6. れんこう の さき
よろしくお願いします。
「それで、一体どういうわけで3級の冒険者が屋根の上で大騒ぎをしてたんだ?」
「ちょっと誘拐犯と斬り合いを」
「屋根の上を跳び回って冒険者と斬り合いをする誘拐犯がいるか」
「いたんだから仕方ないんです……」
覆面の襲撃者を取り逃したところで、騒ぎを聞いて駆けつけて来た警備隊に捕まってしまった僕。
彼らに手を上げて投降の意を示した僕は、まず武器を一時差し出し、3級の冒険者証を見せて身分を提示する。
それから彼らの誘導に従って屋根から降りると、現在は通りの路上で事情聴取を受けていた。
僕は最初は当然、屋根の上で暴れ回った不審者という扱いだったのだけれど、ランク3級冒険者ということである程度身許の保証のようなものがあったこと、僕の戦っていた相手が覆面をしていていかにも怪しかったこと、何よりも敵が逃げる直前警備隊員に対しても攻撃をしていたことなどが考慮されて、彼らの態度も幾分柔らかいものになる。
「まあ取り敢えずは、拐われそうになっていたという子供の所に案内してもらおうか。その子にも話を聞いてみて、その上で判断する」
「わかりました。今は妻達がその子を見ているはずですので、一緒に確認していただければと思います。え〜と、こっちの方だったと……思うんですが」
「おいおい、覚えてないのか?」
「何分屋根の上を戦いながらここまで来たもので。下の通りを行くとなると、確か……」
隊員達を連れて、来た方角を頼りに誘拐現場に遭遇した路地を探す僕。
なんとかかんとか路地の入口を見つけたところで、そこで僕を待っていたのは……
「すまんコタロウ」
「捕まっちゃった」
「アリサ!ユーナ!」
数人の騎士に取り囲まれた、アリサとユーナの姿だった。
思わず声を上げた僕に、気付いた騎士の1人が声をかけてくる。
「そなたがこの者達の夫か!取り調べることがあるので、この者達を返してほしくば一緒に来てもらおうか!」
「なにい?人質とは卑怯なり!」
「何とでも言うがいい!アルバート様とのことで、色々と聞かせてもらわねばならぬ!」
アルバート様というのは、先程僕達が助けたあの男の子のことだろうか。
「ぬうう、たとえ人質を取られても、僕は決して屈しはしないぞ!ここは命に替えても愛する妻達を救い出し」
「コタロウ」
「?」
「いいから大人しく来い」
「はい」
アリサの静かな声に取り押さえられて、僕は騎士達に両手首を差し出すことになったのだった。
さすがに手錠まではかけられなかったものの、騎士達の監視の下連行されることになった僕達3人。
後ろでは騎士の1人が、僕と一緒に来た警備隊員にこの後は自分達が引き継ぐ旨を説明している。
アルバート様というらしい僕達が誘拐犯から助けた男の子は、誘拐未遂の直後でショックもあるということで一足先に家に返されたとのこと。
聞けばどうやら彼も騎士達に「僕達は助けてくれた人だ」と言うのを主張してくれたらしい。
警備隊員達が、アリサに殴り倒されて地面に伸びていた誘拐犯達を連行して行くのを見送ってから、僕達もその場を出発した。
歩きながら僕は隣りにいた騎士さんに、気になっていたことをおそるおそる尋ねてみる。
「あの、やっぱりさっきの男の子って、どなたか高貴な家の方だったんですか?」
「ん?ああ、今ここでは言えないがな。身分の高い方のお子様だ」
げっ、やっぱり?
「……………………あのぅ」
「何だ?」
「僕達、やっぱり死刑でしょうか?」
「……何?」
「磔ですか?それとも斬首?もしかして切腹?」
「セップク?」
「出来ましたら三味線だけは平にご容赦……」
「シャミ?」
「罰でしたら僕が受けますので、妻達はどうかお許しいただけないでしょうか……」
「いや、何の話をしてるんだ?」
「偉い方のご子息に目潰しくらわせた罪で死刑とか……」
「そんな話にはなってない。てか、目潰しくらわせたのか!?アルバート様に!?」
後で聞いた話では、アルバート様は誘拐犯に掴まれた際に痛みで強く目をつぶっていたので、僕の黄色ボトルの閃光は覗き込まずに済んだらしい。
そんなこんなで僕達は騎士さん達に連れられて、人混みを避けながらエレストアの街中を移動する。
そういえば行き先とかまだ聞いてないけど、どこに連れて行かれるんだろう?
なんか今僕達が進んでる方向、公城の方に向かっているような?
僕の予感は見事に当たり、僕達3人は通りを進み、展示会の観客でごった返している城前広場を抜けて、ここルフス公国の中枢である公城の中へと連行されることになったのだった。
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