2. かいもの の ついで
よろしくお願いします。
「虫を集める薬……ですか?」
「はい、使うと周囲にいる虫がわーっと集まってくる、という、言ってしまえばそれだけの効果なんですが」
「はあ、虫……」
僕達がルフス公国公都エレストアに着いてから1週間後のこと。
僕は今、買い物袋片手にエレストアの薬師ギルドから、とある薬を紹介されていた。
本来ならそろそろこのエレストアを出立する予定だったのだけど、到着から5日程経った頃、3人で滞在を延ばそうかどうしようか相談していた最中にユーナが体調を崩した。
大慌てで薬師を呼んで診てもらったら、診断結果は溜まっていた旅の疲れがどっと出たのが原因とのこと。
特に悪い病気などではなくとりあえずは安心ということで、宿の宿泊を延長してユーナの看病をしていたところ、翌日になって今度はアリサがダウン。
再度薬師を呼んで診てもらうと、体調不良の原因はユーナと一緒。
ユーナが倒れたのを見て、それに引きずられてしまったのだろうとのことだった。
こういうことがあるものなのかなんて思ったりもしたけど、それよりもユーナとアリサに無理をさせていたことを反省だ。
ただでさえ2人には僕の旅に付き合わせているところがあるのだから、もっと日頃から注意しておくべきだった。
今後は彼女達とも、ちゃんと相談しながら旅をするようにしよう。
そういうことでアリサとユーナを宿の部屋で休ませ、2人が食べる物の買い出しに街へ出る僕。
この国では山の斜面を利用したヤギなどの牧畜が盛んなようで、町中では乳酒やチーズなどミルクを使った食品を多く見かける。
乳製品ならこういう時も喉を通りやすいだろうと味が優しめのチーズと、ついでに果物をいくつか買い込んだ。
宿に帰ったら、野菜のスープと合わせて2人に出してあげよう。
チーズなんかは、パンか麦とまとめてスープに入れて、お粥みたいにするのが食べやすいかな。
果物はこの地特産の珍しい物も気になるけど、今の2人には慣れている物の方が喉を通るだろう。
アト王国を出てから大分遠くまでやって来て、それなりに各地の色んな食べ物を見たり食べたりしてるけど、どんな所へ行ってもリンゴだけは必ず目にする。
本当に身近で、そして偉大な果物だ。
そんなことを考えながら、さて帰ろうとしたところで見つけたのが薬師ギルド。
せっかくだからと立ち寄って病人を看病する時のアドバイスなどをいくつかもらい、ふと薬品棚に目をやった際に気になったのが、虫を引き寄せるという変わった効力を持つ薬だった。
「それはまた、なんていうか……」
微妙な効果というか、嫌な効果というか。
「使い途としては何が?」
「主に害虫駆除ですね。畑を荒らす虫を集めて焼いてしまうとか。ただ、益虫や害の無い虫も集めてしまうので、使うのは本当に被害の大きな場合に限られます」
「使い方は?」
「粉薬ですので、水に溶かして周囲に振りまくだけです」
「まいたらどれぐらいで効果が出ます?」
「3、4秒」
「持続時間は?」
「1回分で、5〜10分」
「なるほど……」
う〜ん……虫……ねえ?
使い途……あるかなあ?
逃げる時にまいて目眩ましにするとか?
あ、でもジャイアントホーネットとか、パラライズバタフライみたいな虫の魔物と戦うことがあれば、この薬で誘導して罠に嵌めるとか出来るかもしれない。
まあなんか気になるし、とりあえず買ってみるか。
今は思いつかなくても、そのうち何か良い使い途が浮かんでくるかもしれないし。
「よし、それじゃあこの薬ください」
「ありがとうございます。お客様は冒険者ですか?念のために冒険者証だけ確認させてもらえますか」
そんなことで、使うかどうかわからない薬を買ってみた僕。
使い途はゆっくり考えるとして、今はアリサとユーナが待つ宿へと足を急がせるのだった。
◇
「いいコタ?女の子は繊細なんだよ?だからちゃんと気を遣って、いたわってあげないといけないの。わかるよね?」
「その通りだコタロウ」
「う、うん……わかる。でも……」
「でも、何?」
「女の『子』?」
「「あ゛ぁん!?」」
「2人共可愛い女の子です!!」
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
コタロウの発言についてフォローを入れますと、彼はアリサとユーナの年齢について思うところなどは一切ありません。
ただ2人のことは女の子というよりも、格好良い大人の女性と思っていたというだけのことです。
ただし猫ということで、デリカシーについてはお察しの程、よろしくお願いいたします。
ちなみにこれまで出ていませんでしたが2人の年齢は、アリサが21歳、ユーナが22歳です。




