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10. こうこく の じじょう

よろしくお願いします。

でも、仮にも将軍という立場にある人が、そんな隠密工作、言い換えれば嫌がらせみたいな行為に直接関わるものかな?


まあ将軍が国の暗部の部隊を指揮するというのはあるのかも知れないけど、あの槍使いが本当にイルマリア将軍なのだとしたら、それは将軍が他国に対する嫌がらせ、それも大臣の子供の誘拐という明らかな犯罪の現場に直接出向いて来たことになる。


そんなことするかなあ?



それに、


「将軍なのであれば、当然ローザリア王国の本国におられるはずではありませんか?というより、常に居場所を明確にしておかなければならない立場の方なのでは」


僕が尋ねると、レッガー将軍とセーラ隊長は難しい顔になって僕を見る。


「いや、それがな……ソレイル将軍は今、このエレストアに滞在しているのだ」


「あ、そうなのですか」



なんでもこの建国祭の来賓ということで、ローザリア王国からは第二王女のファイリィ殿下と、その護衛としてイルマリア将軍が今このエレストアに、というよりもこの公城に泊まっているのだそう。


なるほど、隣の国の首都よりかは犯行が出来そうな所にいたわけか。


ていうか、あの槍使いが今この城の中にいるのか……


隣でユーナが「仲が悪いのにわざわざお客さんが来るの?」と首をひねっていたので、これも「国ってそういうもの」と説明する。



それにしても、隣の国が絡んでる可能性があるということは、仮に襲撃があったとして僕達が下手に手出しをすると厄介な事になったりはしないだろうか。


僕がそれを尋ねると、アルカール大臣からは


「国と国との話し合いは我々の仕事だ。君達はあくまでも普通に護衛をしてくれれば良い」


との答えだった。




さて、根掘り葉掘り訊くばかりであまり待たせるわけにもいかないし、アルカール大臣からの依頼はどうするか。


「私は……受けても良いかな。1週間だけなら、後は注意を強めにしてれば乗り切れると思う」


とユーナ。


「いやでも、もしまたあの槍使いに来られたら、僕勝てる気がしないんだけど……」


「そこはアリサに頑張ってもらうとして」


「おい」


「護衛なんだから、まずはアルバート様を守るのが第一。わざわざ襲ってきた相手を倒す必要なんて無いんだよ?」


「ああ、それもそうか……」



言われてみれば、確かにユーナの言う通り。


襲撃があったとして、その犯人を捕まえられればもちろん1番良いのだけど、無理であればそこまでしなくても良いのか。


先程の連中であれば、戦った時の様子からしておそらくは人に見られることを嫌がる。


敵わないと見たら、人の多い方に誘導出来れば追い払うことは出来そうか。


「その辺はコタの得意でしょ?」


「う~ん、そう言われれば……まあ」


そう考えれば……なんとかやれるのかな?


1週間だけと期間も決まっていることだし……この依頼、受けても大丈夫そうかな。


後は……



僕はアルカール大臣に向き直る。


「あの、報酬については?」


「護衛が無事に終われば、君達1人につき大金貨1枚支払おう。働き次第によっては追加も検討させてもらう」


大金貨1枚か、これはすごく良い報酬額。



「これは、冒険者ギルドを通さない依頼ということになるんでしょうか?それとも通しての依頼ということになるんでしょうか」


「ギルドを通してが希望なのであれば、明日の朝にでも連絡を入れさせよう」


これは、一応ギルドを通してもらった方が間違いないかな。


確認するのはこんなところか。




ユーナとアリサの顔を見ると、2人共首肯を返してきたので、僕はアルカール大臣に向き直る。


「この依頼、お受けさせていただきます。建国祭が終わるまでの間、よろしくお願いいたします」


僕の返事に、大臣はほっと息を吐いて頭を下げてきた。


「助かる。それでは今日はこの城に泊まって、明日の朝私の自宅へ向かって息子の護衛に付いてもらおう。家の者と冒険者ギルドには私から連絡を入れておく。突然の依頼で申し訳ないが、明日から建国祭が終わるまでの6日間、息子をよろしく頼む。元気が有り余っているようなら少しばかり鍛えてくれても良い」


「「え!?」」


と、ユーナと僕が思わず声を発したのはほぼ同時。



「いや大臣様、それはちょっと!」


「このアリサは、顔はこのとおり文句のつけようも無い美人なのですが、性格が少々ストイックというか!」


「訓練の時ばかりは鬼というかオーガというか!」


「軍の特殊部隊もかくやという程の地獄の教練が始まってしまいます!」


「町の外周を、変な歌を歌いながらぶっ倒れるまで走らされることに!」


「どうかお考え直しを!」


「……おいお前達」


「「ひっ!?」」



横から伸びてきた手が僕とユーナの頭をがっしと掴み、そのまま万力のごとく頭蓋骨を絞め上げる。


「誰が鬼でオーガで地獄だって?」


「痛い痛い痛い!!」


「ごめんなさいごめんなさい!!」


「大体が走る時に変な歌を歌い始めたのはコタロウお前だろう!何だあの『爺さん山へ芝刈りに』『婆さん川へ洗濯に』『大きな桃がドンブラコ』とかいうのは!」


「はい僕ですごめんなさい!!」


「まったく……」



なんとかアリサに手を離してもらい、口から泡を吹いて床に転がる僕とユーナと、それを見てドン引きしている大臣達。


そんな彼らに、アリサは平然とした顔で椅子に座り直して頭を下げる。


「お騒がせいたしました。何卒お忘れの程」


「あ……ああ、それでは、鍛えるのは無しということで。頼んだぞ」


こうして僕達は、政府要人の家族の護衛という大きな仕事に関わることになったのだった。



「さて、皆は彼らのことをどう見る?」


「あの若さで3級というのには驚きましたが、立ち居振る舞いを見る限り、3人共腕は確かと見えますな。あの様子ではおそらく、日頃からかなりの鍛錬を積んでいるのでしょう」


「人柄には、むしろ好感が持てます。今のところ、何事か企んでいる様にも見えませんでしたが……」


「とはいえ、所詮はその場その場での金で動く冒険者に過ぎません。信用に値する者達では無いと考えます」

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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