14. ぼうけんしゃ の かおあわせ
よろしくお願いします。
冒険者ギルドから、大規模依頼の遠征隊の追跡調査を依頼された翌日の朝、僕達は再びギルドに顔を出して調整の結果を問い合わせてみた。
奥から飛び出して来たワック副ギルドマスターに昨日と同じ部屋に案内され、そこで話を聞くことに。
話としては、まずは依頼の内容について。
依頼の仕事は、第1にブラウン村へ行って遠征隊の安否と村に起こっていることの調査。
第2に、可能であれば事態の解決。
村人との折衝や苦情対応のため、ギルド職員が同行するのには了承で、現在はその人員1名の調整中。
報酬については若干の変更が発生し、第1目的の調査の完了で金貨1枚。
第2目的の事態解決で金貨5枚。
村の調査だけで金貨5枚よこせとは流石に言えないので、これについては特に問題は無い。
後は僕達の要望が、概ね受け入れられた内容と言えるだろう。
他に、僕達の補助として冒険者パーティが2組付く。
総勢で10人程の調査隊が組織され、その中でランクの高い僕達が隊の指揮を執る、という形を、ギルドとしては考えているらしい。
そうした体裁で、なんとか依頼を受けてもらえないかと再度副ギルドマスターから懇願された僕達。
やりたくない気持ちは相変わらずなのだけど、とはいえこちらから条件を出した上でここまで譲歩してくれている状態で、やっぱり断るというのも心苦しい気持ちもある。
そんなわけで僕とアリサとユーナと3人、いつものごとく部屋の隅で円陣を組んで相談の結果、危険を感じたら即撤退することを念押しした上でこの依頼を受けることにした。
僕達の回答を聞いて、ホッとした表情を浮かべる副ギルドマスター。
この後は、現地までの物資や移動のための荷馬車の手配や、声をかけていた冒険者パーティへの正式な依頼に、同行するギルド職員の調整とがあるので、現地へ出発するのは明日の朝の予定なのだそう。
ならば僕達も、今日1日で必要なものの準備をすることにする。
て言うか、そもそも何が必要になるのかがわかってない状況なのだけれど、それでもやれることはやっておかないと。
翌日の朝に冒険者ギルド前に集合し、冒険者達と顔合わせの後にブラウン村へ向けて出発ということに予定を取り決めて、僕達はギルドを辞去することにした。
そのさらに翌朝、僕達は前日の打ち合わせの通りに、冒険者ギルドの前に集合した。
受付に到着を報告してからギルド支部の建物の前で少し待っていると、建物の中からはワック副ギルドマスターと職員達、街からは依頼に同行する冒険者パーティと、運輸ギルドから来た荷馬車が2台合流する。
「よう、しばらくだな!」
「おはよう、今回はよろしくね」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
やって来た冒険者パーティの片方は、先日の大規模依頼の説明会の時に会った4級パーティ『風の流れ人』のラルバさんと、その旦那さんのダンさん。
「おはようございます。迷惑かけないように頑張るんで、よろしくお願いしますッス」
もう片方は『白と茶のシマリス』という、ランク5級のパーティ。
真面目そうな顔で、両腕に籠手を付けた武闘家のサムさんをリーダーに、大きな盾とメイスを背負った重戦士のトマスさん、スカウトのジェナさんと弓使いのエイミーさんの、男2人女2人の4人パーティだ。
それにしても5級か。
これだけの事態が起きているんだから、3級は無理にしても4級のパーティは出して来ると思ってたんだけどな。
まあ今はギルドも忙しそうだし、急なことで人が捕まらなかったのかもしれない。
なにせ僕達がそれで捕まってしまった口だし。
そして最後にもう1人。
「おはようございます。よろしくお願いします」
軍から派遣された騎士さんが1人。
名前はエアーナさんといって、アリサやユーナと同じくらいの年齢の女性騎士。
金属鎧を着込んで腰に長剣を下げている、見た感じでは良くも悪くも平均的な、年相応の使い手といった印象の人だ。
今のところテアレラ市や、ブラウン村の近くにある町や村へ被害が及ぶ可能性は少ないものの、冒険者200人という大人数が消息不明となっているのは事実。
何が起きているか、軍による対応が必要かどうかの確認は必要だろうということで軍から派遣され、現地の状況確認のために僕達と同行することになった。
先の遠征隊には、冒険者ギルドからの要請を受けて教会から神官が数名、治療(兼埋葬)要員として参加していた。
当然、その神官達も現在消息不明となっている。
軍には教会からそんな彼らの安否確認の依頼も寄せられており、それもあってのエアーナさん同行らしい。
僕達は合流した皆と軽く挨拶を交わし、ギルド職員達に向き直るとワック副ギルドマスターが口を開いた。
「皆さん、おはようございます。この度は依頼を受けていただきありがとうございます。現地のことについては私達も現状、ほぼ何もわかっていない状況でして、不安な気持ちもあるかと思いますが、どうかよろしくお願いします」
挨拶をする副ギルドマスターの横では、一緒に出てきたギルド職員達が、用意してあった荷物を荷馬車に積み込んでいる。
「それから、ご要望のありました同行させていただくギルド職員を紹介します。名前はケウラといいます。彼のことも重ねてよろしくお願いします」
副ギルドマスターに紹介されて前に出て来たギルド職員は、年齢は20代半ばくらいで痩せた身体つきの若い男性。
硬い表情で僕達を見て「よろしくお願いします」と一礼をした。
そんな彼を見て、ラルバさんが声を上げる。
「現地の村の人達との交渉やなんかは、その人がやってくれるってことで良いのかい?こう言っちゃなんだが、大丈夫なんだろうね?だいぶ若いみたいだが」
彼女の言葉に、頷く副ギルドマスター。
「確かにまだ若輩ではありますが、非常に熱心で頭も良く、先の見込んでいる職員です。何よりも今回は本人から、ぜひ行かせてほしいという強い要望がありましたので、その希望に沿う形で同行が決まりました。皆さんのご迷惑などにはならないよう心がけますので、どうかお願いいたします」
「……ふ〜ん」
副ギルドマスターの言葉に、ラルバさんは何か言いたいのを我慢するような表情で口を閉じた。
ここまでで僕達からは他に質問などは無いことを確認して、ワック副ギルドマスターからは簡単に今回の依頼の説明がされる。
内容としては、先日僕達が聞いていたこととほぼ一緒。
ブラウン村へ行って、連絡の取れなくなった遠征隊の安否確認と、村で起きていることの調査と出来ればその解決。
ただしギルドの意向なのだろうけど、事態解決をやたらと強調した説明にはなっていた。
他、先程からも言われている通りブラウン村の村人や、現地にいるアーニング氏との交渉や話し合いなどはケウラさんが担当する。
ただしケウラさんはあくまで事務職員であり、魔物と戦った経験なども無いらしいので、依頼内容には彼の護衛も含まれるということになる。
詳しいことについては、ブラウン村まで行く途中の馬車の中で、ケウラさんに直接確認すれば良いだろう。
副ギルドマスターからの説明が終わったところで、僕から最後の確認。
現地で発生している事態について、解決のために出来ることはする。
ただし僕達の手に余るとか、危険が大きいと少しでも感じた場合はその時点で撤退する。
その場合の責任追及などは無し。
といったことを、皆にも聞こえるように少し大きめの声で確認して、副ギルドマスターから了承をもらう。
話が終わったところで、いよいよブラウン村に向けて出発となった。
僕達は待っていた馭者さんにも挨拶をし、2台の荷馬車に分かれて乗り込んだ。
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