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20. ゆうがた の しゅうげき

よろしくお願いします。

「アリサ!」


「!!」


僕の声に反応したアリサが、突っ込んで来た人影が突き出す短剣をかわし、手刀でその凶刃を叩き落とす。



捕まえようとしたアリサの手を払い除けて跳び退ったその人影の姿は、身長はアリサと同じくらいで、細身ながら引き締まった体格の男。


茶色の髪を背中に伸ばし、一件端正な顔付きではあるけど、服装は粗末。


僕達を睨みつける目は憎悪に染まっている。


男に続いて、付近の物陰からは4人程の武器を持った男達が現れて、僕達と相対する彼の後ろに立った。




「何者だ」


「……コイツらだな」


「間違いねェ。コイツらがオレ達の仲間をやったヤツラだ」


アリサの誰何には応えずに、僕達を見て何やら確認している男達。


仲間をやった、ということはもしかして……



「オレ様がいねェ隙に、仲間が世話になったみてェだな。その落とし前をつけさせてもらうぜ」


僕達に向き直り、怒気の滲んだ言葉を発する男。


「そうか、お前が『ダブル・ゼロス』とやらのリーダーだな。名前は確か……ジュオとかいったか。仲間が捕まったので、その逆恨みで襲ってきたわけか」


目を細めて言うアリサ。


そんな彼女の反応に、目の前の男達からは怒りのうめき声が上がる。



「テメェ……!」


明確な殺気を向けられるも、アリサの方は涼しい顔。


「そもそもが貴族街の中に大量の武器などこそこそ持ち込んでいれば、咎められるのは当然のことだろう。その当然のことをしていて捕まったからといって、落とし前も何も無いものだ。そんなことよりも答えろ、お前達はあの廃倉庫に武器など持ち込んで、一体何をしようとしていた?」


アリサの言葉に、男達はさらなる怒りをみなぎらせる。


「このアマ!!」


「ぶっ殺してやる!!」


「……!」



怒りをこらえきれなくなった様子で、ジュオの後ろに付いていた男が2人、剣を振りかざして襲いかかってきた。


僕はアリサの前に飛び出して、持っていたスコップを男達の眼前に突き出す。


一瞬怯んだところをスコップで顔面を張り飛ばし、剣を握った手首を(したた)かに打ち据えた。


コモテの町の騎士団の屯所など、折を見て槍の扱いを練習していたのが役立った。


剣を取り落とし、手首を押さえ、絶叫を上げて道に転がる暴漢達。



それを見たジュオが拳を構え、他の2人が剣を抜く。


「こ……っの野郎!」


「フッ」


そんな彼らに、軽く笑みを浮かべたアリサは担いでいたスコップを脇に置いて軽く指を鳴らすと、次の瞬間怒れる獅子のごとき猛烈な勢いで彼らに殴りかかった。




僕が手下2人を抑え、アリサはジュオ本人と殴り合う。


ジュオは俊敏な動きでアリサの繰り出す拳をかわし、怯むことなく前に進み出る。


武闘派という話ではあったけど、なるほど確かに強い。


僕の方は手下2人を既に無力化済みで、先に倒した奴らと合わせて動き出したりしないように注意しながら2人の戦いを見守っていた。


割って入れる感じではないけれど、それでも万が一に備えてボウガンはいつでも撃てるように構えている。



そこに「なんの騒ぎだ!」と衛兵が数人駆け付けてきたので、僕は冒険者証を提示して彼らに手下4人を捕縛してもらい、アリサと戦っているジュオについては少し待ってくれるようにお願いする。


戦いは今のところアリサが優勢。


ジュオは確かに動きは速いけど、アリサはそのスピードに乗せて繰り出される攻撃を1発もくらってはいない。


落ち着いた様子でジュオの拳を受け止め、捌き、カウンターで的確に反撃を放つ。


ついにアリサの拳がジュオの顔面を捕らえ、一撃を入れて吹き飛ばす。


彼女は特に息を乱した様子も無く、地面に転がったジュオに向かって声を発した。



「そろそろ吐いたらどうだ。お前達の狙いは何だ?」


それに対して起き上がったジュオは、口から血を吐きながら凄絶な笑みを浮かべた。


「ヘッ、わからねえのかよ!仲間が集まって武器も手に入ったんなら、やることは1つっきゃねェだろうが!」


「どこかの貴族の家に、強盗にでも入るつもりだったか!」


「そんなつまんねェことなんかするかよ!オレ様がやりてェのは、この国をひっくり返すことだ!!」


「国を……ひっくり返す?」


足を止めて訝しげな顔になるアリサ。


その間にジュオがふらつく足で立ち上がる。



「つまんねェだろがこんな世界!どいつもこいつもダラダラ日銭稼いで、チマチマ他の奴のアラ探して見下すことしか考えねェでよ!退屈なんだよ!俺はそんなクソみてェな生き方なんてしねェ!刺激がねェなら俺が刺激を作ってやる!この退屈な国を、この俺が変えてやるんだ!!」


