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6. きしと の さいかい

よろしくお願いします。

叫ぶが早いか、たちまち全員で詰め寄ってくる騎士達。


そうだ思い出したこの人達、僕の幼馴染みのアディールの実家の、ベリアン侯爵家に仕えてる騎士の人達だ。


なんでこんな所に。



「ようやく見つけましたぞ!」


「このような所におられましたか!」


「お探し申し上げましたぞ!」


「これも神のお導き!」


「どうかお戻りを!」


「わーわー待って待って!!」


皆一斉に大声で喋るもんだから、やかましい上に何を言ってるんだかわからない。



僕はホールのテーブルを示して彼らに告げる。


「とりあえず落ち着いてください。話だったらそこで聞きます。僕はすぐに行きますから、先に座って待っててください」


「しかし、我々は一刻も早く……!」


「何を急いでいるのか知りませんが、それも含めて話を聞きますから!」



騎士達をなだめて先にテーブルに行かせ、僕はギルドマスター達受付に対して頭を下げた。


「お騒がせしてすみませんでした」


「あなたのお知り合い?なんて言うか、大変ね」


苦笑を浮かべるギルドマスター達にもう1度頭を下げて、次に側であっけにとられていたアリサとユーナに向き直る。


「ごめんね。なんか、変な騒動になっちゃって」


「いやまあ、いいさ。お前と一緒になった時から、トラブルに巻き込まれるのは覚悟している」


「キミには色んな体験させてもらってるからね。これもその一環と思うことにするよ。それよりもあの人達、キミの家の?」


「いや、僕の実家じゃなくて、僕の元婚約者の実家の人達」


「!それって……」


「うん。なんでこんな所にいるのかはわからないんだけどね。これからちょっと話を聞いてみる。何だったら2人は、先に宿に戻ってても……」


僕がそう言うと、2人はそろって首を横に振った。


「いや、私達も話を聞かせてもらおう。お前のことなら、私達にとっても他人事じゃない」


「どうせこのまま宿に帰ってもやきもきするだけだからね。もし何かトラブルがあるなら、皆で一緒に考えようよ」


「わかった。アリサもユーナも、本当、ありがとうね」


笑顔で頷くアリサとユーナ。


面倒ばかりかけているのに、2人には感謝しかない。


いずれ何か埋め合わせをしないとなあ。



僕は2人と一緒に、テーブルで「リーオ様、お早く!」なんて声を上げている騎士達の下へ向かった。


うるさいったらない。


僕は騎士達がいるテーブルに座り、アリサとユーナは隣のテーブルに腰かけた。


売店でお茶でも買って出そうかとも一瞬思ったけど、すぐにその考えは消えた。


どうもこの人達に関しては、そんな気になれない。



この人達、5人の内年配の3人は確か会ったことがある。


アディール関係でベリアン侯爵家を訪問した時だったか。


名前は……確か、オルテガさんにリコンさんにマシュトンさんだったはず。


後の2人は、多分これが初対面だ。


僕が騎士達と同じテーブルに着き、アリサとユーナが隣のテーブルに座ると、騎士の1人であるマシュトンさんが2人の方にちらりと目を向けて言った。


「そこの平民、我々はこの方と今から重要な話をする。下がれ」



この人は何を言っているんだ?


ここはベリアン侯爵領でもなきゃアト王国でもないんだぞ。


国使でもないただの渡航者が、騎士の身分なんか振りかざしてどうする。


僕は内心の苛立ちを隠して騎士達に告げた。


「2人は僕の妻です。僕に話があると言うなら、彼女達も聞く権利はあります」


「「「「「妻!?」」」」」


僕の言葉に、驚愕の声を上げる騎士達。


中でも1番歳の若い、名前の知らない騎士が椅子を鳴らして立ち上がる。


「そ、そんな!リーオ様は当家のアディール様と婚約しておられたではありませんか!それがなぜ他の女を妻などと!?」


「いや婚約て。それが破談になったんだから当然のことでしょう?アディール様がドルフ王国のベルマ殿下に嫁がれることになったから僕との婚約は解消だと、貴家からルシアン家に通達があったではありませんか」



貴族の家なら、事情があって婚約が解消になることなど珍しい話でもない。


そして婚約破棄となったなら、すぐさま次の縁談を探しに入るのが本当だ。


別れることになって相手は別の人と結婚したけど、自分はその相手に操を立ててその後結婚もせず独身を通しましたなんて話、聞いたことも無い。


それにしても、アディールのことを様呼びというのはやっぱり違和感があるな。


まあ今の僕は平民の冒険者なんだから、貴族(今は皇族か)を呼び捨てになんて出来ないのだけれど。



僕の返事に、一瞬言葉に詰まる若い騎士。


「そ、それは……いやしかし、それではリーオ様はもう、アディール様のことは何とも想ってはおられないということなのですか!?」


「それとこれとは話が別。アディール様のことは大切な思い出ではあります。かと言ってアディール様はもう嫁がれておられるんですから、今さら僕がどうこう出来ることでもないでしょう。貴家からの通達は、そういう意味でもあったと思ってたんですが」



この人は何か、僕にはアディールとの思い出だけを伴侶に、この後の人生一生独身で泣いて暮らせとでもいうのだろうか。


無茶振りもいいところだ。


それとも、アディールを追ってドルフ王国に行って、向こうで困難乗り越えて彼女を守る騎士にでもなれとか?


なんだそのストーカー未遂。


言っとくがこちとら、人妻に手を出す趣味なんか無いぞ。



僕の返事に言葉を無くす若い騎士。


そんな彼は置いといて、僕はテーブルに座る他の騎士達に向き直る。


「話というのはこのことですか?」


「いや然に非ず、実は我等一同、リーオ様にお願いしたき儀がありまして、お探し申し上げておりました」


お願いとな。


なんだか、ろくでもないことのような気がするなあ。


とはいえ、この流れで聞かないわけにもいかないか。



「はあ、何でしょう」


嫌そうな顔をしていたという自覚はある。


僕が尋ねるとオルテガさんが居住まいを正し、僕に向かって真っ直ぐに言った。


「リーオ様におかれましては、直ちにご実家のルシアン伯爵家にお戻りください。そして、すぐにでも当家ベリアン侯爵家に対し、食糧支援の再開をしていただきたい!」

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まってたよ♡ [気になる点] 確かに過去が追いかけてきましたね。 [一言] 仮にも皇族に嫁いだ筈なんですがね…後ろ楯が無いにしてもあんまりじゃないか?帝国側で何か起こって支援出来ないってな…
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