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12. やしき の たんさく

よろしくお願いします。

あまり勝手に邸内をうろつくのもどうかなので、執事のゴードンさんに一言話しておこうかと探していると、廊下の向こうから話し声が聞こえてきた。


「本当に困ったものよね。あんなゴロツキみたいな人達なんて屋敷に入れて、しかもアルバート様の護衛に付けるなんて」


「でも、旦那様が見込んだ人達なんでしょ?それに来た時ちょっと見たけど、そんな怖い人達には見えなかったけど……」


どうやら廊下の角で、屋敷のメイドさん達が立ち話をしているらしい。


メイドさんは2人で、片方が一生懸命もう片方のメイドさんに僕達は信用出来ないとまくし立てている。


僕のいる場所は陰になっているので、彼女達は僕には気付いていない。



「だって冒険者だよ?お金もらえれば人だって殺す人達なんだよ?実際何するかわからないってば。もしかしたらお屋敷の中の物盗まれるかもしれないし、注意しとかなきゃ」


「そんな変な人達かなぁ……」


う〜ん、なんか色々言われてるなあ。


まあ冒険者は盗賊を討伐して報酬をもらうこともあるわけだし、実際荒くれ者も多い。


戦いを生業にしてるということで怖がる人達もいるんだろうけど。


でもアルバート様の護衛をするのに、この屋敷の人達の協力もほしかったところではあるんだけどなあ……この様子じゃ厳しいかな。




僕がそんなことを考えていると、角の向こうにもう1人の声がした。


「あなた達何をしているの?今は休憩の時間ではないでしょう?」


「あ、侍女長すみません!」


「失礼しました!」


後から来た人に嗜められて、パタパタと足早に立ち去って行く2人の足音。


その足音が聞こえなくなると、廊下の角から侍女服を着た中年の女性が顔を出した。


アリサ程ではないけどすらりと背の高い人だ。



彼女は最初から僕がいるのに気付いていた様で、驚いた様子も無く頭を下げる。


「当家のメイド達が無礼を申しまして、誠に申し訳ございませんでした。お詫び申し上げます」


「どうかお気になさらず。荒事を活計(たつき)にしている人間なのは事実ですから、慣れない方にとっては恐ろしく見えることもありますでしょう」


僕の言葉に侍女長さんは「彼女達は後で改めて叱っておきますので」と申し訳なさそうに微笑んだ。



「申し遅れましたが、私は当屋敷で侍女長を拝命しておりますグレイスと申します。お見知り置きの程、よろしくお願いいたします」


「ご丁寧なご挨拶痛み入ります。僕は冒険者のコタロウと申します。短い間ではありますが、アルバート様の護衛をさせていただくことになりましたので、何卒よろしくお願いいたします」


僕が挨拶を返すと、グレイスさんは少し驚いた顔になったけど、すぐに表情を元に戻す。


「こちらへは、何かご用でしょうか?」


「いえ、アルバート様の護衛に付くということで、もし何かあった場合に備えてお屋敷の中を少し確認しておきたいと思いまして。その了承をいただければと、ゴードンさんを探していたところだったんです」


「なるほど。彼ならこの時間でしたら……ご案内いたします。こちらへどうぞ」




僕はグレイスさんに付いて、ゴードンさんの仕事部屋へ案内してもらう。


ちょうど部屋にいて書類を見ていたゴードンさんに、万一の事態に備えて屋敷の中を少し見せてほしいとお願いして了承をもらい、合わせて邸内で立ち入ってはいけない部屋なども教えてもらった。



僕達が立ち入れるのは、基本的に自室とアルバート様の部屋の周辺。


廊下を歩くのは構わないけど、他の部屋や特にアルカール大臣の部屋に立ち入るのは止めてほしいとのことだ。


ついでなので、もう1つゴードンさんに質問をする。


僕の問いに、怪訝な表情を浮かべるゴードンさん。




「この近辺で空家や空地、もしくは使われていない建物等……ですか?」


「はい。出来れば普段から人の出入りが無いような場所が、もしあれば教えていただければと」


「……理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「これも万一の事態に備えてですね。襲撃などがあった場合、僕達も出来る限りこちらのお屋敷には被害を出さないようにしたいので。もし近場にそういう人の立ち入らないような所があれば、そちらに敵を誘導とか出来たらなと」


