11. だいじん の じたく
よろしくお願いします。
思いがけず、アルカール政務大臣からの依頼を受けることとなった僕達。
大臣には家の人に宛てた紹介状を書いてもらい、その日は公城の来客間に泊めてもらう。
大きな城とはいえとんでもない強さの、それも1度殺されかけた相手が一つ屋根の下にいると考えるとちょっと怖かったけど、流石に城の中で襲いかかってくるようなことは無かった。
翌日の朝一で城を出るとまずは昨日まで泊まっていた『ホテル・モンテ』に向かい、チェックアウトをすませた。
続いて公城周囲の、貴族の邸宅が立ち並ぶお屋敷街に足を向け、アルカール大臣から教えてもらった大臣の自宅へ向かう。
家の人には、アルカール大臣から朝一で連絡を入れておいてくれているらしい。
もらった地図を頼りに探し当てたアルカール大臣の自宅は、大きさで言えばクロウ共和国で会ったレンダイ議員の自宅よりは小さく、一見質素にも見える建物だった。
でも屋敷を囲むフェンスはしっかりとした頑丈な造りで、フェンスの向こう側に見える庭も手入れが行き届いているのがわかる。
屋敷の正門を見つけたので、そこに立っている門番の人に大臣からの紹介状を見せて依頼を受けて来たことを伝えると、裏門に回るようにと言われた。
教えてもらった通りに屋敷の外周を回って裏門に行くと、そちらにも立っていた門番にも紹介状を見せて中に入れてもらう。
裏門を通って勝手口から屋敷の中へ入ると、そこには執事服姿の初老の男性が待っていて、僕達に会釈をしてきた。
「ようこそお越しくださいました。私は当屋敷に勤めさせていただいております、執事のゴードンと申します。皆様が、アルバート様の護衛に付いてくださる冒険者の方々でいらっしゃいますか?」
「突然のお伺い、失礼いたします。僕は3級冒険者のコタロウと申します。こちらは妻のアリサとユーナです。3人で『爆影虎』というパーティを組んで活動しております。この度は政務大臣様よりご依頼をいただきまして、アルバート様の護衛をさせていただくことになりました。誠に恐縮ではございますが、精一杯務めさせていただきますので、どうかよろしくお願いいたします」
僕達も頭を下げると、ゴードンさんは柔和な笑みを浮かべる。
「ご丁寧なご挨拶痛み入ります。閣下より知らせを受けております。急なご依頼でした様で誠に申し出ございませんが、こちらこそよろしくお願いいたします」
ゴードンさんはそう言って、「それではお部屋にご案内いたします」と先に立って歩き出した。
華美ではないけれど清掃の行き届いた屋敷の中を、ゴードンさんの後に続いて歩く。
2階に上がったところで、後ろから僕達に声がかかった。
「あ、お姉さん達!」
振り返るとそこには、昨日路地裏で誘拐犯から助けた男の子。
駆け寄ってきた彼を、笑顔を浮かべたユーナが迎える。
「おはようございます。また会いましたねアルバート様。昨日は無事で本当に良かったですね」
「うん!お姉さん達は?父様に怒られたりしなかった?」
「フフッ、大丈夫でしたよ。逆にアルバート様を助けてくれてありがとうって、お礼を言ってもらったんですよ?」
「そうか、それは良かった!ボクはあの後父様に怒られたんだよ」
「アルバート様、今はそれよりも、この方達に言うべきことがおありではございませんか?」
「じい?え〜と……あ、そうだ!お姉さん達、昨日はボクを助けてくれてありがとう!」
一旦僕達から少し離れて、そこでペコリと頭を下げるアルバート様。
「はい、どういたしまして。もう聞いているかもしれないんですけど、今日から6日間、私達3人がアルバート様の護衛に付くことになりましたので、よろしくお願いしますね」
「え、そうなの!?」
と、横のゴードンさんを見上げるアルバート様。
ゴードンさんが笑顔で頷くのを見ると、嬉しそうな顔を僕達に戻した。
「凄い!お姉さん達よろしくね!」
「アルバート様、まずは冒険者の方々を泊まっていただくお部屋にご案内しまして、それから護衛に付いていただきましょう」
ゴードンさんはアルバート様にそう言って「こちらです」と歩き出す。
案内された部屋はおそらくは来客用の寝室で、ベッドが2つとテーブルと長椅子が置かれたそこそこ広い部屋だった。
さすがに3人部屋というのは贅沢か。
ベッドはアリサとユーナに使ってもらうとして、僕は長椅子で寝れば良いかな?
不寝番とか必要な場合は交代で寝るというのもありだろう。
「コタは私と寝れば良いじゃない」なんて悪戯顔のユーナに、アリサが「依頼主の家だぞ」と呆れた顔を向けている。
荷物を置いて、彼女達と軽く打ち合わせをしてから、まず今日はアリサとユーナがアルバート様に付くことにした。
アルバート様は誘拐犯から助けられた際に側にいたと言うこともあって、ユーナに特に懐いている様子だ。
2人がアルバート様の相手をしている間に、僕はこの屋敷の中や周囲を少し見て回ることにする。
万が一襲撃などがあった場合、この屋敷の構造や周辺の地理を把握しておけば有利に戦うことが出来る。
それにやむを得ず戦うことになった際も、出来る限りこの屋敷には被害を出さないようにはしたい。
アルバート様は基本、この屋敷の敷地の外には出ないことになっているし、屋敷の門には門番が立っているので危険な目に遭うというのはまず無いと言って良いのだけど、昨日の覆面の襲撃者みたいなのが攻めて来ないとも言い切れない。
連中が何者で、何を狙って襲ってきたのかわからない以上、警戒するにこしたことはない。
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