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18. そうこ の したみ

よろしくお願いします。

すぐに戻ってきたゴードンさんに金庫と部屋の鍵を閉めてもらい、僕達は部屋に戻る。


もうそろそろ良い時間になってきていたので、アルバート様は身支度をして休むことになった。


昨日と同じくアリサとユーナが先に自室で休み、僕がアルバート様の隣の控室で不寝番に着く。


特に何事も無く、夜の静かな時間は流れていったのだけれど、夜も半ばを過ぎた頃に、またそれは現れた。




それは昨夜と同じく真夜中の通行人。


今夜来たのは冒険者風の男性4人グループ。


肩には大きめの荷物を担ぎ、やはり昨晩と一緒で酔っ払った様子で、お喋りをしながらふらふらと屋敷の正門前を通り過ぎて行く。


流石に門番の人も気になった様で「ここは貴族街だ、夜中に出歩くな!」ときつめに声をかけていた。


それに対して男達は「すんません、他所から来たもんで、道に迷っちまって……」と頭を下げながら歩き去って行く。



それから少し経つとまた冒険者風の男が5人、荷物を担いで千鳥足で歩いて来た。


こちらも門番に叱られて、頭をかきながら足早に通り過ぎて行く。


……やっぱり変だな。


酔っ払いとはいえ、こんな真夜中に平民が連日何組も貴族街をふらふら歩く。


そんなのまずあり得ないことだというのは、今朝門番の人にも確認している。


だとするとあの通行人は何?


後でもつけられれば良いんだけれど、ここを空にするわけにもいかないし……


と思ったところで気が付いた。



しまった。


どうせならアリサかユーナに起きていてもらえば良かったんだ。


そうすれば1人にここを任せて、僕はあの男達の尾行なり出来たものを。



思い至った時には既に遅く、男性達は通りの闇の奥へと消えて行った後。


今からでは彼らがどちらへ向かったのかなんてわからない。


臭いを辿るという方法もあるかもしれないけど、僕はそんなのやったことが無いし正直自信も無い。


もしもう一組来ることがあったら、その時はユーナを起こして僕が後をつけようと注意してはいたものの、結局その夜は他に屋敷の前を人が通ることは無く、そのまま夜明けを迎えたのだった。




アリサとユーナが起き出してきたところで、僕はまた正門に行って門番に昨晩の通行人のことを確認。


聞けば服装まではある程度見れたものの、やっぱり暗いということもあって顔立ちまでは判らなかったらしい。


「そういえば連中、やけにこっちから顔を背けていた気がするな。捕まるのが怖かっただけなのかもしれないが」という門番の言葉がなんとなく気になった。



そして部屋に戻った僕はアリサとユーナに昨晩の通行人のことを報告して、それから朝食まで一眠り。


時間になったところでアリサに起こされて、朝食を済ませた後でゴードンさんに昨晩のことについて報告すると、再度ベッドに潜り込んで昼まで寝る。




昼食の時間になったところでユーナに起こされ、3人で食事を取りながら軽く打ち合わせ。


食べ終わると食器は屋敷のメイドさんが片付けてくれる。


今日片付けをしてくれているメイドさんは名前をルルーさんというらしいのだけど、どうも僕達彼女には嫌われているみたい。


話しかけても険のある言葉で簡単な返事しかしてくれないし、廊下ですれ違う時などはあからさまに睨んできたりする。


屋敷の使用人の人達とは普通に話しているので、誰にでも無愛想な性格というわけでもない様子。


話しているのを聞いてなんか聞き覚えのある声だなと思ったら、この屋敷に着いた初日に、廊下で同僚のメイドさんに「冒険者なんて信用ならない」と主張していた人だった。


どうやら僕達がどうというよりは、冒険者全般が嫌いみたいだ。


まあ世の中そういう人もいるだろう。


仕方ない。




昼食が済むと、僕はゴードンさんに少し外出する旨を伝えて、アリサを伴い屋敷の外に出た。


僕達が出かけている間、アルバート様の護衛はユーナに頼んである。


支度をして出かける僕達を見送るユーナの目が若干恨めしそうに見えたのは……気の所為だと思いたい。


でも彼女も、この護衛依頼を受けてから外出もせずに屋敷に詰めっぱなしなんだし、何かしら埋め合わせはしないといけないな。



僕とアリサは2人並んで、少しゆっくり目のペースで貴族街の通りを歩いていた。


「こうして2人で歩くというのも新鮮だな」


「そうだね~。僕達基本は3人か、別で動く時も僕1人とアリサとユーナが2人でってのが多いもんね。どうせならこのままお祭りを観に行く?」


「そうだな、行くか……と言いたいところだが、今は仕事中だぞ。それに何より、黙ってそんなことをしたらユーナに恨まれる。あいつもあれで怒らせると怖いからな。お前も知っているだろう」


