14. はんざいしゃ の じょうほう
よろしくお願いします。
昼頃になって目を覚ました僕は、身支度を整えて昼食を済ませるとそのまま屋敷の外に出た。
ちなみに、アルバート様にお祭りの屋台で買って来た物を食べさせても良いかどうかについては、ゴードンさんに確認してみたところやっぱり良い顔はされなかった。
間食になってしまうのと、何よりも衛生面で心配があるのだそう。
まあ仕方ないだろう。
ならばその代わりに、食事の盛り付けを屋台料理みたいな形にしてみるのはどうかと提案してみると、それについては料理長と検討してみるとのことだった。
僕が用事を終えて屋敷に戻ったのは夕方頃。
夕食までにはまだ時間があるので、その間にユーナとアリサと打ち合わせ。
ユーナがやけににこにこしてるから何かと思ったら、僕がいない間にアルバート様からなんとプロポーズされたらしい。
すぐさま立ち上がって依頼を断りに行こうとする僕をユーナとアリサが取り押さえるという一騒動はあったものの、とりあえずは落ち着いて2人に調べて来たことの報告をする。
プロポーズについては、ユーナからちゃんと断ってくれたそうでほっと一息。
僕がどこへ行っていたのかというと、警備隊の詰め所。
先日のアルバート様の誘拐未遂の際に捕まえたチンピラ3人、今は警備隊で取り調べをしてるだろうから、何かわかったことがないかと行ってみたのだ。
だけど……
「釈放された?」
「うん、昨日のうちにだって」
僕の報告に、そろって目を丸くするアリサとユーナ。
この国では犯罪者を逮捕したら、まず警備隊が留置と取り調べを行い、その後軍に引き渡されて裁判やら刑務所行きやらという流れになる。
聞いた話では軍に報告を上げたところ、「こちらも今は余裕が全く無い状態、そんな街の無頼の徒などは形だけ取り調べたらさっさと釈放しろ。ていうか、殺人などの重罪でもない場合はいちいちこっちに回してなんかくるな」とのお達し。
それでもまあ出来ることはやっておこうと留置して聴取を行っていたところ、翌日になって「いつまでそんなのにかまっているのか。忙しいんだから早く追い出して次の仕事にかかれ」と再度文句を言われ、やむなく3人まとめて釈放することになったのだそう。
「いやでも、大臣の子を誘拐しようとした連中だぞ?それが軽犯罪だと言うのか?あり得ないだろう」
「そうなんだよねえ……」
アリサの憤りを含んだ言葉に頷く僕。
そう、貴族の……しかも国の大臣の、しかも公王様に次ぐ政府の要人の息子を誘拐しようとしただなんて、知ってた知らなかった関係無しに断じて軽犯罪どころの話じゃない。
下手したら国家反逆罪が適用される案件だ。
これは……どういうことなんだろう?
単に軍の担当者が事件を軽く見てただけなのか、それとも面倒事になるのを嫌がったのか。
もしくは本当に軍がてんてこ舞いで、全く余裕の無い状態なのか。
あるいは……アルカール大臣が、軍からは軽く見られているとか?
