19. ぎゃんぐ の かいめつ
よろしくお願いします。
「それで、避難場所として考えていた倉庫の下見に行ったら?」
「はい」
「そこになんかわけのわからない連中が大量の武器を持ち込んでいたところに出くわして?」
「はい」
「まとめてぶちのめして来たと?」
「はい」
「何やってんの?」
「い、いやでも、本当にいきなりだったんだよ!?扉開けたらなんか大勢いるし!びっくりしてたら襲いかかってくるし!」
「そ、そうだ!先に武器を向けてきたのはあの暴漢共なのだから、私達は自身を守ったまでだ!それに無人のはずの倉庫にあんなに大勢たむろして武器まで運び込んで、明らかに怪しいだろう!」
「アリサ」
「?」
「キミ、なんだか最近コタに似てきたんじゃない?」
「な、何!?」
……なんでアリサはそんな世界の終わりみたいな顔してんの?
現在僕とアリサはアルカール大臣の屋敷に戻り、自室の床に2人で正座してユーナの説教を受けている。
ゴロツキ相手の大乱闘の末に、廃倉庫から撤退した僕達。
そのままこの屋敷に駆け込んだわけなのだけれど、どうもそれを駆け付けた警備隊の人にばっちり見られていたらしい。
大乱闘の現場から逃げた2人組が入り込んだということで警備隊から屋敷に問い合わせが入り、しらばっくれてお茶でも飲もうとしていた僕とアリサがユーナによって警備隊の前につまみ出され、そして事のあらましを白状することになった。
貴族街に隠れて集まってしかも大量の武器を用意しており、しかも発見されるなり襲いかかってきたいうことで、あのゴロツキ集団が何か良からぬことを企てていたのは明白。
仮に100億歩ぐらい譲って企てていなかったとしても、貴族街でそんなことしてたというのは普通に処罰案件だ。
そんなわけで警備隊からは不埒者を一挙に捕らえることが出来たと感謝の言葉をもらい、ゴードンさんからは良からぬ企てを未然に防ぐことが出来たと取りなしてもらったものの、それはそれ、これはこれである。
警備隊に聞いた話では、あの倉庫にいたゴロツキ達は先日僕達の話題に上った『ダブル・ゼロス』の連中。
僕達の大立ち回りの結果死者こそ出なかったものの、その場に30人からいた者達の半数以上が、足腰立たない程に痛めつけられていたのだそうで。
アリサ恐るべし。
それであれば万が一釈放されたとしても、そんなすぐには行動を起こすことは出来ないだろう。
おそらくは僕がここ2晩程目にしていた真夜中の通行者も『ダブル・ゼロス』のメンバーだったのではないだろうか。
思い返せばあの連中、廃倉庫のある方向へ歩いて行っていた。
夜中の人目が無い頃合いを狙って、貴族街の偵察でもしていたのだろうか。
そんな『ダブル・ゼロス』が元々どれだけの人数いたのかはわからないけど、奴らも今回の一件で大打撃を受けたはず。
ここ最近街で大量発生しているトラブルの多くも連中が原因ということであれば、これで衛兵や警備隊の人手不足もある程度ましになるかもしれない。
ただ、リーダーのジュオという男だけは行方がわからないらしいので、それについては今後も警戒する必要がある。
そんなこんなで部屋の隅のアルバート様に笑いを堪えた顔で見られながらユーナに叱られて、少しした後に解放された僕達。
痺れる足を抱えて、今日も夜遅くに帰って来て僕達の説教の場に出くわしたアルカール大臣に呆れ顔で見られながら報告を済ませると、いつもと同じ様に僕が夜間の護衛に付き、ユーナとアリサはベッドに潜り込むのだった。
案の定その晩は真夜中の通行人は現れず、特に何事も無く朝を迎えることが出来た。
おそらくはやはりあの通行人は『ダブル・ゼロス』のメンバーだったのだろう。
これまでと同じ様に朝食を食べたら一眠りして、その後昼食を済ませてから僕は庭師に借りたスコップを持って、昨日と同じくアリサと一緒に屋敷の外へ出る。
夕方、一仕事終えた僕達は屋敷に戻り、後はそれまでと同じくアルバート様の護衛に付き、そしてその日は特に事件などが起こること無く終わった。
事件が起こったのはその翌日。
前日と同じく一仕事終えて、夕方スコップを担いで屋敷に戻る途中、僕の猫聴覚がこちらに向かって突進して来る足音を捉えた。
◇
「あの無頼の徒が、壊滅させられたと?」
「もうちょっと頑張るかと思ったんですがねえ。イキってたわりに人殺す度胸も無かったし、予想外の弱さでしたわ。すんませんね」
「とはいえ、ある程度の市中の混乱には成功しています。警備隊の動きも予定通り。彼の頑固さもあり戦力低下は生じましたが、概ね狂いは無いと見て良いかと」
「こちらも、ほぼ準備は完了している。多少の到着遅れは問題は無い」
「あの冒険者達は?かなりの腕前と見られますが」
「あの男の方の体術と剣さばきは相当なもんです。加えて光の魔法を目眩ましに使うらしい。女の方はわかりませんが……ただ部下にも鑑させましたが、3人共強力な攻撃魔法なんかは使えなさそうだ。全員同程度の実力であれば、おたくらなら間違いなく負けはありませんよ。ヒヒッ」
「……では計画は、予定通りということで?」
「この日を逃せば、せっかくの好機を逸することになります。予定通りで、皆さんよろしくお願いします」
「どうせならあの男の方、俺がもらっても良いですかねェ?舐めたマネしてくれた上に、奴のせいで部下1人処分することになっちまった。借りは返さにゃあ」
「……好きにするが良い」
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