26. つらいけっか の ほうこく
あけましておめでとうございます。
今年もコタロウをよろしくお願いします。
年明け早々から重い話ですみませんが、お付き合いいただけると幸いです。
その後僕達は半日程街道を進み、無事ドーヴの西門に到着した。
24頭もの馬をぞろぞろと引き連れて現れた僕達。
門番の衛兵さんは最初は僕達を馬商人か何かだと思った様で、3級の冒険者ギルド証を示すと少し驚いた顔をしていた。
「なんだよ、あんたら冒険者かい?随分と剛毅じゃねえか。なんだいこの大量の馬は?」
「この先のヤッヒル村が盗賊に襲われたのはご存知ですかね?僕達依頼を受けて、その討伐に行ってきたんです。この馬達はその盗賊からの戦利品です」
盗賊と聞いて、若干衛兵さんの気配が鋭く変わる。
「おぉ。話は聞いてたが、あんたら討伐してきてくれたのかい。そりゃあお疲れさんだったなあ」
「ちなみにこいつが生け捕りにしてきた盗賊の親玉です」
馬の背中に縛り付けられて、両手両足が無く息も絶え絶えになっているやたら人相の悪い男を見せると、衛兵さんがひきつった表情を僕達に向けてきた。
「そ、そうか。なんていうか……すげえな。じゃあ上には俺から報告上げとくから。お前さん達はこれから冒険者ギルドに行くんだろ?後でこっちからも確認の人間が行くと思うから、ギルドに伝えといてくれ」
「わかりました。よろしくお願いします」
以前僕が討伐したようなチンピラの集まりならともかく、規模の大きな盗賊団などになると国内や近隣の国で指名手配されている場合がある。
なので討伐した際は証拠になるものを持ち帰り、ギルドや軍に報告を上げて確認をしてもらうことになる。
場合によっては賞金が支払われたりするのだけど、さてこいつはどうかな?
門を通してもらい、ユーナが宿の確保にペンペン屋へ走って僕達はそのまま冒険者ギルドへ。
ギルドにケイ達『斬羽ガラス』と馬を残し、ユーナと合流した後僕達は盗賊を縛り付けた馬1頭だけを連れて、レンダイ先生のお宅へと向かった。
依頼者へ辛い報告を伝えに向かう道中は、やっぱり気も足取りも重い。
政府の重鎮ともなればかなり忙しい人だと思うので、もしかしたら居ないかなと思いながらレンダイ先生のお宅を訪ねてみる。
屋敷に着いて門番の人に訊いてみると、レンダイ先生は不在でも息子のロウダイさんは在宅だった様子。
依頼達成の報告に来たことを伝えると、知らせを受けて家の中からロウダイさんと秘書のセインさん、それからメイドさん数人が駆け出してきた。
「君達……!早かったな。本当に、依頼を?リリナを、連れ帰ってくれたのか?」
「はい。ご依頼完了の報告に参りました」
僕の言葉に一瞬喜色を浮かべるロウダイさん。
しかしすぐに僕達の固い表情と、何よりも依頼達成ならば連れ帰って来たはずの人の姿が無いことに気付く。
声を震わせながら尋ねてくるロウダイさんの目を、僕は真っ直ぐに見て返事を返した。
「リリナは……娘は……やはり……?」
「はい。誠に残念ですが、お嬢様は……手遅れでした」
「っ!!……そ……そうか……」
俯いて歯を食い縛り、固く目を瞑るロウダイさん。
彼の後ろからは、控えているメイドさん達のすすり泣く声が聞こえてくる。
僕達は少しの間ロウダイさんが落ち着くのを待ち、その目がゆっくりと開かれたところで報告を続けた。
「村を襲撃してお嬢様を拐った盗賊については、討伐に成功しました。1人生け捕りにして連れてきています。おそらくは頭領か、それに近い立場の奴だと思うのですが」
そう言って僕が馬に縛り付けられた男を示すと、盗賊に気付いてぎょっとした顔になったロウダイさん。
さすがにこういった荒事にはあまり慣れていないらしい。
後ろでは既に馬の背に気付いていた門番の人が、何ともいえない顔をして盗賊を見ている。