僕の返答を聞いて、ゴードンさんが驚きの顔になる。


「いえ、失礼いたしました。まさかそこまでお考えとは……」


「自分でも、正直考え過ぎかなという気はしてるんですが」




さすがに普通に考えれば、この国の政治的指導者の家を襲うなんて、無謀な真似をする人間がいるとは思えない。


とはいえ、ここでもやっぱり気になるのが例によって昨日の襲撃者。


僕が戦った3人と、槍使いが1人。


全員かなりの手練れだったみたいだし、あれだけの腕なら攻めて来ないとも言い切れない。


もし攻めて来るとするなら、問題はこの屋敷の何を狙っているのかということになるのだけど。


まあ来なかったら来なかったで別に良いのだ。


ただ不安要素がある以上、用心しとくに越したことはないってだけの話。



ゴードンさんの話では、なんでもこの屋敷から歩いて15分程離れた所に、もう使われていない古い倉庫があるのだそう。


老朽化が酷いために中の荷物も全て運び出されていて、人の出入りなども無い。


景観が悪いので早く取り壊せという話になっていたのが、この建国祭の準備などもあって伸び伸びになっていたらしい。


なるほど、そこなら周囲には被害を出さずに戦えそうだ。


とはいえ……



「あくまでも何者かの襲撃があった場合の話で、それに上手く敵を誘導出来るとも限りませんので、あまり期待のようなものはしないでいただけると……」


僕の言葉に、ゴードンさんは「承知しております」と微笑んで頷いた。


話を終えると僕はゴードンさんの部屋を辞して、改めてざっと屋敷の中を見て回る。


そうしていると時間も昼にさしかかってきたので、アルバート様の部屋に戻った。




部屋に入るとアルバート様が僕を見て開口一番「あ、魚のお兄さん!」と声を上げた。


何だそれはとユーナとアリサを見ると、2人そろって笑いをこらえた顔を横に向ける。


一体どういう紹介をしてくれたのやら。


言うまでもないことだけど僕は魚ではない。


魚はあくまでも好物であって、僕は魚でもなきゃタヌキでもない、猫である。




アリサとユーナに謝られながら昼食を済ませると、僕は2人と簡単な打ち合わせをしてから屋敷の外に出た。


ゴードンさんから教えてもらった倉庫の場所の確認と簡単な買い物だけして屋敷に戻ると、後の時間はテーブルに買って来た大紙を広げて邸内と屋敷周辺、倉庫の位置取りなどの図面を作る。


描き物がある程度終わると、細部は後で詰めていくとして、僕は夜に備えて夕食の時間まで一眠り。




夕方アリサに起こされて出された夕食を済ませると、後はアルバート様が覗き込んでくる中アリサとユーナと改めて打ち合わせをする。


今回僕達はアルバート様の護衛を依頼として受けたわけだけれど、それはいつも護衛に付いていた人達が来れなくなったことでの、あくまで代理。


執事のゴードンさんに聞いたところによれば、いつも護衛に付いていた兵士の人達は特に24時間アルバート様に張り付いていたというわけではなく、主に外出の時などに側に付いて警戒をしていたとのことだった。


となると、僕達もそこまでガッチリ張り付いている必要も無いということなのだろうか。


とはいえ高額の報酬をもらう以上はしっかりやらねばということで、パーティをユーナとアリサ、そして僕の2チームに分け、昼はアルバート様が懐いているということでユーナとアリサがメインで付く。


夜は僕が大体夜半過ぎくらいの時間まで、後は交代で起きてアルバート様をガードするということにした。


例のあの覆面の襲撃者も気になることだし、少し強めに警戒しとくにこしたことはないだろう。




打ち合わせの後は僕とアリサがアルバート様の勉強を見たり、休憩時間にアルバート様にこれまでの冒険の話を聞かせたりして時間を過ごす。


今日はアルカール大臣は自宅には帰らずに、公城で泊まりになるらしい。


しばらくすると執事のゴードンさんが就寝時間を知らせに来たので、アルバート様が自室に戻り、それからアリサとユーナが身支度をしてベッドに入った。


僕はアルバート様の寝室の隣の部屋で待機。



灯りも消えて静まりかえった屋敷、夜の闇の中をゆっくりと時間が流れていく。


窓の外、遠くの方にはこの時間もまだお祭りの明かりが赤々と灯り、微かに喧騒も聞こえてはくるけど、貴族街であるこの屋敷の周りは静かなもの。


ずっと動かないと身体が固まってしまうので、たまに部屋の中を静かに歩いたりして時間を過ごしているところに、ふとそれは僕の目に入ってきた。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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