22. おまつり の さいしゅうび
よろしくお願いします。
僕の考えを一通り聞いて、ユーナとアリサが呆れた顔をこちらに向けてきた。
「それにしても、国を取るの一言からよくもまあそんな企みが浮かんでくるよね。今さらだけど一体何だいキミは?」
何だいキミはって、ニャンですよ僕は。
『ローザリア王国がこの国を落とすとしたらどんな手を使ってくるか』という想定で、いくつかの案を考えた僕。
思い付いた案を伝えると、ユーナとアリサがそろって頭を抱えている。
「にしてもまた、かなり大変なことになったね」
「とはいえ、万一お前の考えが正しかったとしても、火付け役の『ダブル・ゼロス』が瓦解状態となった今は、企ての見直しが必要になるだろう。少なくとも私達がこの護衛をしている間は、もう何事も無く終わるかもしれんな」
「そうだね。……そうだと良いんだけど」
アリサの言葉に、少し俯いて思案顔になるユーナ。
明日は建国祭の最終日。
何でも街の広場では閉幕の式典が大々的に開催され、公城ではパーティも行われるらしい。
僕達が今受けている護衛依頼も、その1日で終了になる。
ローザリア王国もこれで今回は諦めて、アリサの言う通りに後1日何事も無く終われば良いんだけどな。
まあそれ以前に、僕の考えが当たっているという確証も何も無いのだけれど。
一方で、これで全部終わりという確証もまた無いわけで。
警戒だけは怠らないようにしておかなければならない。
それに加えて……
「この護衛依頼が終わったら、僕達出来るだけ早くこの町……というより、この国を離れた方が良さそうだね」
僕の言葉に、2人そろって頷くアリサとユーナ。
「そうだな。知らなかったこととはいえ、私達も色々とやり過ぎてしまったからな」
「アルバート様とお別れになるのは、ちょっと寂しいけどね」
そう、僕達はこの一件でやらかし過ぎた。
アルバート様の誘拐阻止に『ダブル・ゼロス』の殲滅と、ローザリア王国の企てに関わるものを片っ端から潰してしまっている。
知らずにやったこととはいえ、企てをしていたローザリア王国からしてみれば、憎たらしいことこの上ない存在だろう。
今はまだここアルカール大臣の屋敷に滞在してるから良いのだけれど、依頼が終わってフリーになったら、そこを狙って何かしら報復行動に出てくるというのは容易に想像出来る話だ。
僕達はこの屋敷には、護衛最終日の翌朝までの滞在ということになっている。
だから明日1日が終わって建国祭期間中の護衛依頼が終了したら、急いで片付けを終わらせて明後日の朝に僕達はその足でエレストアを出て、そのまま真っ直ぐ南へ進んで隣国スカール公国との国境を越えようと考えている。
アルバート様は僕達に懐いてくれてたし、ユーナの言う通りにお別れするのは寂しい気持ちもあるけれど、元々僕達は衛兵の人手に余裕が出来るまでのつなぎだったんだし、いつまでもこの屋敷に居候してるわけにもいかない。
世の中には身分の高い人が高ランクの冒険者をお抱えにするなんてこともあるけれど、今のところ僕達にはそういった話は無い。
なんにせよこの護衛も後1日、気を抜かずに頑張ろうと話をして、僕達はアルバート様の所に戻った。
建国祭最終日。
この日の日中はアルバート様も僕達も特に用事などは無いということで、屋敷の中でのんびりした時間を過ごしていた。
予定が入っているのは夜になってから。
建国祭最終日ということでこの日の夕方から公城前の広場では大きな閉幕の式典が行われ、それにはアルカール大臣やこの国の公王様も出席する。
そしてその式典の後は、公城内で政府関係者や貴族を集めてのパーティが開催される。
そしてそのパーティにはアルバート様も出席されるとのことだ。
本格的な社交デビューはまだしばらく先とはいえ、1度くらいはこういう場を見せておこうという考えらしい。
そんなこんなでアルバート様の勉強に付き合ったりアリサの指示で軽く運動をしたり、僕達は庭先を借りて基礎訓練をしたりして時間を潰す。
