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12. ふめいりょう の じょうきょう

よろしくお願いします。

アリサは再び職員達に目を戻して、そして質問を続ける。


「その森に入った冒険者は、本当に誰も帰って来ていないのですか?ただの1人として?」


その質問には、後ろの職員達と顔を見合わせる副ギルドマスター。


少し迷った後、言い難そうな様子で口を開く。


「実は……1人だけ。遠征隊に同行したギルドマスターのカワーグが……」


なんと、誰も帰ってこないなんて言っときながら帰還者がいた。




聞けば1ヶ月半程前の夜のこと。


ここテアレラ支部のギルドマスターであるカワーグ氏が、1人だけで突然このギルドに戻って来たのだそう。


丸腰で、着込んで行ったご自慢の高級装備品もほとんど無くし、全身傷だらけになって這々の体で駆け込んで来たカワーグギルドマスター。


酷く怯えた様子で、何があったのか尋ねるギルド職員達にも何も応えずに自分の執務室に駆け込み、中から鍵をかけてそれ以来一歩も外には出てこないらしい。


「僕のせいじゃない」だの「僕は依頼を受けただけ」だのぶつぶつ呟いてはいたらしいけど、何が起こったかまでは聴き取れていない。



「1ヶ月半前って……」


つまりは遠征隊が『禁断の森』に踏み込んで、その後ほぼ時を置かずしてギルドマスターが戻って来たということだ。


てかこの人達、1ヶ月半も前から異常が起きたのを把握していて、それから今までの間ほぼ何も行動を起こしていなかったということなのか?


ギルドマスターに状況の聴取もしないで?


一体何をしてたんだ。




「ギルドマスターに話を聞くのは、無理ですか?」


「呼びかけてはいるのですが、それにも返事が無い状態で……」


「魔導具などの特別なドアでないのなら、こじ開けてしまえば良いのでは?」


アリサの強引(のうきん)な提案には、副ギルドマスターは冷や汗を拭きながら首を横に振る。



「いや、さすがにそこまでは……」


「とはいえ、このまま手をこまねいているわけにもいかんでしょう。中で動けなくなっていたとか、死んでいたなんてことにでもなったら」


「ああいえ、そういったことにはなってはいないはずです。室内で歩き回っている音は聞こえますし、食事など差し入れれば器が空になって返って来ますので」


とりあえず今のところは、ギルドマスター帰還を目撃した職員には箝口令を敷き、様子見に留めているところなのだそう。


邪推するなら、様子見というか、なんか怖いし自分達から行動(めんどうごと)は起こしたくないしで、自動的に状況が良くなる可能性に賭けてひたすら待っていたというところだろうか。



「それで呼びかけても返事が無くて、部屋からも出てこないって……なんか怖くない?」


顔を引きつらせてユーナが言う。




なんか、前世のニュースでやってた引きこもりみたいな感じだな。


とはいえ、そういう状態になるならなるで、やっぱり理由や原因のようなものはあるだろう。


特にギルドマスターなんて、つい先日までは遠征隊に同行して直接指揮を執ろうってぐらいに元気だったわけだし。


そうなった理由として、考えられるのはやっぱり今回の遠征だ。


ブラウン村で、というよりも『禁断の森』で、よっぽど恐ろしい目に遭ったということだろうか。


そんな危険そうな場所に行くなら少しでも情報がほしいところだけど、誰も帰ってこない上に唯一帰ってきた人からは話が聞けないでは何もわからない。




続いてユーナが質問をする。


「依頼人のバラーズさんだっけ、あの人は?」


「バラーズ様は森には入っていないのでご無事とのことです。現在はブラウン村で事態の収拾に努めていると」


「現地に行けば多少の話は聞けるのかな」


とはいえ、今のこの状況を聞いて、さあそれではブラウン村に行こうなんて気には全くならないわけで。



「申し訳ありませんが、やっぱり今回は僕達は辞退を……」


「いやそこをなんとか、皆さんには大変な苦労をおかけするとは思うのですが、我々を助けると思ってお願い出来ないでしょうか?」


断ろうとする僕達に、重ねて頼んでくる副ギルドマスター。


どうやら本当に他に人がいないらしい。


僕達と一緒に大規模依頼を辞退した『巨熊(きょゆう)の剛爪』や『黒衣の蝙蝠(とうろう)』の人達は、今は別の依頼でテアレラを離れているそうな。


そして今この町に残っている冒険者で最もランクの高いのが僕達と。


僕達ももう少し遅く帰ってくれば良かったかな。



そんな彼らに、アリサが質問を続ける。


「軍は動いたりはしないのですか?」


「報告はしたのですが……『冒険者の依頼遂行上の事態なのだから、まずは冒険者が対応すべき』という回答で……」


「なるほど」



軍はとりあえずは様子見か。


副ギルドマスターの後ろに控えた職員達が「弱腰め」「こういう時のための軍だろう」なんて小声で悪態を吐いているのが聞こえるけど、ここのギルドは軍とはあまり仲が良くないのだろうか。



さしあたって訊くことはもう終わった様で、アリサの質問が止まる。


ユーナに目を向けると、彼女からも頷きが帰ってきたので、今は聞くことなどは無いらしい。


さてどうしよう。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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