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2. おわかれ の あいさつ

よろしくお願いします。

この人がアルカール様の知人だという、ドゥータリウス・オズ・バンザ伯爵か。


隣の女性はおそらく奥方だろう。


2人はアルカール大臣の姿を見るなり「閣下!!」「お兄様!!」と声を上げて駆け寄って来た。


特に女性は、目に涙を浮かべて大臣の手を取っている。




お兄様?ということはこの女性、アルカール様の妹さん?と思ったのだけれどどうやらそうではないらしく。


後で聞いた話によれば、彼女の名前はアミーリア様といって、グランエクスト帝国伯爵家であるヴィクトリア本家のご息女。


まだ小さかった頃に、ヴィクトリア本家を訪問したアルカール様と何度か会っており、それ以来実の兄の様に慕ってくれていたのだそう。


そして彼女がここバンザ家に嫁いだ後も、ご主人のバンザ伯爵と合わせて親交が続いていたとのこと。


アルカール様が言っていたスカール公国のつてとは、このことだったのだ。




「知らせを受けてお待ちいたしておりました。ルフス公国の政変の件については、既に我が国にも話が届いておりますぞ。まずはご無事で何よりでございます」


「突然押しかけてしまい、誠に申し訳ありませんなバンザ殿。アミーリアも、また会えて嬉しい限りだ」


「心配、しておりました……本当に、よくご無事で……」


「エレストアでの政変の知らせが届いてからというもの、妻の心痛は見るに堪えない程でしてな。もう毎日のように『閣下の安否はどうなっているか』『急ぎ人を送って閣下の保護を』と、まるでいきり立ったオーガの様な剣幕で……」


「あなた!!」


真っ赤になって怒るアミーリア夫人と、笑って喜び合うアルカール様とバンザ伯爵。



やがてアルカール様がふっと表情を引き締めると、バンザ夫妻から一歩離れて深々と頭を下げた。


「わざわざのお出迎え痛み入ります。バンザ卿におかれましてはお変わり無い様で何より。お聞き及びの通り、ルフス公国にていささか厄介事が起こりましてな。それについてお力をお借りしたいことがありまして、こうして恥知らずにもお伺いした次第です」

 

「なんのなんの、我らの仲ではありませんか!ささ、立ち話もなんですのでまずはこちらへ。今家の者に湯浴みと食事の支度をさせております。当家をご自宅と思って、ごゆるりとお寛ぎください!」


笑顔を浮かべ、少し大きめの声でアルカール様を迎えるバンザ伯爵。


アルカール様はそれに頷き、


「それでは遠慮なく甘えさせていただきます。アルバート、ここからは大事な話になるのでお前も一緒に来て聞いておきなさい」


と、アルバート様とゴードンさん、グレイスさんを伴い屋敷の奥へと案内されて行った。




「誰か、護衛の方達を客間にお通ししろ」


と言い置いてバンザ伯爵夫妻も奥に去っていくと、僕達は近寄ってきたメイドさんに案内されて屋敷の一室に通される。


部屋は来客用ではなく、使用人の控室といった感じ。


部屋にあった大きなテーブルに着いて出されたお茶を飲み、軽食を摘みながら待っていると、やがて3時間程して部屋のドアが開いてメイドさんが入ってきて「伯爵様がお呼びです」と言われた。



彼女に案内されて後を付いて行くと、僕達は屋敷の奥にある部屋に通される。


中に入るとそこは広々とした部屋で、壁際には花や調度品が控え目に飾られ、大きな窓からは手入れの行き届いた庭の景色がよく見える。


中央には大きくて豪奢なテーブルが置かれて、アルカール様とアルバート様、それからバンザ伯爵夫妻が席に着いていた。




アルカール達の対面に座っていたバンザ伯爵は、僕達を見ると笑顔で声を上げる。


「おお来たか!閣下から話は聞いたぞ?ルフス公国を脱出する際は大活躍だったそうではないか!」


「お、お褒めに預かり身に余る光栄に存じます。微力ながら、精一杯のことをさせていただいた次第で」


僕の返答にバンザ伯爵は笑い声を上げ、そしてテーブルの上に置いてあった小さな布袋を示した。


「これは閣下を無事にここまで無事にお連れしてくれたことの、私からの礼だ。本当に良くやってくれた」


「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」


僕がそう言って袋を受け取ると、続いて伯爵夫人が口を開く。


「私からも、今回の事は心から感謝いたします。良く、皆を無事にここまでお連れいただきました。聞けばアルバート様を誘拐から救った上、暴漢達の良からぬ企ても阻止してみせたのだとか。本当に、ありがとうございました」