僕が「なんでしたら気が済むまで殴っていただいても」と提案すると、ロウダイさんは一瞬音が出る程に歯を食い縛り、憎しみの形相になって盗賊を睨み付けた。
でもすぐに身体から力が抜け、血がにじむほどに固く握り締められていた手が静かにほどける。
「いや……大丈夫だ。後は、法の裁きに委ねよう」
「……それでかまいませんか?」
僕の問いに、ロウダイさんは虚しそうな顔で頷いた。
「ああ。仕返しは、十分やってくれた様だからな。こいつはこの後、軍に引き渡すのだろう?詳細は後日軍に確認するし、父には私から話しておく」
それであれば僕からはこれ以上何かを言うことはない。
盗賊ならどのみち死刑なんだし。
馬上の盗賊は猿轡をされたまま何かを叫ぼうとするのを、アリサがぶん殴って黙らせている。
この後こいつについては冒険者ギルドに引き渡して、その後軍から人が回収に来て、それで僕達のやることは終わりになる。
「それよりも、リリナは今はどこに?」
ロウダイさんの問いに、後ろからアリサとユーナが進み出た。
「お嬢様は、マジックバッグでお連れしています。どちらにご案内すればよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。こちらへ頼む」
リリナさんの遺体は、ここに来る道中で念入りに『クリーン』をかけた後、ユーナのマジックバッグに移している。
引き渡しの時には、男の僕はいない方が良いだろう。
僕はロウダイさん達にその旨伝えて、ここで待たせてもらうことにする。
メイドさんに案内されて、アリサとユーナと、続いてロウダイさんが屋敷の中に入っていった。
「あ、すみませんセインさん。ちょっと良いですか?」
ロウダイさんの後に付いて屋敷に入ろうとする秘書のセインさんを、僕は後ろから呼び止める。
「何か?」
「ヤッヒルから帰る途中のことなんですが……」
怪訝な顔でこちらに向き直ったセインさんに、僕はヤッヒルからドーヴへ帰る途中で出会ったことを報告した。
途中の道でゴーフェ夫妻と会ったこと。
リリナさんの遺体を渡してほしいと言われたこと。
拒否ったらつかみかかってきたこと。
当然そんなこと応じられるわけないので逃げてきたこと。
話を聞いたセインさんの顔色が変わる。
「ゴーフェさんが、ですか……」
「はい。大分思い詰めてる様子だったので、もしかしたらここにも来るかもしれません。一応警戒はしておいた方が良いかなと思います」
「……了解しました。屋敷の者にも伝えて、注意するよう言っておきます」
「よろしくお願いします」
僕とセインさんが話していると、屋敷の中からアリサとユーナ、それからロウダイさんが出てきた。
玄関の奥からは、女性数人の泣き叫ぶ声が響いてくる。
リリナさんのお母さんやお祖母さんだろうか。
沈痛な面持ちのロウダイさんが、やや虚ろな眼差しを僕達に向けて告げた。
「……すまない。今は、気持ちの整理がつかない。明日の朝、またここに来てくれ。その時に、報酬などについての話をしよう」
「……わかりました。では明日の朝、鐘が鳴る頃に改めてお伺いいたします」
ご家族や、リリナさんを知る屋敷の人達の気持ちを考えれば、今は急かすことなどは出来ない。
特に急ぐことでもないのだし、なんだったら気持ちの整理が着いてからで大丈夫ですと伝えて、僕達はレンダイ先生のお宅を辞去した。
◇
「依頼は完了したが……なんとも後味の悪い一件だったな」
「……酒でも飲みたい気分だね。アリサ、この後用事が済んだら一杯行かない?」
「付き合おう。コタロウはどうする?」
「僕はお酒はいいや。代わりにちょっと魚のやけ食いしてくる」
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