25. せんじょう の じじつ
よろしくお願いします。
周囲の目を眩ませてパーティ会場から脱出した僕達。
アリサがアルバート様を担ぎ上げて城内を駆け抜け、城門を入った所にある中庭で待機していた馬車の下へ。
設置されているかがり火の明かりに照らし出された馬車の上、「旦那様!?」と慌てる馭者さんに「すぐに出せ!私の屋敷に向かえ!」と怒鳴りながらアルカール大臣がアルバート様を抱え上げて馬車に乗せ、続いて自分も乗り込む。
その間にアリサは城門に走り、突然の事態に驚いている当番の兵士を押し退けて通用口を開けた。
そして僕は中庭を照らしている大きなかがり火の側に駆け寄り、その足下に馬車の中から持って来たマジックバッグから引っ張り出した大型ボトルを設置して着火。
ここで「いたぞ!」「逃がすな!!」と城の中から追手が飛び出して来たので、武器を手に駆け寄ってくる兵士達にはユーナが車内から回収した弓で矢を乱射する。
僕とユーナが跳び乗ると同時に、馬がいななきを上げて馬車が急発進。
城門でアリサを馭者台に拾い上げ、そのまま城の外へと走り出した。
城門前の広場には相変わらず観客がごった返していたけど、物凄い勢いで飛び出して来た身分の高い人用の馬車に、皆慌てて道を開ける。
広場を駆け抜けたあたりで、後方の城の中から大爆発の轟音が聞こえてきた。
大型ボトルの足止めが効いたのか、今のところ追手が来る気配は無い。
とはいえ油断は決して出来ないので、僕とユーナは周囲を警戒しながらアルカール大臣とアルバート様に向き直った。
「お2人共、お怪我はございませんか?」
「大変なことになっちゃいましたね」
「あ、ああ……アルバートも私も大丈夫だ。それにしても……随分と派手に暴れたな」
「出し惜しみ出来る状況ではなかったですし、『周囲の損害については無制限』との了承をいただきましたので」
「確かに了承はしたが、これは……」
火の手の上がっている公城の方を見て、アルカール大臣が引きつった表情を浮かべる。
実は先日アルカール大臣に「万が一敵の大規模な襲撃があった場合、迎撃に際して人的はともかく物的被害についてはどれ程までを許容してもらえるか」について確認し、「無制限」ということで了承を得ているのだ。
出来る限り周囲には被害を出さないようにするつもりではあったけど、どうしても想定外の事態というのはあり得る。
まあその時は敵というのはローザリア王国の軍隊を想定していたし、大臣もまさか本当にそんな事態が発生するとは思っていなかっただろうけど、それでも言質は言質。
「会場にいた者たちも、巻き込んでしまった」
「あのまま会場にいたらお二方は拘束されて処刑でしたし、まずはあの場から脱出することを優先としましたので」
実際2人を捕らえるために周囲の兵士が迫ってきていたのだし、そこから抜け出すためには多少の荒事はやむを得ないだろう。
あの状況だったから隙を突いて逃げ出せたのであって、2人が捕まってしまった後となると助け出すのは難しい、というよりも実質不可能だ。
「しかし、あの場にいた者達の全員が敵と決まったわけではないのだが……」
「う……うん。ラウラ伯爵とかクーラー子爵とか、優しくしてくれたし……エマリアさんも……」
エマリアさんというのは、誰か貴族の子供だろうか。
複雑そうな顔のアルカール大臣とおずおずと僕を見てくるアルバート様に、僕は首を横に振る。
「残念ですが閣下、アルバート様、もう既に戦いは始まってしまいました。そして今の公城は閣下が慣れ親しんだ職場ではなく、戦場であり敵地です。敵地では友軍など、確実に味方と断定出来る相手以外は敵なんです。たとえ本当に善意を持っている相手だったとしても、それが間違い無いと確認出来るまでは、信用しちゃいけないんです」
本当に悪い奴というのは、さも自分は良い人ですという顔をして近付いてくる。
さっきだって、公王様の一派が政権奪取の行動を始めるまでは、あの会場にいた人達は全員アルカール大臣のお友達という素振りをしていたのだ。
それが実際事が始まると、会場内の多くの人達が態度をひるがえしてアルカール大臣を糾弾した。
ホールの外で僕達と一緒にいた護衛達の反応からしても、おそらくはこの事態を事前に知らされていた人達も多かったのだろう。
そんな場所で、単ににこにこして話しかけてきたからってその人を味方として信用するなんてことは出来ないし、あの状況では誰が味方で誰が敵かなんてゆっくり確認している暇も無い。
となるともう一緒くたにまとめて排除するなど、取れる手段というのも限られてくるわけで。
なにせ僕自身が、そうした騙し討ちのような戦い方を得意としているのだ。
その有効さも、危険さも自分で理解している。
実家にいた時に傭兵の人から聞いた話によれば、本当に酷い戦場になるともう「誰かに出くわしたらまずは斬る」みたいな状況になったりするらしい。
とりあえず殺しておいて、それが敵だったら「倒したバンザイ」、もし味方だったり民間人だったりしたら「間違えちゃったごめんね」みたいな感じなのだそう。
酷い話だとは思うけど、もし出くわしたのが敵だった場合、変に迷ったりしてればその間に相手は当然攻撃してきたり、仲間を呼んだりしてくるわけで。
それで自分が死んだり、部隊の位置がバレたりして味方が全滅したりしたら目も当てられない。
そんなことになるよりは、目の前の敵か味方かわからない奴をとりあえず殺しておいた方がましと、そういう理屈だ。
僕の言葉を聞いて、アルバート様は顔を歪ませる。
「そんなの……非道い」
「そうですね、非道いです。戦いっていうのは、端から見てたり、話を聞いたりしてると面白いし格好良いかもしれません。でも実際にやるのは、非道くて、辛くて、そしてくだらないことなんです」
僕から顔を背けたアルバート様は擁護を求めるようにユーナに目を向けるけど、彼女もただ黙って頷くのを見て黙り込んでしまった。
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
今回の話に出ました戦場における対応につきましては、太平洋戦争に従軍され南方にて戦われました、N氏より伺ったお話より参考をいただいております。
この場をお借りしまして、N氏に御礼を申し上げます。