でも大臣には将軍が直々に護衛に付いているわけで。
……よくわからない。
まあわからないことは多々あれど、誘拐犯は釈放されてもういないということで話を聞くことは出来なかった。
その代わりに、逮捕した際にざっと聴取したことについては教えてもらうことが出来た。
それによると
「『ダブル・ゼロス』?」
「うん。最近この町で暴れ回ってるストリートギャング。僕達が捕まえた連中、このメンバーだったって」
衛兵さんから聞き出した話によれば、少し前から突然スラムに現れて勢力を伸ばした連中で、構成員は具体的には把握できていないもののかなりの人数。
リーダーはジュオという名で、どうやら相当な武闘派らしい。
今町中で起きてるトラブルも、かなりの割合でこいつらがやらかしている。
この町に元々あったストリートギャングやチーマーをいくつか潰した他、スリ、引ったくり、暴行、恐喝、強盗などの多岐に渡る犯罪行為を繰り返していて、警備隊も手を焼いている。
何度か構成員を逮捕してはいるのだけど、今のところ殺人などの凶悪犯罪までは起こしていないため、「軽犯罪は後回し」という軍の方針もあって本格的な捜査には踏み切れていないらしい。
「なるほど、そういう連中か……」
僕の話を聞いて頷くアリサ。
それに対してユーナは怪訝な顔をする。
「でもそういう奴なら、変な話だけど警備隊とも顔見知りみたいな感じになってたりしない?昔からトラブル起こしてた連中なら、警備隊にも対応のノウハウとかありそうだけど」
「いやそれがね。こいつら大体1週間くらい前、建国祭の準備が本格的に始まる頃からいきなり出て来た連中みたい。それより前は『ダブル・ゼロス』なんてチームは影も形も無かったし、リーダーのジュオなんて奴も誰も知らなかったって」
「それは……おかしいね。大きなチームを作れるような奴なら昔からスラムとかで名を馳せてそうなもんだし、そういう奴が人を集め出したら絶対に噂になるよ」
「スラムのような場所でも人数が集まれば、必ずそれなりの動きもあるはずだからな」
アリサとユーナは訝しがるけど、実際そんな様子は全く無し。
本当に、1週間程前を境に突然出て来た連中なのだそう。
そんな中、首をひねっていたユーナがふと思い付いたように呟いた。
「もしかして……チームごと他所からこの町に移動して来た?」
「やっぱりそう思う?」
ユーナと僕の言葉に、アリサが訝しげな目をユーナに向ける。
「……そんなことがあるものなのか?」
「いやまあ、私もそんなの聞いたこと無いんだけど」
基本チーマーやらギャングなんてのは縄張りが命。
拠点としている町から他所の町へ集団ごとお引越しなんてのは、正直なところイメージが無い。
「僕も無いだろうとは思ったんだけど、それでも一応念の為ということで冒険者ギルドに行って、他の町に行ったことありそうな人を探して聞き込んでみたんだよね」
ここで1件ヒット。
ローザリア王国からお祭りを観に来ていた『荒鷲の爪』というパーティの人達が、連中のことを知っていた。
というより、以前やり合ったことがあった。
「名前は『ダブル・ゼロス』。ローザリア王国の王都ターホルンで幅を利かせてた100人規模の大規模チーム。頭の名前はジュオでかなりの腕っぷしだった。これだけ一致してれば、まあ同じ奴らと見て良いんじゃないかな」
「ローザリア王国から流れて来た集団だと?」
「でも、なんでわざわざ地元を出てルフス公国にまで?勢力拡大って感じでもないけど」
「聞いた話だと連中、3ヶ月くらい前に軍の大規模な手入れを食らって、それ以来姿を見せなくなったみたいなんだよね」
実際話を聞いたカミュさんという人も、ここで『ダブル・ゼロス』の名前を耳にするまでは壊滅したと思っていた様子。
ここエレストアで、おそらくは同一の連中が暴れ回っていると聞いて驚いた顔をしていた。
「なるほど、その残党がこちらに逃げて来たわけか」
「新参のチームだから、舐められないように派手に動いているんだね」
アルバート様の誘拐未遂も、そうやって活動していた連中が身なりのいい子供が1人でいるのをたまたま見つけたので一儲け企てたとか、そんなところになるのだろうか。
連中と覆面の襲撃者との関係はまだわからないけど、新しい情報としてはこんなところだ。
そこまで話したところで、ユーナがふと何かを考える表情になった。
「ユーナ、どうかした?」
「ん?……いや、なんとなく気になっただけなんだけどね。『ダブル・ゼロス』の連中が暴れてて、その対応で警備隊と軍が今てんやわんやになるぐらいなんでしょ?軍の手入れを食らって、地元まで捨てて逃げて来た生き残りにしては、なんだか随分とハッスルしてるなって……ちょっと思っただけだよ」
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