6. いらい の じたい
よろしくお願いします。
長ゼリフがあります。
森の危険に対処が出来るかどうかというのには、戦闘のスタイルや相性の問題というのもある。
強力な魔物が生息していたとかであればまだ良い。
確認した時点でその魔物に対応出来るパーティに前に出てもらうなり、逃げるなりという手段が取れる。
これが例えば、森の奥ではとんでもない病気が蔓延してたとか、毒ガスが発生してたとか、白い服着て潰れた声を出して四つん這いで歩く血まみれ顔の女幽霊が呪ってきたなんてことになったらどうなるか。
僕達ではそんなものの対処は不可能だ。
「『禁断の森』はブラウン村の直ぐ側にある。今まで森から何かが出て来て村に被害が出た、などという話は私の知る限りでは無い。もしそんなことがあれば、今頃は村自体が存在していないだろう。ならば考え方によっては、森の中にはそこまでの危険は無いという見方だって出来なくもないではないか。失礼だが君は、本当に高ランクの冒険者なのかね?さっきから話を聞いていれば、いささか臆病が過ぎるように見えるのだが」
アーニング氏の言葉に、次第に苛立ちと揶揄が混じってくる。
合わせて周囲にいる他の冒険者達からも「ビビってる」とか「あれで本当に3級か」なんてひそひそ言う言葉が聞こえてきた。
僕としては、命がかかってるんだから臆病であっても特に問題は無いと考える。
チキンだろうが腰抜けだろうが、死ぬよりはましだろう。
まあいずれにせよ僕達はこの依頼を受けるつもりは無いし、受けない依頼をネタにここで喧嘩なんかしても仕方ないので、そろそろ話を切り上げることにした。
「どちらにしても僕達はこの依頼は遠慮させていただきますので、これで失礼します。禁断の森の情報の収集については、出来ればご一考いただければ幸いです。それでは」
そう言って頭を下げる僕達を見て、ギルドマスターは呆れたように息を吐いた。
「やれやれ、仕方ありませんね。臆病風に吹かれたというなら、無理に依頼をしても足手まといになるだけでしょう。それでは、他の皆さんは依頼を受けていただけるということで問題ありませんね?」
ギルドマスターの言い草は正直気に入らないけど、依頼を断る以上多少言われるのは仕方ないか。
集まった人の多くはギルドマスターの言葉に頷いていたけど、そんな中数人の冒険者が集団から抜け出た。
「いや、俺もそこの小さいのの言うことに賛成だ。森を探索するのは良いが、こちらが大勢だからといって少々楽観が過ぎている様に思える。森に妙な謂れがあって、それが何かはわからないし調べてもいないがとりあえず行け、なんてことではこちらも準備のしようがないしな。俺達『巨熊の剛爪』のスタイルには合わない様なので、この依頼は辞退する」
彼らがギルドの入口の側に移動すると、続いてぽつぽつと集まりから離れる人達が現れはじめた。
「『黒衣の蟷螂』も辞退する。こんな大勢での集団行動は得意じゃないんでね」
「……うん、アタシらも、今回は止めとくわ」
辞退者の中には、僕達がここを出ようとした時に話しかけてきた女性冒険者の姿もあった。
彼女の隣には、背が少し低めで杖を持った男性が付いている。
体付きはがっしりしてるけど、顔付きはどこか気弱な印象を受ける。
彼はパーティメンバーだろうか。
結局、集まった冒険者の中で依頼を辞退したのが十数名。
その他大多数の人達は大規模依頼に参加することにしたらしい。
多少減ったとはいえ、それでもギルドマスターが指揮する200人以上の大戦力が、ブラウン村の『禁断の森』に遠征することになるわけだ。
これはかなりの大作戦と言える。
僕もさっきは色々言ったけど、参加者の中には高ランク冒険者もいるみたいだし、多少の危険は見込まれるにしてもよっぽどのことが無い限りはこの遠征、まず失敗は無いと見て良いのかもしれない。
これだけの規模の集団なら僕達数人が抜けたところで、そこまでの戦力ダウンということにはならないだろう。
依頼を断った僕達は、そのままなんとなく固まって冒険者ギルドを後にしたのだった。
◇
「いや〜でもあの大規模依頼、やっぱちょっともったいなかったかな。報酬は凄い良かったもんな」
「ああいう報酬がバカ良いクセに内容がハッキリしねぇような依頼って、まず何か厄介があると思った方が良いぜ?」
「でもまあほら、大規模依頼で冒険者が大勢留守になるなら、その間通常依頼の割の良いやつは皆さんの取り放題ということに」
「「「おお!?」」」
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