「戦いがしたいなら冒険者か軍人にでもなって、魔物や盗賊と戦えば良いだろう!」


「そんなつまんねェ奴なんか倒してどうなるよ!俺はもっとでけェことをやる!誰よりもデカくなる!俺にはその力がある!!」


「街中で一般人相手に暴れたり、大勢で武装して罪無き者を襲撃するのがお前の言う力とやらか!」


「ヘッ、お貴族様はよく言うだろ?でけェことをするためには必要な犠牲だとか。なら俺のもそれだよ。でもそれもテメェらのおかげで丸潰れだ。落とし前はつけてもらうぜ!!」


笑いながらまくし立てるジュオ。



そんな彼に対するアリサの応えは、嘲笑だった。


「随分と……つまらん奴だな」


そんな彼女の言葉に、ジュオは一瞬無表情になる。



「……なんだと?」


「現状に不満があるから、それを変えるために行動するのはまあ良い。だがそれでやっているのが、チンピラの集団を引き連れて街中でせこい犯罪行為か。そんなことで世の中が変えられると、お前本気で思っていたのか?」


「……」


「そもそも国をひっくり返すと言うが、ひっくり返してその後どうする?お前が王になってこの国を治めるのか?お前が治めればこの国は、お前の望む刺激のある国になるのか?その刺激とやらはどうやって作る?まさかお前達が今までやってきたような犯罪行為か?」


「……うるせェ」


そしてぎりっと歯を噛み鳴らし、煮えたぎるような怒りの形相になるジュオ。


「そもそもお前達、ローザリア王国のターホルンで官憲に摘発されて、それでこの国へ逃げて来たんだろう。ローザリア王国には負けたが、この国だったら弱そうだから勝てるかもしれないとでも思ったか?そんな負け犬根性で国をひっくり返すとはまた、笑わせてくれるじゃないか。私は先程お前に冒険者になれと言ったが訂正しよう。芸人などはどうだ?お前には人を笑わせる才能がありそうだ」



口元に薄ら笑いを浮かべて、ジュオを煽りまくるアリサ。


でもその目は決して笑ってはおらず、探るような眼差しをジュオに向けている。


相手を怒らせて、情報を引き出すつもりなんだ。


ジュオの方はそんなアリサの様子には気付かずに、ただただ怒りをたぎらせる。


「……ナメんじゃねェ。俺をナメる奴は許さねェ。誰にも……ナメた口はきかせねェ!!国が何だ!役人がどうした!俺は負けてねェ!!奴らにだって、俺は手先になったわけじゃねェ!利用してやったんだ!下に付く振りをして、おだててやっただけだ!」


「ほう、お前は国を利用していたのか」


意外とやるものだな、とアリサは目を見開き感嘆して見せる。



ジュオはそんな彼女の反応に気を良くしたのか、にやりと笑って言葉を続けた。


「そうさ。諜報部隊だか何だか知らねェがなんのことはねェ。ちょっと尻尾を振る真似してやったらあっさり信用しやがった。武器も、隠れ家もホイホイよこしてきた。甘ェ奴らだぜ!こっちはハナから奴らの犬になるつもりなんかねェ!この国をひっくり返したら次は奴らだ!その次はろーざ「伏せて!!」」




ジュオが得意になって喋っている最中、僕の猫聴覚が捉えた風切り音。


僕の上げた声に反応し、咄嗟にアリサと衛兵達がその場に伏せる中、1人だけ僅かに遅れたジュオ。


その彼の側頭部を、空気を斬り裂いて飛んで来た1本の矢が貫いた。


そのまま物も言えずに、ジュオの身体が地面に崩れ落ちる。



「リーダー!?」


衛兵に取り押さえられていた、ジュオの手下から悲鳴が上がる。


僕はすかさず矢の飛んで来た方向へボウガンを構えるも、向いた先には既に何者の姿も無い。


周囲を探ってみるけど殺意のようなものは無く、少し離れた場所から何者かが駆け去っていったような気配が僅かに残っているだけだった。


逃げられたか。



僕が振り向いて軽く頷いて見せると、もう危険は無いとしてアリサと衛兵達が立ち上がる。


「……やられたな」


「うん。口封じ、だろうね。けっこう際どいところまで喋ろうとしてたし」


やったのはやっぱり、先日の覆面の襲撃者かな。


そしてジュオが最後に言いかけた言葉、おそらくはローザリア王国と言おうとしたんだろう。


そんな彼の口を封じるということは、予想していた通り敵はローザリア王国の工作員の可能性が大か。


さっきの話からして、『ダブル・ゼロス』をここエレストア市に連れてきて、武器やら何やら手配していたのもローザリア王国のようだ。




そうして顔を見合わせている僕とアリサに、


「話を、聞かせてもらうぞ」


と、衛兵が身構えながら近付いて来る。


そして周囲には、リーダーを失って泣き崩れる手下達の嗚咽が、風に吹き散らされていったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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