「そりゃあもう」



2人で冗談を言いながら向かう先は、先日ゴードンさんに教えてもらった廃倉庫。


もしも今、僕達がいるアルカール大臣の屋敷に賊の襲撃などがあった場合、そのまま邸内で戦えば当然屋敷には被害が出るわけで。


そうした際に損害を出来るだけ少なくするためにも、周囲をある程度気にせず戦える場所を見繕っておこうということで、今日は下見に行くところだ。


もう護衛期間も折り返しにさしかかるということで、本当なら護衛を始めた初日か、次の日くらいには見ておくべきだったのだろうけど、何やかやで場所だけ確認したら中は後回しになっていた。


何ならついでに罠か何か仕掛けておくのもありかもしれない。


取り壊し間近で人は誰も近付かないって話だし。




そんなことを話しながら、僕とアリサは目的地の廃倉庫の前に到着した。


その廃倉庫は貴族街の外れにあり、高さは2階建ての家くらいで奥行きはかなり広そう。


そして外から見た限りでも屋根や柱の材木が所々腐っていたり壁のレンガが苔生(こけむ)していたりなど、かなり老朽化しているのが見て取れる。


「ここがお前の言っていた倉庫か。確かに古いな」


「……お化け屋敷みたいな感じになってるね。建国祭が終わったらすぐにでも取り壊しが始まる予定みたいだよ」


「お化け……ゴホン、本当に中も見ていくのか?」


「一応見るだけね。大丈夫、今までこの中で人が死んだり死体が見つかったりなんて話は無かったみたいだから」


「止めろ気持ち悪い」



まずは少し中を確認して、それから罠などについては考えることにしよう。


どのみち近日中に取り壊し予定なんだし、どうせならいっそのことわざと倒壊させて、そこに敵を生き埋めにするような罠とか……


考えを巡らせている僕を見てアリサが「また何かろくでもないことを企んでいるな」と呆れた顔をしながら倉庫に近付き、通用口のドアに手をかける。



……ん、あれ?この気配……


その時、僕の猫聴覚が扉の向こう側からの音を捉えた。


無人のはずの倉庫の中で、大勢の人のざわめく声。


ギャハハという笑い声。


がちゃがちゃと金属の擦れ合う音。


「アリサ待って!中に人がいる!」


「ん?」


僕は慌ててアリサを制止するも、その時既に彼女はドアノブに手をかけ、そのまま扉を開いてしまっていた。




扉の先にいたのは、街のゴロツキの様な格好をした大勢の男達。


薄暗い倉庫の中、明かり取りの窓からの光に浮かび上がった沢山の顔が一斉にこちらを向く。


見通しは悪いけど、見たところ10〜20代くらいの若い男が多い様。


どうやら酒盛りでもしていたらしく、中にはアルコール臭が立ち込めており、地面がむき出しの床には瓶やら食べ物やらが散乱している。


そんな彼らの周囲にはいくつもの、一抱えくらいの木箱や袋が置かれていて、蓋を開けられた箱の中に見えるのはこれまた沢山の黒光りする剣や、槍や、手斧など。



人がいないはずの倉庫の中に大勢の柄の悪そうな男と、大量の武器。


……テロ?


突然の遭遇に一瞬固まっていた僕達。


はっと我に返ると男達は一斉に立ち上がり、こちらはアリサが進み出た。


「何だテメエら!!」


「こっちのセリフだ!!」


男達とアリサの怒号が交差する。


次の瞬間、男達は手に手に近場にあった武器を取り、雪崩を打って襲いかかってきた。




それからはもうしっちゃかめっちゃか。


僕は襲ってくる連中の間を縫って倉庫の中を駆け回りながら、次々手足を狙いククリで斬り付ける。


アリサは手近に置いてあった1つ20kgはあろうかという武器の箱を、片っ端から持ち上げてはゴロツキ達に投げつける。


さらにはたまたま捕らえたゴロツキの1人を掴み上げると、それをぶん回しての大暴れ。


30分程続いた乱闘の末に、息を切らし始めた僕をアリサが担いでその場から退散した。


そして騒ぎを聞き付けて、僕達と入れ替わるようにして駆けつけた警備隊により、倉庫内に運び込まれていた大量の武器が発覚。


その場にいたゴロツキ達は、あえなく全員逮捕となったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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