33. まちから の だっしゅつ
よろしくお願いします。
爆風の衝撃を受けて吹き飛ばされ、地面に転がる僕達。
うつ伏せに倒れた僕達の後方で、続けて起きる2度目の大爆発。
1本目の大型ボトルの炎を受けて、引火した2本目が爆発したのだろう。
起き上がって後ろを振り返ると、さっきまで僕達が中にいた廃倉庫が炎に包まれ、周囲の闇を赤々と照らし上げている。
ふと、少し離れた地面にレッガー将軍が振るっていた大剣と、セーラ近衛隊長の槍が突き刺さっているのが見えた。
僕の大型ボトルの爆発を受けて、2人の手から吹き飛ばされでもしたのだろうか。
またこれを使って追いかけて来られても面倒なので、拾い上げてマジックバッグに収納する。
見たところ爆発が効いたのか、レッガー将軍もセーラ隊長も、燃え上がる廃倉庫から出てくる様子は無い。
倒せ……てはいないだろうけど、さすがにこれならただでは済むまい。
大分時間を取られてしまったけど、後は今の内に急いでこの町から逃げなければ。
「ア、アリサ、ユーナ大丈夫?」
「な、なんとか……」
「早く、逃げないと……」
「行こう、2人共頑張って……」
怪我と消耗にふらつく足を引きずって倉庫の敷地から通りに出た時、石畳を蹄が駆ける音が近付いて来たかと思うと、僕達の目の前に1台の馬車が急停車した。
見ればそれは先程屋敷の前に放置してきたアルカール大臣の馬車で、執事のゴードンさんが馭者台で手綱を取っている。
「お乗りください!お急ぎを!」
ゴードンさんに促されて僕が馭者台に、アリサとユーナが馬車のドアから中へ駆け込んだ。
僕達が乗り込むと同時に馬車は急発車、そのまま大通りに出ると、目立たないように速度を緩めてエレストアの町の南門に向かう。
通りでは警備隊の人達が「貴族街で爆発が起きた!」「急げ!」なんて話をしながら後方に向かって走って行く。
馭者台の後ろにある小窓から中を見ると、そこにはアリサとユーナの他にはアルカール大臣とアルバート様、侍女長のグレイスさん、それから空いているスペースにはアクセサリーや宝石などの貴金属類がごちゃっと積み上げられていた。
なんでもアルカール大臣達4人、僕達とレッガー将軍達との戦いが始まって一旦は屋敷の外に逃げたものの、屋敷からは離れずに近場の暗がりの中に潜んでいたらしい。
そして僕達が屋敷から飛び出して行った後に屋敷に戻り、今後のためにヴィクトリア家にとって重要な宝物や、持ち運びしやすくてお金になりそうな物を出来るだけ回収。
屋敷の門前で破壊を免れていた馬車に乗って、様子を見ながら僕達の後を追って来たのだそう。
まあ確かにあのまま身一つで逃げたとしても、早晩詰むというのは目に見えているわけで。
何かしら先立つ物と、出来れば用心棒が必要というのはわかるのだけど、それにしても中々に危ないことをするものだ。
僕達が将軍達に負けていたらどうするつもりだったのだろうか。
とはいえ、
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
僕が息を整えつつ、馬車の中のアルカール大臣に声をかけると、灯りの魔導具を消した闇の中で大臣が首を横に振る。
「まだ助かってはいない。まずは急いでこの町を出なければ」
「もう夜中ですが、出られますか?」
小さな村や集落ならともかく大きな町、特にここエレストアのような城壁のある町というのは、夜になると安全のために門を閉じて出入りが出来なくなってしまうことが多い。
僕がそのことを尋ねると、大臣は
「今日だけは特別だ。建国祭の最終日ということで街に人が溢れているので、この日だけは夜間も南門に限り開放している。軍が警備をしてはいるが、警戒は魔物などに備えて外に向いているので、逃げ出す隙はあると思う」
「なるほど」
なんでも毎年、町中で宿にあぶれたお祭りの観光客が、門前で野宿をしたりしているらしい。
幸い、敵はまだ公都の市内にまでは部隊を繰り出してはいない様子だ。
建国祭が最高潮に達している今日のうちに政府の中枢を押さえ、明日になってお祭り気分が冷めたところを見計らって市内を制圧し、合わせて政権交代の布告をするとでもいった計画だろうか。
ならこのお祭りの喧騒に紛れ込めれば、逃げるチャンスはある。
まずは町の外に出ることを最優先として僕達は脇道に入ると、そこで一旦馬車から馬を外して車体をマジックバッグに収納した。
慌ただしい中とはいえ、城門でアルカール大臣の馬車だとばれると衛兵に止められてしまう可能性が大なので、まずはこれを隠す必要がある。
普通の荷馬車ならともかく、貴族用のごつい馬車なんて1番性能の高いアリサのマジックバッグでも入るかどうか不安だったけど、問題無く入れられたので良かった。
皆で歩いてエレストアの南門に行ってみると、そこはアルカール大臣の言った通りに城門が開け放たれていて、町に出入りする大勢の人や荷馬車が行き交っていた。
ただもう夜も遅いので、これから町に入ろうとする人は少なく出て行く人の方がずっと多い。
門の脇には衛兵が立っているけど、あまりに人が多いせいか身分証の確認や通行税の徴収みたいなことは行っていない様だ。
大臣の話ではこれも建国祭期間中の特例で、お祭りの1週間前から最終日までは町に出入りする通行税が半額、閉幕式から翌朝までは南門に限り無料開放となっているのだそうな。
軍が検問などをやっている様子は無い。
まだここまで知らせが届いていないのか。
何にせよ、今がチャンスだ。
僕達は7人連れで徒歩で馬を引いて、人の出入りでごった返している南門から素知らぬ顔で門を通過、町の外に出ることが出来たのだった。
◇
「マウント将軍とヴァッテン近衛隊長と、ロデン男爵はまだ戻らぬのか!?」
「は、申し訳ございません陛下。未だ連絡が無く……いましばらくお待ちいただきますよう」
「すぐに戻ると言うておったに……!もうよい!軍に出撃を命ずる!余が直接指揮を執る!ヴィクトリア侯爵とあの護衛共を捕らえるのだ!!」
「お、お待ちください陛下!将軍閣下はおっつけ戻って参りましょう!メイサ男爵とグーラー子爵の軍もいずれ到着いたします!将軍が戻り、態勢を整えてからでも決して遅くはございませぬ!何卒今しばらくのお待ちを!」
「待てぬ!あやつらはこの余と、この神聖なる公城を愚弄したのだぞ!万一にも取り逃すことがあれば、ルフス公国は末代までの笑いものとなろうぞ!!」
「しばらく!南門には既に、ヴィクトリア侯爵の馬車を止めるよう通達を出しております!このエレストアから逃げることは叶いませぬ!何卒しばらく!」
「むぅ……将軍はまだか!!」
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