13. まよなか の つうこうにん
よろしくお願いします。
それは窓の外、屋敷の前の通りを歩く通行人。
2人連れで、体格からしておそらくは両方男性。
片方が千鳥足でもう片方の肩に掴まり、2人でよたよたと屋敷の前を通り過ぎて行く。
一見、お祭りに行ってた人が家に帰ろうとしているところに見えるけど……
でもここは貴族街。
貴族であれば移動には基本馬車や魔獣車を使うので、徒歩でこんな所をふらふら歩くなんてことはまず無い。
そして何か用事でもない限り、平民が立ち入るような場所でもない。
それもこんな真夜中に。
呑み過ぎた酔っぱらいが前後不覚になって迷い込んだとか、家までの近道で通り抜けるだけとかあるのかもしれないけど、それにしたって平民なら普通は貴族街に近寄るのは避けるもの。
貴族の家なんてのは基本、お城の次くらいには警備が厳しい所だ。
こんな時間にふらふら歩いてる人がいれば、警備の人に見咎められて職務質問なんてまだましな方。
国や地域によっては問答無用で逮捕とか、罰則や実刑を食らうなんて場合もある。
それともこの国では、そういうのはあまり気にはされないのだろうか。
朝になったら門番の人にもちょっと訊いてみるか。
通行人2人は特に変な動きをするでもなく、ゆっくりと屋敷の前を歩き去って行く。
それを見送ってしばらくすると、またさっきの人達と同じ方向から歩いて来る人が現れた。
彼らはさっきの通行人2人と同じく酔っぱらいの体で、これまたさっきの2人と同じ方向へ歩き去って行く。
……流石にこれは変じゃないか?
こんな時間に貴族街をふらふら歩いてる酔っぱらいが2組。
お祭りで羽目を外す人が多いというのはあるんだろうけど、それでもなんかおかしい。
本当にたまたまという可能性も無くはないけど……
幸いその後は何事も起こらずに、僕は夜明けを迎えた。
空が白んできた頃合いに起き出してきたユーナとアリサに一旦その場を頼んで、僕は急ぎ屋敷の正門へ。
詰め所で帰る準備をしていた門番の人を捕まえて、昨夜のことを尋ねてみる。
門番の人達は3人交代で警備をしていて(本来は2人組6人交代だけど、建国祭の多忙のため人手を引き抜かれている)、内1人が真夜中に屋敷の前を通り過ぎて行った2人連れのことを見ていた。
貴族街を、しかもあんな時間に平民の風体の男達が歩いているということで、門番の人達もやっぱり気になって警戒はしていたのだそう。
ただ今は国を挙げてのお祭りの最中。
地理に疎い観光客が酔っぱらって迷い込んだ可能性も無きにしもあらずで、加えて見ていたところ変な行動を取る様子も無かったということで、そのまま見送ったらしい。
男達の細かな仕草や顔立ちなどについては、真夜中で暗かったこともありよくは見えなかったとのこと。
以前にもこんなことはあったのかと尋ねると、少なくとも話を聞いた門番の人は昨晩が初めてということだった。
今わかるのはこんなところか。
僕は門番の人達にお礼を言って部屋に戻り、アリサとユーナに昨晩見たもののことを報告する。
僕の話を聞いて首をかしげる2人。
「それは……確かに、妙な話だな。そんな真夜中に、平民がこんな所を……」
「まあお祭りに来た他所からの観光客が、酔っぱらって迷い込んだんじゃないかって話もあったんだけどね」
「でも普通なら気を付けるよね。貴族街なんて、平民から見たら怖い場所だし。下手したらふらふら歩いてるだけでも罰せられたりとかありそうだもの」
う〜ん、やっぱり平民にとっての貴族街のイメージってそんな感じだよな。
となるとやっぱりあの通行人は気になるなあ。
とはいえあの時は追いかけるわけにもいかなかったし。
今晩もちょっと警戒しておくようにするか。
僕が考えていると、横からユーナが声をかけてきた。
「ところで、コタはこの後どうするの?」
「少し休んだら出かけてくるよ。ちょっと調べたいこともあってさ。2人は何か必要な物とかある?買って来るけど」
「それなら……お祭りの屋台で串焼きか何か、食べる物買って来れないかな?アルバート様、一昨日抜け出した時に屋台を見たらしくて、食べてみたいって言ってたんだよね。でも私達が外に連れ出すわけにもいかないし。買って来た物を食べてもらうなら良いかなって」
「勝手な物を食べさせると、それはそれで怒られるかもしれんぞ」
「後でゴードンさんに訊いてみようか。もし問題無いなら何か買って来るよ」
こうして打ち合わせを終えたところでアルバート様も起き出してきたので、身支度を整えて朝食を済ませた後はユーナとアリサがアルバート様に付き、僕は空いたベッドに潜り込むのだった。
ご飯を食べてすぐに寝ると牛になるなんて聞いたことあったけど、猫が人間になってそこから牛になるとはこれいかに?
◇
「ねえユーナ、ユーナ達は旅をしてるんだよね?」
「ええ、そうですよアルバート様。私達3人で、あちこち見て回りながら南を目指しているんです」
「そっか……ねえユーナ、この国に残って、ボクのお嫁さんになってよ!」
「……へ?」
「……な!?」
「え、え〜と……すごく嬉しいんですけどアルバート様、私はもうコタロウと結婚していますから、アルバート様のお嫁さんにはなれないんです。アルバート様には、大臣様が私よりも相応しくて良い人を見つけてくれますよ」
「そ、その通りですアルバート様!それにアルバート様とこのユーナでは歳も離れ過ぎています!アルバート様がお年頃になられる頃には、ユーナなんてもう立派なおばさ……」
「アリサ……?」
「!!」
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