4. そうびひん の かんせい
よろしくお願いします。
僕達がここクロウ共和国首都ドーヴに到着してから、そろそろ2ヶ月が経とうとするある日のこと。
ついに待ち望んでいた日が訪れた。
冒険者ギルドを通して注文していた、ブラッドレクスとタイタニックアダーの素材の装備品が出来上がったという連絡がギルドから届いたのだ。
ギルドの受付で、翌日には届くので取りに来るようにと言われたのが昨日のこと。
そして今日、朝一で跳び起きた僕はまずユーナの枕元でにゃあにゃあ鳴いて彼女を起こし、続いてアリサの枕元でユーナと2人、打ち合わせてあった小劇の上演を始める。
「ひゃ〜っひゃっひゃっひゃ、残念じゃったのう王子。たった今このわしの悪の魔法で、姫は永遠の眠りについたところじゃ」
「おお、なんということだ。おのれ悪の魔法使い。私の正義の剣をくらえ、ズバッ」
「フギャアやられたあ。じゃがもう遅い、姫は彼女を愛する者があっつ〜いキスで目を覚まさない限り、もうずっとこのままなのじゃあくけけけけ……ガクッ」
「おかわいそうに姫。ようし、ならばこの私がキスをして目を覚まさせてあげよう。せーの、ん〜〜っ」
「離れろこの!!」
唇を突き出して顔面に迫るユーナを、跳ね起きたアリサが押し退けた。
「配役が逆じゃないのか……?」などとぶつくさ言っているアリサをまあまあとなだめながら急いで身支度と朝食を済ませ、宿の庭先で軽く基礎訓練をやってから冒険者ギルドに駆けつける。
受付でソランさんに掴みかからんばかりの勢いで装備品について尋ねると、彼女は苦笑を浮かべながら僕達をキサイギルドマスターの執務室へ通してくれた。
ちなみにパーティ名については、アリサから『闇夜の刃』、ユーナから『ユーナと愉快なしもべ達』など様々な案が出されたものの、結局もう既に名前が定着しているということで『爆影虎』でいくことに決まった。
既にギルドへはその名前で申告を出してはいるけど、今後何か良い名前を思い付いたら改名しようということにしている。
僕達を執務室に案内するとそのままソランさんは部屋を出て行き、僕達はギルドマスターに促されていつもの長椅子に腰を下ろした。
「おはよう。今日は早いわね」
「おはようございます。そりゃあもう、首をろくろ首の様に長ぁ~くして待っていた日ですから」
「ろくろくび?まぁ良いわ。今まで長いこと待たせて申し訳なかったわね。装備品は今ソランが持ってくるので、先にこちらの方を済ませてしまいましょう」
そう言って、ギルドマスターはテーブルの上に1枚の冒険者ギルド証を差し出した。
それを見たユーナが「あぁ~……それがあった……」と頭を抱えている。
そんなユーナに向き直り、ギルマスははっきりとした言葉で告げた。
「ただ今を以て冒険者ギルドは、冒険者ユーナのランク2級への昇級を認定します。今後ともさらなる活躍を期待します。おめでとう」
「は、はい……」
2級の冒険者証は金属製で、黒地に銀で印字がされたカード。
3級冒険者証と比べて豪華さのようなものはなくなっているけど、逆にしっかりとした、頑丈な作りになっているのがわかる。
文字は2級で銀ということは、これが1級になると金の印字とかになるのだろうか。
ユーナはそれまで持っていた3級の冒険者証をキサイギルドマスターに返納し、代わりにテーブルの上に置いてあった2級の冒険者証を受け取った。
新しい冒険者証を手に取り、軽くため息を吐きながらためつすがめつ。
「本当に、2級だ……私、こんなところにまで……」
「いや〜実にめでたい。これでユーナも1流冒険者の仲間入りだ。素晴らしい。拍手」
「ほぼっほぼコタ、キミのおかげ……というよりキミのせいなんだけどね」
ジト目でこちらを睨んでくるユーナの視線を一生懸命避けていると、そこに部屋のドアがノックされて、大きな箱を抱えたソランさんが入って来た。
テーブルに置かれた箱から、ギルドマスターとソランさんが装備品を取り出して広げる。
「長らく待たせて申し訳なかったわね。注文を受けていた、ブラッドレクスとタイタニックアダーの素材の装備品が全て完成したので、引き渡します」
「ありがとうございます」
「確認をお願いします」
差し出された装備品を、3人で改める。
まずはアリサ用に、ブラッドレクスの革で作られたジャケットが2着。
