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28. やりつかい の しょうたい

よろしくお願いします。

長ゼリフがあります。

声のした方に目を向けると、ホール正面にある大階段の上には、先日会ったアルカール大臣の秘書のブライが両手に見覚えのある黒い箱を持ってこちらを見下ろしていた。



あの箱、以前に見せてもらった『マジャル・ハランド』が保管された金庫だな。


既に奪われていたか。




彼に続いて、廊下の奥からはこれまた先日会ったレッガー将軍とセーラ近衛隊長、それから初めて見る顔の細身の男が姿を現した。


……いや、あの男なんだか見覚えがあるな。


嘲弄を含んだ目付きに口元の薄ら笑い、あいつもしかして……



僕の視線に気付いた男はこちらを見返すと、ヒヒヒと喉の奥で耳に障る笑い声を上げる。


あの声、やっぱり僕がアルバート様誘拐未遂の時に戦った奇声男だ。


今まではローザリア王国の工作員かと思ってたけど、あいつもルフス公国の人間だったのか?。


じゃあアルバート様を拐おうとしたのも、このクーデターに備えてアルカール大臣の弱みを握ろうとしたといったところだろうか。


でも見るとどことなく、他の3人からは距離を取っているように思えるのが少し気になるところだ。



それにしても、あの奇声男はともかくとしてこの場にはこの国の将軍と近衛隊長。


政務大臣の自宅を襲撃したにしては妙に兵の数が少ないなとは思っていたけど、この国の最大戦力であろう2人が来ていたのであれば、余計な人員は必要無いということだったのかもしれない。




レッガー将軍は大剣を、セーラ近衛隊長は短槍を手に持っている。


どちらも不思議な色の輝きを持つ金属で装飾が施されており、決してただの剣や槍ではないことが見て取れる。


それを見たアリサが「近衛隊長……やはり、槍使いだったか」と呟いた。



どうやらアルバート様誘拐未遂事件の時、屋根の上で僕に攻撃を仕掛けてきたのはセーラ隊長だったらしい。


実はアリサからは、この国に内通者がいるかもという話をした際にその可能性を示唆されていた。


なんとアリサ、僕達が初めて顔を合わせた時点で動きの癖や体勢、筋肉の付き方や手の状態から、彼女が槍の使い手であることに気付いていたのだそう。


でも、僕達とアルカール大臣の話の中でこの近辺の強力な槍使いについての話題になった際、セーラ隊長は自分も槍使いであることを話さなかったしおくびにも出さなかった。


その時は、自分が犯人であることなどあり得ないということであえて口にしなかったのかと、若干不思議には思ったもののあまり気にしていなかったとのこと。


まあ仮に彼女が犯人だと気付いたとしても、証拠が無い以上はどうにかすることは出来なかっただろうけど。




階段の上に立って僕達を見下ろす4人を、アルカール大臣は険しい表情で睨み付ける。


「やはり、ここに来ていたか」


そんな大臣に、ブライは笑みを浮かべて言葉を返す。


「閣下こそ、まさか戻って来られるとは思っておりませんでしたよ。そこの冒険者共に助けられましたか?公城の兵達も、随分と不甲斐無い」


ブライの言葉に、横に立っていたレッガー将軍がちらりと目を向けるけど、何も言わずに僕達に視線を戻した。



「『マジャル・ハランド』が狙いのようだな」


アルカール大臣の言葉に、ブライは手に持っていた金庫を掲げて見せる。


「ええ、その通りです。私はずっと歯痒い思いをしてきたんです。カースドキマイラですよ?あの伝説の。これを活用すれば、このルフス公国を守る大きな力となるのは、子供でもわかる理屈でしょう?なのに閣下は頑なに使おうとはなさらない。長年に渡り暗躍してきたローザリア王国から我が国を守ることも、いやむしろその強大な力を以てすれば連合3国どころか、ドルフ王国も、クロウ共和国もアト王国も、グランエクスト帝国やラネット神聖皇国ですら平らげることが叶いましょう!なのに閣下はそれ程の力を奮うこと無く、ただただ後生大事に金庫に閉じ込めて腐らせるばかり。全く、理解に苦しみます」


「バカな……!カースドキマイラがどういう魔物か、真に理解した上でそのような世迷言をほざくのか!あれはただただ死と破壊を撒き散らすだけの災厄ぞ!断じて人の手に御せるような代物ではない!もしも目覚めさせたりすれば、それは敵国と共にこの国が終わる日となる!」


「ならば敵国の中で使えば良い。そうすれば滅ぶのは敵国のみになる。簡単なことでありましょう?」


「貴っ様……!」



ある種恍惚とした表情で語るブライを、アルカール大臣が怒りの形相で睨み付ける。


でも駄目だな。


あれは、話が通じていない。


自分の考えに酔い痴れて、その是非も、予想される結果にもまったく考えが及んでいない。



そんなブライにセーラ近衛隊長が「喋り過ぎですよ」と注意をするも、彼は意に介さずに目の前に掲げた金庫を見つめている。


「良いじゃありませんか。どのみちここにいる者達は皆、貴方方が片付けてくれるんでしょう?さあ、『マジャル・ハランド』は今は私の手の内にある。この私が手に入れたんです!今この時から、ルフス公国の覇道が始まるのです!あと必要なのは封印を解くための鍵のみ。さあ閣下……いや、もう大臣ではありませんね。アルカール・ヴァン・ヴィクトリア、封印の鍵を渡しなさい!」


「断る!この大陸滅亡の片棒を担ぐことなど御免被る!」


ブライに言い放つと、次に彼の後ろに視線を向けるアルカール大臣。


「マウント将軍、ヴァッテン隊長、そなた達もブライと同じ意見か」



アルカール大臣の問いに、2人は乾いた眼差しを返すばかり。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク、ご感想等いただき誠にありがとうございます。

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