21. てき の ねらい
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アルカール大臣の屋敷に戻る途中で、ギャング団『ダブル・ゼロス』の残党の襲撃を受けた僕達。
駆け付けた衛兵から事情聴取を受けた僕とアリサは、冒険者証を提示してアルカール政務大臣の依頼を受けた3級冒険者であることを伝える。
2人の衛兵が大臣の屋敷まで同行し、門番に証言が間違っていないことを確認した上で、僕達は解放となった。
ちなみに死亡したリーダーであるジュオの手下達は、完全に意気消沈した様子で衛兵達に連行されて行った。
目の前で自分達のヘッドが殺害されたのが相当にショックだったらしい。
彼らの様子を見る限り、それなりに慕われていたリーダーでもあったみたいだ。
そんなジュオがいなくなったとあれば、『ダブル・ゼロス』のチームとしての活動も今後は収束していくと思われる。
まあ逆に、今度はバラけたチームのメンバーが個別にトラブルを起こす可能性も出てくるので、そこは注意が必要なのだけれど。
何にせよ、これで『ダブル・ゼロス』の件については一件落着と屋敷に戻った僕とアリサを出迎えたのは、報告を受けていたユーナの呆れ顔と、アルバート様のキョトンとした顔と、ゴードンさんの苦笑顔と、それからメイドさん達の感心と怯えが混ざった顔だった。
「どうしてキミ達は外に出る度にトラブルに巻き込まれるんだろうね?」
「そうは言ってもだな……」
「歩いてたらいきなり向こうから襲いかかってきたもんだから……」
屋敷に戻った後僕とアリサはゴードンさんに事の報告を済ませると、アルバート様と部屋に戻ってそこでユーナにジト目を向けられていた。
さすがに今日は床に正座はしていない。
「まあ、これで何かが解決するならそれで良いかって思うようにしたけどさ」
「そ、そういえばさ、あのメイドさんのルルーさんだっけ?何か僕達嫌われてるよね、冒険者絡みで嫌な目にあったことでもあるのかな?」
「話を逸らさないの」
「はい」
ユーナにばっさり切られる僕。
ちなみに今僕が話題に上げたルルーさん、僕達がこの屋敷に来た当初から警戒の目を向けられていたのだけど、先程すれ違った時は思いきり敵意をこめて睨みつけられた。
本当に、何かあったのだろうか?
彼女のことも気にはなるけれど、とりあえず今は3人で起きた事態の整理と今後の打ち合わせをする。
「……じゃあやっぱり、『ダブル・ゼロス』に武器を流していたのはローザリア王国だったんだ」
僕とアリサからの報告を聞いて、思案顔になるユーナ。
「確定したわけではないが、まあ九分九厘間違い無いだろうな」
「でも、なんでわざわざそんなことを?」
「そりゃあ……この国を奪い取るため?ローザリア王国はずっと昔からこの国を狙ってるっていう話だし。死んだジュオも、『この国をひっくり返すんだ』とか言ってたし」
「国をひっくり返すとか、言うだけなら良いとして実際無理だよね?武器なんか持たせても、あいつら言ってしまえばただのチンピラ集団なんだし。それが50人100人集まったって軍隊に敵うわけなんかないでしょ。実際それで負けて連中、ローザリア王国からこっちに逃げて来る羽目になったんだよね。そんなのが武器を持ったからって、国をどうにかなんて出来るわけないよ」
「そうだな。実際私とコタロウの2人で対応出来たわけだからな」
ユーナの言葉に頷くアリサ。
う〜ん、確かにそうだよなあ。
連中がこの町に来てからも、やってたことといったら恐喝やら暴行やら、そこらのゴロツキが少々過激になったという程度。
もちろんそれはそれで大いに問題ではあるのだけど、ただそんなことしかやれない連中が、国をどうこうなんて大それたことが出来たとは思えない。
「建国祭の対応で警備が手薄になってる時を狙って、どこか重要施設を襲撃する?公城……はさすがに無理としても、たとえばこことか」
実際今ならこのアルカール大臣の自宅も必要最低限の警備になってるんだし、数十人からの武装した集団に襲われれば防衛は厳しいかもしれない。
それで大臣が大怪我したり殺されたりすれば、この国は多少なりとも混乱するだろう。
そこを狙ってローザリア王国から軍隊が侵攻するとか、そんな感じだろうか。
そういえば今、ローザリア王国から建国祭の来賓として、ファイリィ第2王女様とイルマリア・ソレイル将軍が来てるんだっけ。
なら当然、護衛としてある程度の手勢も連れて来ているはず。
この国の政府が混乱すれば、何かしらの動きを見せるかもしれない。
僕がそんなことを2人に話すと、ユーナがふと思い出したと口を開いた。
「そういえばさっきゴードンさんに聞いたんだけど、ローザリア王国の王女様と将軍、もう王国に帰ったって」
「へ?」
「そうなのか?」
「昨日この町を出発したってさ。なんか元々、そういう予定だったみたいだよ?」
「まだ建国祭は続いているのにか?」
「いやまあ、来賓がスケジュールとかの関係で、イベントの途中で帰るってのはある話だけども」
それじゃあもう、あの凄まじい槍使いのイルマリア将軍はこの町にはいないのか。
ちょっと気が楽になったかな。
とはいえ、ローザリア王国の企みについては依然わからないままか。
狙いはこの国を奪い取ることだとして、『ダブル・ゼロス』の連中に武器なんか流して、一体何をしようとしていたのやら。
少しの間考え込んでいた僕。
ふと、横でユーナが僕をじっと見つめているのに気が付いた。
「ねえコタ、ちょっと考えてほしいんだけど」
「な、何?ユーナ」
「……もしこれがキミだったら、この状況からどう動く?キミが仮にローザリア王国の王様で、この国を倒そうとしてるとしてさ」
「ぼ、僕なら?」
藪から棒に凄いことを訊いてくるな。
この国を倒す、ねえ……
「うん。キミならどういう風にする?どうすれば今みたいな状況になって、ここからどうやればこの国を取れると思う?」
え〜僕ならか。
真っ正直に軍隊で攻め込むってのは、多分厳しいんだろう。
周囲の国との兼ね合いもあるし、戦を始めるなら大義名分だって必要だ。
第一それでこの国に勝てるなら、変な搦め手なんか使わないで最初から侵攻してるはず。
それ以外で国を落とす方法といったら……
工作員で?
いや駄目だな、政府の中枢を抑えるには、絶対にある程度の戦力は必要だから……
ということは問題は、どうやってその戦力をこの公都に入れるかということになるわけで……あ。
いやまさか……
でもそれなら……
いやでも、さすがにそれは……
う〜ん、でもまあ、何でもありと考えるなら……
「何か思い付いたみたいだな?」
アリサの言葉に、僕は頷く。
「うん、現実的かどうかは別にしてね」
ローザリア王国がこのルフス公国を狙っているという前提と、今のエレストア市の状況、ここ数日で僕達が出逢った事件、そうした諸々を加味して考え付いた予想。
そのいくつかの考えを、僕はユーナとアリサに話し始めた。
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