んということは、わかってもらいたい」
「承知しました。お願いを聞いていただき、ありがとうございます」
村長の言葉に、謝意を込めてまた深々と頭を下げるケウラさん。
そこに、
「おお、来てくれたか!」
と、村の中から声が飛んできた。
見ると先日会った、この大規模依頼の依頼主であるアーニング氏が、数人のお供を連れてこちらへ早足で向かってきている。
村人達の怒りの視線の中駆け寄ってきたアーニング氏は僕達全員を見回すと、拍子抜けした顔で言った。
「これだけか?」
そんなアーニング氏の前に、ケウラさんが進み出る。
「冒険者ギルド職員のケウラです。誠に申し訳ない限りなのですが、先日の遠征で大勢の冒険者がいなくなってしまったもので、現状集められたのはこれが精一杯でした。まずはこの人員で事態の確認を行い、その上で対応を検討させていただきたいと、ギルドでは考えております」
「いやしかし、他の町の冒険者ギルドに連絡して増員をよこしてもらうとか、色々手はあるだろう。連絡が行っているとは思うが、今は緊急事態なのだ。またあの森に入るのに、たったこれだけの人数では……」
……待て、今この人、またあの森に入るって言ったか?
200人からの冒険者がまとめて行方不明になるような森に、まだ人を突っ込もうとか考えてるのか?
当然だけど今回僕達は、禁断の森には入らないし近寄らないことを条件にこの依頼を受けている。
僕達が氏に険しい視線を向けるのを見て、ケウラさんは慌てて「す、すみません。ちょっとご相談が……」とアーニング氏を連れて、少し離れた所まで足早に歩いて行った。
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