色は黒。
ただし所々黒味が濃くなったり、逆に薄く灰色がかってる箇所もあったりして、まだら模様みたいな感じになっている。
単に黒一色よりも、この方が闇や暗がりに身を隠したりするには良いかもしれない。
この間のブラッドレクスの角の短剣のこともあったので、今回は作ってもらった装備品には効果の注釈などを付けてもらっている。
それによればそこらの鋼鎧顔負けの頑丈さに加え、なんと革になってもブラッドレクスのあの再生能力は健在らしい。
少々の傷などであれば自動で直ってしまうとのこと。
凄い性能だ。
続いてユーナ用に、タイタニックアダーの革製のジャンパーが2着。
赤茶色の地色を彩る、タイタニックアダーの特徴であった黒と灰色の鎖の形をした模様。
これがユーナの赤毛と似合っている。
森や枯草に身を隠すのにも役立ちそうだ。
これもまたアリサのジャケットに負けず劣らず丈夫で、さらには耐毒の効果もあるらしい。
僕用には、タイタニックアダーの牙製のナイフを2本。
このナイフの刀身は猛毒そのものであり、この刃で傷つけられた者はそれがたとえかすり傷でも、激痛と共に傷口から身体が腐って死に至らしめるのだそう。
非常に強力な武器だけど、使うのには要注意だな。
扱い損ねてうっかり指先でも切ろうもんなら、その時点で一巻の終わり。
タイタニックアダーの革製の鞘が付いているので、普段は鞘にベルトで固定して、そう簡単には抜けないようにしておこうか。
メインの装備品は以上で、他には頑丈さを重点にしたブラッドレクスの革製のブーツと、グローブを人数分とその予備。
僕用にだけ、耐毒性のあるタイタニックアダーの革のグローブがある。
注文してあった装備品はこれで全部。
どれも見事な出来だ。
「いやすごいね、これ」
「まさか私が、1級モンスターの素材の服を着ることになるとは……」
ユーナとアリサも新しい服を見て嬉しそうにしている。
装備品の確認を終えた僕達は、3人でそろってギルドマスターとソランさんに頭を下げた。
「素晴らしい物を作っていただきまして、本当にありがとうございました」
ギルドマスターは微笑みながら頷く。
「気に入ってもらえたのなら嬉しいわ。それでソランからも聞いたのだけれど、あなた達は近々この町を発つつもりなんですって?」
「はい。この町での用事も終わりましたし、後はこの装備の慣らしをして、数日中には出発しようかなって思ってます」
「確か、帝国に行くとか言っておられましたよね」
と、声をかけてくるソランさん。
彼女には先日この話をしたばかりだったか。
「はい」
「有望な冒険者の方が出て行かれてしまうのは、とても残念です」
「まあギルドといえど、冒険者の行動を制限することは出来ないものね」
困った笑顔を浮かべるソランさんと、そんな彼女を嗜めるギルドマスター。
僕としても心苦しいものはあるのだけど……
「ご期待に添えず申し訳ありません」
「ここも良い町だとは思うのですが……」
「この子がどうしても帝国に行くと……」
奥さん2人と済まなさそうな顔をしてみせる。
「せっかく冒険者として旅に出たので、世界のいろんな景色を見てみたいんです。それから何よりも……」
「お魚ですか?」
「はい!」
食いつき気味に答える僕に、皆が苦笑を浮かべる。
グランエクスト帝国は、この大陸の南一帯を支配下に置く超大国だ。
海に面した大きな都市もあると聞くし、そこなら豊富な海産物が手に入るだろう。
南の地方ということで、何か珍しい魚に出会えることも期待出来る。
そして僕の魚好きは、ギルド職員の間でもかなり知られている話らしい。
まあ別に隠してるわけでもない……というよりむしろ普段からサカナサカナと騒いでいるのだから、知られていてもおかしくはないか。
「まあ、あなた達ならどこへ行っても大丈夫でしょう。機会があったら、またドーヴにも来てくれると嬉しいわ」
「旅先でも、さらなるご活躍を期待しています」
「ありがとうございました。今回はお世話になりました」
僕達はギルドマスターとソランさんに装備品のお礼を言って、加えて数日中にはドーヴを出立することを伝えてギルドを後にしたのだった。
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