1. たびだち の けつい
1話目になります。
よろしくお願いします。
婚約破棄されてしもうた…………………………………………
それは、僕が17歳になったある日のこと。
僕の名はリーオ・ヒル・ルシアン。
ここルシアン伯爵家の次男坊だ。
僕にはついさっきまで、結婚を決めた許嫁がいた。
僕の幼馴染であり、恋人であり婚約者であったアディール・エル・ベリアン侯爵令嬢。
その実家であるお隣のベリアン侯爵家から、僕との婚約を破棄するとの手紙が家に届いたのが、ついさっきのことだ。
父上からその話を聞かされた僕は、半ば呆然としたまま自室へ戻って、そのまま椅子にへたり込んだ。
まあお互い貴族なんだから、婚約なんて家の利益が最優先、家の都合でくっついたり離れたりってのは当然のことだとわかってはいるんだけど、それでもへこむなあ。
彼女とは小さい頃からよく遊んで一緒に大きくなった。
気がつけばお互いに、将来一緒になろうって決めてたからなあ。
「あ~……」
出てくるのは涙とため息とうめき声ばかり。
はぁ…………………………………………………………………
ぃよし決めた!
切り替えていこう!
いつまでもうじうじいじけてても腹減るばかり。
もういっそのことこれは災難とは思わないで、チャンスと考えてみよう。
だいたいが元々僕に貴族なんて向いてないと思ってたんだ。
これは前々からやりたかったことに挑戦する、今こそ良い機会なんじゃないだろうか。
今ならなんか、同情的に両親も兄上も許してくれそうな気がするし。
僕は強く頭を振って勢いよく立ち上がり、両頬をばしんと叩く。
そうと決まれば善は急げ。
まずは父上に話をしに行こう。
あんまり善じゃないような気もするけど。
部屋を出た僕は、多分話を聞いたんだろう使用人達に遠巻きに見られながら、速足でこの家の現当主である父上の執務室へ向かう。
中には慰めようとしてくれたのか話しかけてこようとする人もいたけど、逆に笑いかけてみせたらほっとしたように仕事に戻って行った。
さすがに指差して笑ってくるような人はいない。
もし笑われてたら僕はUターンして自分の部屋に戻って、もうしばらくの間めそめそしていたかもしれない。
執務室の前に立ってドアをノックすると、中から「入れ」と言われたので中に入る。
ちょうど良いことに兄上もいた。
せっかくなので一緒に話を聞いてもらおう。
僕は執務机の横に立つ兄上に軽く会釈をして、机に座る父上の前に立った。
「失礼します。父上、お話があります。」
「婚約破棄の件だな?リーオ、この件については私も残念に思っている。だがこの話はもはや我々がどうこう出来るものでは……」
どうやら父上は僕が婚約破棄の取り消しをお願いに来たと思ったらしい。
まあ状況的にそう思うのも当然なんだけど、でもあいにくとそうじゃない。
ある意味もっと大変なことだ。
父上の苦い顔を真っ直ぐに見て僕は答える。
「その話ではありません。父上、僕は貴族を辞めます。そしてこの家を出ようと思います」
◇
「リーオ様もおかわいそうに。アディール様とはあんなに仲が良くていらっしゃったのに、突然こんなことになって……」
「あ、ああ……」
「?どうかしたの?」
「いや、さっき廊下を歩いて行くリーオ様を見かけたんだがな。何ていうか……面白そうな物を見つけた時の猫のような顔をしていらして……」
「!それって!?」
「ああ、リーオ様がそういう顔をしている時は……きっと何か突拍子もないことを言い出すぞ」
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