15. どうちゅう の ちょうしゅ
よろしくお願いします。
冒険者ギルドが手配した荷馬車2台に乗って、ブラウン村へと向かう僕達。
現在先を進む1台目の荷馬車には僕とユーナと『風の流れ人』の2人、それから同行するギルド職員のケウラさんが乗っている。
後に続く2台目の荷馬車にはアリサと『白と茶のシマリス』の4人。
アリサには『白と茶のシマリス』の人達と打ち解けてもらうのと、彼らの実力レベルの確認を頼んでいる。
彼らのやけに可愛らしいパーティ名は、聞くところによると女性陣の頑強な主張の賜物らしい。
あのパーティ内での力関係が窺える話だ。
あのサムさんとトマスさん、もしかしたら僕と同じ位の立ち場なのかもしれない。
なんとなく親近感が湧く。
そして僕達は僕達で、皆で今後の打ち合わせ……というより、ケウラさんを囲んでギルドの現状の質疑応答みたいな状況になっていた。
「僕達に依頼の話があった後、ブラウン村からは何か新しい情報は入ってきていませんか?」
「いえ、あの後は特には……近くにあるリントンの町からはブラウン村への行商が出ているので、そこまで行けば何かわかるかもしれません」
「ギルドマスターの様子はいかがですか?」
「それも相変わらずで……ただ、食が細くなってきている様だというのは聞いています。差し入れている食事が、手付かずで返ってくることも増えているみたいで、皆心配しているのですが」
部屋の中からは相変わらず歩き回っているような気配はするものの、特に事態の進展などは無いらしい。
「これから行くブラウン村というのは、どういう所なんですか?田舎で、村内に『禁断の森』があるというのだけは聞いているんですが」
「そうですね……はっきり言ってその通りで、田舎の村と言ってもいい所だと思います。ただ村として、羽振りはむしろ良い方なんです。というのも……」
ブラウン村は人口300人程の、規模としてはそこそこの村。
山間の辺鄙な場所にある村ではあるのだけど、別段偏屈で排他的というわけでもなく、リントンの町をはじめとして近隣の町や村との交流も普通に行われている。
昔は特にこれといった産業も無く、村の中で自分達が食べる分と売ってお金にする分の麦や野菜を作りながら、『禁断の森』をひっそりと守り続けてきたという、そんな所だった。
そんなブラウン村なのだけれど、実はこの村には、昔から対立を続ける2大勢力が存在する。
1つは遠いながらも貴族の流れを汲み、代々この村の村長を務めてきたラーズ家。
もう1つはラーズ家の分家筋に当たり、現状本家を上回る財力を持ち、大規模依頼の依頼主であるアーニング氏が出身のバラーズ家。
2家は、今ではもう実質平民の扱いではあるのだけど、貴族の末裔ということで半ば形骸化していながらも、名字を名乗ることが許されているらしい。
2家の仲違いが始まったのはもうだいぶ昔の話であり、具体的に何が原因でいがみ合うようになったのかは、ブラウン村の出身というわけではないケウラさんにはわからない。
元々は両家の争いも、由緒ある本家の家柄であり、長年村長を務めてきている上に多数の田畑を所有するラーズ家が優勢であった。
そこでさらに、先々代のラーズ家の当主が持っていた土地で果物の栽培を始めたところこれが当たり、いよいよ追い詰められて村内に居場所の無くなったバラーズ家は、一家まとめて村を出ることとなってしまった。
ところが町に出たことで、先々代のバラーズ家の当主であるフランクリン氏が始めた商売が大成功。
自らの商会を立ち上げる程の商人へと成長する。
そしてフランクリン氏の孫で現在の当主であるアーニング氏は、莫大な財産を手土産に村へと凱旋し、当てつけのつもりか村内にラーズ家の屋敷を上回る大きさの御殿を建ててみせたのだそう。
当然、ラーズ家とラーズ家に親しくしていた人達は危機感を募らせるわけで。
そういうわけで、ブラウン村はここ数年そんなラーズ家派とバラーズ家派に分かれて、かなりギスギスしている状況とのこと。
田舎暮らしというのも中々に大変なものだ。
「なので、詳しくは現地に到着してからの交渉になるのですが、皆さんにはバラーズ様の家に泊まっていただくことが出来ればとは考えています」
例の、村長の家よりも大きな御殿か。
快適な宿があるというのはありがたいことだ。
でも待てよ、それだったら……
僕はふと思いついたことを、ケウラさんに尋ねてみる。
「ブラウン村に宿屋ってあります?」
「え?ええ、小さいですが、酒場を兼ねた宿屋が1軒だけあったはずですが……」
なるほど、それなら……
「僕達ちょうど3組いるので、1組がバラーズ家に、1組がラーズ家に、もう1組が宿屋に泊まるなんてことは……出来ませんかねえ?」
「いやそれは……さすがに難しいと思いますよ。こちらは何の事前連絡もしてませんし、特にラーズ家は今回の一件で、我々に対してかなりのお怒りが予想されます。そこで急に行って泊めてくれというのは……」
やっぱり駄目か。
それぞれの家から少しでも情報を集められればと思ったんだけどな。
まあ無理なものは仕方ない。
ただ、なんだったら僕だけ1日か2日くらい宿屋に泊まるというのもありかもしれない。
宿の人から何か話が聞けるかもしれないし。
話が途切れたところで、続いてラルバさんがケウラさんに話しかけた。
「それにしてもあんた、随分とブラウン村に詳しいね。もしかしてあんたもブラウン村の生まれかい?」
「ああいえ、私はこの先にあるリントンの出身です。ブラウン村からは1番近い町なのと、実家が商売をやっているので、何かと交流があって」
「なるほどね、ブラウン村に詳しかったから今回の役目を任されたわけか」
ダンさんの言葉に、ケウラさんは困り顔で首を横に振る。
「任されたと言いますか……他に手を挙げる者がいなかったので、やむを得ずという感じですね」
ああ、副ギルドマスターは本人の志願なんて言ってたけど、実際はそういうことだったか。
ラルバさんに、「あんたも大変だなぁ」なんて言われて、ケウラさんは苦笑いを浮かべていた。
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