「とんでもございません。それでも最後はこの度のような次第になってしまい、力が足りず情けない限りでございます」


そんな僕の言葉に、アルカール様が首を横に振る。


「我々の方こそ、思いの外大事になって大変な苦労をかけさせてしまったが、我々が無事ここまで来れたのは君達のおかげだ」


そう言ってアルカール様が目配せをすると、後ろに控えていたゴードンさんが進み出て僕達に数枚の紙を差し出した。


「こちらは依頼達成の証明と、報酬支払いの指示書です。冒険者ギルドに提出すれば報酬が支払われるようになっておりますので、失くさないようお気を付けください」


書類には加えて、アルカール様とバンザ伯爵の連名の書類も添えてある。



ルフス公国の公都エレストアで、計らずも大暴れをしてしまった僕達。


ルフス公国内では、今頃指名手配になっているであろうことは想像に難くない。


この書類はそんな僕達の行動がアルカール様の依頼に基づいたものであることを証明し、犯罪者扱いになったりしないように便宜を図ったものであるとのことだ。


ありがたい。


体裁としては、依頼を受けて戦争に参加した的な形になるらしい。




アルカール様とアルバート様はこの後公城に行って、公王様との謁見など諸々の用事を済ませた後、バンザ伯爵の護衛の下グランエクスト帝国に向かうとのこと。


となると、僕達の役目はここまでか。


僕達はアルカール様に雇われたとはいえ、結局のところ冒険者であり部外者。


お抱えとして完全にアルカール様の下に入ってしまうとかならまだしも、バンザ伯爵という庇護者がいる中で冒険者を雇い続けるというのは、伯爵の体面も考えてあまり良いことではない。



「本当はこの後も一緒に来てもらいたかったが、多大な迷惑をかけた上これ以上拘束するわけにもいくまい」


と、残念そうな笑顔で言うアルカール様。


「皆様は我々が責任を持って帝国へお連れするゆえ、安心するが良い」


と笑うバンザ伯爵。


「私の実家ならばお兄様のこともよく存じ上げておりますし、そちらならもう何の心配もありませんわ。それにしてもルフス公国の者達は、これまでのお兄様の功績は見ぬふりをして、まるでお兄様を害毒のように。あまつさえ処刑などと……!」


「落ち着きなさい。こういうものは、本人がいなくなった後に改めてそのありがたさがわかるものだ。ルフス公国では既に、これまで国政を担ってきた官吏達の切り捨てが始まっていると聞く。そんなことをしていれば、早晩泡を食うことになるだろうて」


と憤懣やるかたないという様子のアミーリア夫人を、バンザ伯爵がまあまあとなだめている。



組織のトップが交代した際、人心一新の名目で前からいた役員官僚を軒並み解任や粛清、なんてのはよくあること。


ただその際、特に組織運営のノウハウを持っている人達まで皆切ってしまい、後で組織を切り盛り出来ずに大慌て、なんてのは国に限らず聞く話だ。


実は独立当初のルフス公国もその口で国を回しきれずに、グランエクスト帝国に泣きついて国家運営の知識を持つ人を半ば無理矢理寄越してもらったのが、アルカール様のご先祖様なのだそう。


自分達で呼んどいて、後になって歪だの間違いだの言い出すルフス公国の人達もどうかだけど、招かれた際にカースドキマイラの卵なんて代物を持ち込んだヴィクトリア家のご先祖様も、なんていうか大概な気がしないでもない。



続いて、


「この度は、誠にお世話になりました」


と深々と頭を下げるゴードンさんとグレイスさん。



そして最後に、唇を真一文字に引き結び、両手を握り締めて俯いているアルバート様。


僕達はそんなアルバート様に歩み寄り、それぞれに声をかけた。


「アルバート様、頑張りましたね。お見事な心の強さを見せていただきました。帝国へ行っても、御身体にはお気を付けて」


とアリサ。


「アルバート様方のことは、この後は僕達よりももっと強い人達が守ってくださいます。もう安心ですよ。たくさん勉強して、偉い人になってください。僕達とはちょっと違うけど、それがアルバート様の戦いです。それは武器を振り回すことなんかよりも、ずっとすごいことなんですよ。どうかお元気で」


と僕。


そしてアルバート様が1番懐いていたユーナが、アルバート様の前にしゃがみ込む。


「私達も帝国に行くつもりなので、もしかしたらまたどこかで会えるかもしれませんね」


「っ……うん……」


泣きそうな声をこらえるアルバート様と、そんなアルバート様に微笑むユーナ。


「これからは今までの生活とはちょっと変わるかもしれませんが、楽しいこともきっとたくさんありますよ。次に会ったら、その時はアルバート様の楽しいお話をたくさん聞かせてください。それじゃ、また会いましょうね」


「うん、僕……頑張る」



最後にアルバート様の頭を一撫でして、ユーナは立ち上がる。


色んな事があったけど、これでこの人達ともお別れだ。




僕達3人は横に並び、そして皆に頭を下げた。


「それでは、毎度ありがとうございました!」



「短い間だったけど、やっぱりお別れは寂しいね」


「そうだな。子供か……」


「フフッ、やっぱり意識しちゃう?でもまあ、私達は今はまだいいんじゃない?子供ならほら、ここに大きいのが1人いるし」


「ああ、確かにな」


「ちょお!?」

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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