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8. だいじん の はなし

よろしくお願いします。

これはちょっと珍しい。


国王ではない誰か別の人が、王様の信任を得て政治を主導するというのはよくある話。


でもそういう場合であっても何か政策を行う場合には、最終的には国の主である国王の裁可を得なければならないというのが、王国というものの形式であり常識だ。


これは国だけではなく、貴族の領内の政治においても一緒。


その領地の主である貴族当主の裁可を得て、政策というのは施行される。



でも今僕達の目の前にいるアルカール大臣は、そういう王様の裁可という段階を飛ばして政を行えるらしい。


確かに政務大臣という役職、少なくとも僕は今まで他では聞いたことが無い。


名前からして宰相みたいなものかと勝手に思っていたのだけれど。




僕の質問に、アルカール大臣は事も無げに答える。


「ああ、政務大臣というのはそういう役職なのだよ」


なんでもこの政務大臣、ルフス公国が建国してまもなくの頃から、アルカール大臣の家であるヴィクトリア家の人が代々就いている役職なのだそう。


名目上は「公王の行う政務の補佐」という立場なのだけれど、実際のところは公王様の政務や権限を全面的に代行するというもの。


あからさまな言い方をすれば、公王様に代わってこの国の政治の実権を握る立場ということだ。


先程も話に出た通り、政策を行うのに公王様の裁可を必要とせず、政務大臣の承認のみで施行が出来る。


これは凄い。



公王様が幼少だったり病気だったりした時は『摂政』として、それ以外の時は『政務大臣』として国政を行うのだという。


となると、この国の公王様は政治にはほぼ関与しないということか。


こういう政治体勢ってなんか聞いたことあるな。


確か前世のテレビの歴史番組で……




「ははあ、『摂関政治』というものですね」


なんでも、前世の日本で大昔に行われていた政治だそうだ。


なんでもこの政治をやっていた人が、餅つきが欠けたとかどうのとか言っていたらしいけど、硬くなったお餅が好物だったのだろうか。


「ほほう、そういう言い方があるのか。歴史的に見ても珍しい形だと思っていたが、やはり他国には前列のようなものはあるのだな」


アルカール大臣と頷き合っている僕の脇腹をユーナがつつく。


「ねえコタ」


「何?ユーナ」


「せっかん政治って何?」


「言うこと聞かない人は折檻するの」


「へえ」


「……違うからな?」


大臣の訂正が入り、嘘を教えられて腹を立てたユーナが僕の脇腹をポコポコと殴る。


そんな僕達を呆れ顔で見るアリサと、笑っている大臣。




そんな大臣がふと真顔になり、一呼吸吐いて居住まいを正した。


「話を戻すが、君達にわざわざ待っていてもらったのは、礼を言いたかったことともうひとつあってな。君達に依頼をしたいのだ」


「はあ、ご依頼ですか?」


また突然な。



怪訝な顔をしている僕達に、アルカール大臣はひとつ頷いて話を続けた。


「うむ。依頼の内容だが、この建国祭の期間中、私の息子のアルバートの護衛を頼みたいのだ」


「閣下!?」


アルカール大臣の突然の申し出に、後ろに控えていた秘書のブライさんが驚きの声を上げた。


そんな彼に、大臣は静かな言葉で告げる。


「お前にも現状は解っているだろう。今はとにかく人手が足りないのだ。そんな中、私の息子のために兵を割くわけにはいかん」


「いやしかし、冒険者など!この者達が本当に信用に値するかどうかもわかりませんし、事によってはかえってアルバート様の御身に危険が及ぶことも!」


「私は、彼らは信頼出来る者達と見た。私の責任での依頼だ。依頼料は私の私財から出す。お前達に迷惑はかけんよ」


「ですが!」


「ロデン殿、控えられよ。閣下のご判断であるぞ」


なおも言い募ろうとしたブライさんを、隣のレッガー将軍が制止する。


ブライさんはまだ何か言いたそうにしていたけど、「……失礼いたしました」と口を噤んだ。



申し出を聞いた時は僕達も驚いたけど、今のやり取りを見ているうちに少し落ち着いてきた。


間が開いたところで、僕からもアルカール大臣に問いかけてみる。


「アルバート様の護衛……ですか?でもそれであれば、僕達のようなどこの馬の骨とも知れない冒険者よりも、もっと信頼の置ける専門の方がいらっしゃるのでは?」


そもそもブライさんの言う通り、要人の護衛などというのは、昨日今日ふらりと現れた冒険者に依頼するようなものではない。



僕の言葉に、大臣は苦い表情になる。


「……恥をさらすことにはなってしまうのだが、今はもうそれだけ人手が足りない状況なのだよ」




知っての通り、現在ここルフス公国の公都エレストアは建国祭の開催中。


国を挙げてのお祭りということで、僕達も見てきたけど国内外から大勢の観光客や商人が集まってきていて、街中は人で溢れかえっている。


大勢人が集まるということは、当然変なのも集まって来るということ。


お祭りということで羽目を外す人も多い。


そんなわけで建国祭の準備が行われている数日前から、ここエレストアの町中では住民や、外から来た人同士のトラブルが急増しているのだそう。


スリ、引ったくり、強請りたかり、喧嘩、強盗、暴行、その他諸々の暴力沙汰などといった犯罪までもが大量に発生し、その対応で警備隊や軍はてんてこ舞いな状態。



もちろん、これだけの大イベントということであれば人は大量に移動する。


となれば治安の悪化も当然見込まれるため、政府としても近隣の市町村などに応援の要請をかけて、警備隊の人員を増やすなどの対応を行っていた。


実際、去年まではそれで十分対処出来ていたのが、なぜか今年は町中でのトラブルや犯罪の発生が、現時点で去年の2倍に達している。


お祭りの人出は去年とさほど変わっていない様子なのに、これは一体どういうことなのか。


とにかく発生したトラブルには対応しなければならないのだけど、そうやって増やした人員でもまるで手が足りず、要人の警護や施設の警備などからも可能な限り人を引き抜いて対応に当たらせている状態とのこと。


アルカール大臣の息子のアルバート様に護衛が付いていなかったり、国軍の将軍や近衛隊長が大臣の護衛をしてたりするのはその辺りが理由らしい。




この建国祭の期間さえ終われば人手にも余裕が出来るので、それまでの間だけアルバート様の護衛に付いてほしいというのが、アルカール大臣の要望だった。


「せっかくの建国祭の間、拘束してしまうことになるのは申し訳ないのだが、余裕が無い中私の家族のために人手を割くわけにもいかん。どうか受けてもらえないだろうか」

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。


元猫がまた例によっての思い込み知識を披露していますが、ルフス公国の政務大臣制と、日本で平安時代に行われていた摂関政治はまったくの別物です。

詳細についてはお調べいただければと思いますが、この件につきましてはコタロウの言うことはお信じにはなりませんよう、お願いいたします。

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