1. よりみち の くに
よろしくお願いします。
クロウ共和国の首都ドーヴを出てから2週間程後、僕達はクロウ共和国の西にあるルフス公国という国の公都、エレストアという町に来ていた。
4つの小国群により同盟の結ばれた『中央諸国連合』の内の1国である。
僕達は元々、南方にあるグランエクスト帝国を目指している。
西へ向かうのは別方向になってしまうのだけれど、そこで気になるのがドーヴを出る際に出会った人達。
僕の元婚約者だったアディールの実家に仕えている騎士達と、ユーナに昔言い寄っていたという冒険者の男だ。
相手にするのが面倒なのでだまくらかして逃げたのだけれど、万が一にも追いかけて来られでもしたらたまったもんじゃない。
僕達が今後グランエクスト帝国へ行く予定だというのはドーヴで知っている人も何人かいるので、どこかから彼らに話が洩れるなんてこともあるかもしれない。
そういうことで僕達は一旦向かう方角を変えて、まずは西のルフス公国へ行って、そこから南の帝国を目指すことにしたわけだ。
寄り道になってはしまうけどまあ仕方ない。
特に先を急ぐ旅でもないのだし。
こうした寄り道やトラブルだって、旅の醍醐味というやつだろう。
とはいえ、こう言ってはなんだけど僕達、特にこのルフス公国に用事があるわけではない。
ということで、僕達はこのエレストアでは特に依頼などは受けずに、1週間程滞在して適当に観光したら出立するということにした。
『ホテル・モンテ』という宿に3人部屋を取り、初日は1日皆でだらけて過ごす。
ベッドで3人大の字になって寝ていたら、アリサが首に、ユーナが腰に絡みついてきた。
「暑い……重い……」なんて心の中で思っていると、2人からポコポコと頭と腹を叩かれる。
最近、ますます2人には考えてることを読まれるようになってきてる気がする。
その後とりあえず冒険者ギルドには挨拶だけして、後はアリサとユーナと3人でエレストア市内を観て回ったり、屋台やレストランを食べ歩いたりして日々を過ごしている。
エレストアは標高の高い所にある町なので、この季節は山の色付きが進んで今がちょうど紅葉の最盛期。
ちょっと高台に上がれば、山々の素晴らしい景色が望める。
屋台で蜂蜜の入ったちょっと甘めのお茶を買って、それを片手に展望台のベンチから紅葉を眺めると、山間を涼しい風が流れてきてとても良い気分になる。
アリサとユーナに何か良い歌はないかと訊かれたので、秋の紅葉や夕日などで真っ赤に染め上げられた景色が自分を取り巻いている様の歌を歌う。
秋の歌は、どこか物寂しい感じもするのだけど、なんとなく好きな歌が多い。
歌詞を覚えたアリサとユーナと3人で歌っていると、路上ライブとでも思われたのか人が集まってきたのには少し慌ててしまった。
このルフス公国では観光業にも力を入れていて、近隣のイノン候国やスカール公国やローザリア王国など中央諸国連合の国々、そしてクロウ共和国やグランエクスト帝国などからの馬車の誘致や、宿屋の整備などを積極的に進めているのだそう。
実際、山の上にある国なのにもかかわらず、クロウ共和国からここエレストアまで来る乗り合い馬車もあっさり見つけられたし、僕達が泊まっている『ホテル・モンテ』も大きな建物に防犯、部屋の広さや清潔さなど、宿としてはかなり上のクラスのサービスのわりに宿泊料金は安め。
町を囲む防壁のあちこちには、観客が上って山々の景色を楽しむための展望台も設けられている。
エレストアも町の規模としては小さい反面、他の国や町ではあまり見かけることのない3階建ての家々が建ち並ぶ。
町中の道も石畳で舗装されていて、なんと貴族街中心とはいえ下水道も整備されているらしい。
そういった政策などが功を奏し、ここエレストアには国内外から年間を通して多くの観光客が訪れるのだそう。
先日まで滞在していたドーヴの冒険者ギルドでも、『エレストア行きのツアー馬車の護衛』なんて依頼をよく目にしていた気がする。
確かにこの町に到着してから、なんだか街中が慌ただしいなという感じがしていた。
ではそれはいつものことなのかと思っていたらそういうわけではなく、宿の人に聞くとどうやらこの町で年に1度行われるお祭り、それもこの国の建国祭の開催が2週間後に迫っていて、今は市を挙げてその準備中とのことだった。
なんでも建国祭の開催時期になると、国中や近隣の国から商人や観光客がここエレストアに押し寄せる。
僕達がこの町に着いたのは本当にぎりぎりのタイミングで、後1週間も遅れていたらとても宿なんか取れる状況ではなくなるのだそうな。
そう考えると、ドーヴを旅立つことになったあのトラブルも、そんなに悪いきっかけというわけでもなかったのかな。
これもあれか、『人生バンジージャンプの際のカマドウマ』という…………本当にどういう例えなんだろうこれ?
そんな中、アリサとユーナと「せっかくお祭りがあるのだから、滞在期間を延ばしてお祭りを見物してからの出立にしようか」という相談をしていた僕達。
思えば僕達が今回出会った事件は、その辺りから始まっていたのかもしれない。
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