9. かになべ の あじ
よろしくお願いします。
茹で上がったボルトニッククラブを、3人で河原に引き上げる。
事前に調べておいた話では、どうやらこのカニ食べられるらしい。
味もかなり美味とのことで、それもあって僕達、というか僕はこの依頼を受けることにしたのだ。
こういうのはやっぱり茹でたてが美味しいものなので、せっかくだからこの場で1匹食べてみることに。
ボルトニッククラブは食べる分を残して後はマジックバッグに収納し、残した1匹が少し冷めたところで、3人であちあち言いながら解体する。
殻を割って身を取り出し、まだ熱いそれに軽く塩を振ってアリサとユーナがかぶりつく。
「「っ!!」」
2人が一瞬硬直したかと思うと、すぐに顔を見合わせて同時に叫んだ。
「「美味い!!」」
たちまち猛烈な勢いで茹でガニを食べ出すアリサとユーナ。
どうやら2人の口には合ったみたいで何よりだ。
え、僕は食べないのかって?
この僕に茹でたての熱々のカニを食べろとか拷問ですか。
前世では食べるどころか近寄らせてさえもらえなかったカニだけど、今の僕ならもう少し冷めさえすれば食べられるだろう。
前世といえば、なんかテレビで変わった食べ方やってるのを見たな、確か……
ふと前世のことを思い出した僕、せっかく大きいカニがあるんだからちょっと試してみようかとユーナに頼んで、飲兵衛の彼女がマジックバッグにしまっていたお酒を出してもらう。
実はユーナは、お酒を飲むのが大好き。
彼女はこれまで行った先の国々で、当地の気に入った特産のお酒を買い込んで、マジックバッグに大量に保管しているのだ。
これまでいくつかの国を見て回った僕達。
当然その国々によって様々な特産や名産があり、逆にその国には不足していたり全く無かったりといった物も色々あったけど、お酒だけはどこの国に行っても必ずあった。
お酒と一口に言っても、ワインのような果実酒に麦や芋で作った蒸留酒に蜂蜜酒にと色々あるのだけど、今回はお米で作ったお酒が良いだろう。
カニの甲羅の内側にこびりついていた身をこそぎ、その甲羅を器にして中にユーナコレクションのお米酒を注ぐ。
カニ味噌もついでに溶かし、塩を少し振り、合わせて持ってきた酢をたらたら垂らして軽くかき混ぜて、アリサとユーナにどうぞと勧めてみた。
2人がおそるおそる一口飲んでみると、その瞬間2人そろって身体が地面に崩れ落ちる。
何かあったかと慌てて駆け寄ると、アリサもユーナも2人して、とろんと恍惚とした表情を僕に向けてきた。
「コタロウ……お前と一緒になって良かった……」
「愛してるよコタ……これからもずっと一緒だよ……」
「う、うん。ありがとう。僕も愛してる」
美味しかったらしい。
蕩けた顔で河原に大の字になっているアリサとユーナに、若干引きながら応える僕。
僕はお酒はあまり好きではないので、2人のこの幸せな気分というのはわからない部分があるのだけど、物凄く美味しいスープみたいな感じなのだろうか?
そんなことを思いながら、冷めてきた甲羅酒をぺろぺろと嘗めてみる。
あ、でもこれ確かに美味しいかも。
でもアルコールの味というのは、やっぱり僕の好みではないな。
本当なら前世であった醤油があれば良かったのだろうけど、あいにくとこの世界では見たことが無い。
ちょっとしょっぱいような、でも塩とは違う不思議な匂いがしていたあれ。
結局どういう味だったのだろうか。
これからまた色々な所へ旅をしたら、見つけることが出来るかな。
なんて考えつつ、僕もある程度冷めてきたカニを塩を振ったり、バターをのっけたりしながら食べる。
うん、僕の恋い焦がれる海魚とは違うけどこれ、確かに美味しい。
淡白な様だけどほのかに甘く、何よりも食感が面白い。
お、しかもこれ卵持ちじゃん。
ちょっと泥臭い感じがするのは、まあ沼ガニである以上仕方無い。
今回は茹でたけど、焼いてみても美味しいんじゃないだろうか。
今度討伐する機会があったら、その時は焼くことにするか。
とはいえ、今回討伐したボルトニッククラブが残りはマジックバッグの中に16匹程。
マジックバッグなら腐らずにしばらくは保つだろうから、今日から何日かは僕達のご飯はカニづくしだな。
アリサとユーナが伸びている間に、僕は思う存分カニを食べ尽くす。
やがて息を吹き返した2人に独り占めは良くないと怒られたので、マジックバッグからもう1匹ボルトニッククラブを取り出して、2人が食べている間に掘り返した河原の埋め戻しに取りかかる僕だった。
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