ちなみに昨晩僕とアリサとユーナで話していたローザリア王国の狙いがどうこうという話については、念の為ということでゴードンさんには報告を上げている。
僕達も「特に確証があるわけではないのですが」という体で話をして、ゴードンさんも「正直なところを申しますと、突拍子もないお話ではございますね」と、あまり本気にはしていない様子だった。
塀の外では、いつもと変わらず遠くからお祭りの喧騒が聞こえてくる。
今日が最終日ということで、なんだかここ数日よりも一段と賑やかな感じだ。
日が傾いてきた頃に、一度アルカール大臣が帰宅。
アルバート様と一緒に身支度を整えて、馬車に乗って閉幕の式典へ出発する。
僕達は今はアルカール大臣が個人的に雇った私兵という立場なので、式典に出るなんてことは当然出来ないのだけれど、行き帰りと式典の間のアルバート様の護衛ということで3人で馬車の後に付いて行った。
式典に参加する以上は護衛とはいえあまり見苦しい格好をしているわけにもいかないので、せっかくだから普段着ることのない一張羅でも着てみるかと、コモテの町で革職人のランドルフさんに仕立ててもらったシャドウタイガーのコートを着てみる。
アリサとユーナも今夜はいつものジャケットやジャンパー姿ではない。
2人共いつの間に買っていたのか、ちょっとお洒落な正装っぽい感じの服装になっている。
とはいえ主目的は護衛ということで着ているのはドレスなどではなく、パンツスタイルの動きやすい格好。
腰にはポーチに改造したマジックバッグを付けており、何かあれば即座に武器を抜ける用意をしているのがわかる。
それでも、いつもの冒険者装束ではない2人の姿はとても新鮮だ。
式典会場に到着すると、そこは既に大勢の観客ですし詰め状態になっていた。
偉い人を直に見られる機会なんてのはそうそうあるものではないから、公王陛下も参列されるこの建国祭閉幕式典は、毎年大勢の観客でごった返すのだそう。
前世でもなんか、お正月の式典に観客が10万人だか20万人だか押し寄せたなんて話、ニュースで見た覚えがある。
アルカール大臣はじめ政府の要人達は会場に設営されたステージに上り、アルバート様など要人達の家族はそのステージの脇に控える。
当然ステージの周囲は、鎧を着込んだ衛兵隊が警備に当たっている。
そして僕達護衛などは、ステージから少し離れた場所に固まって待機するように指示された。
僕達以外の護衛は騎士風の鎧を着込んだ人や、僕達のように武器は持っているもののわりと軽装の人など色々だ。
司会進行の下特に問題が起こることもなく式典は進み、アルカール大臣達政府要人の挨拶が終わった後で、最後に公王様がお出まし。
公城やアルカール大臣の屋敷に出入りしていた僕達も、直接顔を見るのは初めてだ。
公王様は30代くらいの男性で、背は高く茶色の髪。
口元には笑みを浮かべているけれど、目付きはどこか落ち着かない様に見える。
緊張でもしているのだろうか。
公王様は観客の拍手と歓声の中壇上に立つと、右手を軽く上げて喧騒を静め、
「今年も無事に建国祭を開催出来たことを嬉しく思う。我が国民も、他国から来た者も、最後の夜を楽しんでほしい」
と簡単に挨拶の言葉を述べる。
最後に会場全体に向け手を振ると、再び湧き上がった観客の拍手と歓声を受けながら壇上を後にして行った。
なんか呆気ない感じもするけど、警備の関係もあるしまあこんなもんなんだろう。
続いて大臣達政府関係者も観衆に手を振りながらステージを下りて、司会が式典の終了を告げた。
本当はこの式典の終了を以て建国祭も閉幕となるらしいのだけど、実際のところは今夜の日が変わるくらいの時間までお祭りの喧騒は続くのだそう。
式典も終わったところで、アルカール大臣達は政府関係者や貴族達と一緒に、パーティが行われる公城のホールへと移動する。
「私、王様って見たの初めて」
「いや私もだ」
なんて喋っているユーナとアリサの声を聞きながら、僕達も馬車に付いて公城へ向かった。
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