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25. どうこう の ぼうけんしゃ

よろしくお願いします。

「いやなんていうか……酷いわね、あれ」


「正直あれで諦める様には見えないから、依頼人にも注意を促しておいた方が良いかもしれんな」


「元は敬虔な方だと見受けられるのですが……どうしてあのようになってしまったのでしょうか」


そんな話をしながら、馬をぞろぞろ連れてドーヴへの道を急ぐ僕達。


そこに後方から、僕達を呼び止める声が飛んできた。


「おおい!あんた達!」


見ると、先程ゴーフェ夫妻と一緒にいた冒険者の1人が、僕達を追いかけてきていた。



走ってきた彼は、歩く速度を緩めた僕の横に並んで話しかけてくる。


「さっきは、すまなかったな」


「……いえ、皆さんはあのゴーフェさんを止めてくれたし、何かされたわけでもないですから」


僕がそう答えると、彼はおそるおそるという感じで言葉を続ける。


「それでなんだが、この事はギルドには……」


「後々揉めるのもいけないので、報告だけはします。ただ皆さんは一切悪くないと伝えておきますので」



あの様子じゃ後日、ゴーフェ夫妻がギルドに突撃してくる可能性もなきにしもあらずなので、報告は必要だろう。


一方で冒険者達は、どうやら肝心なところを知らされていなかったもしくは騙されていたとでもいった感じみたいなので、わざわざ悪者にすることはない。


僕の返答に、冒険者はほっとした顔になった。


「ああ、それで良いや。すまねえな」



聞くところによると、彼の名前はリンツといって4級冒険者。


先程一緒にいた子供の頃からの仲間達と共に、『急流の勇魚』というパーティを組んで活動している。


「ここで隠しても仕方ない」と教えてくれたことには、彼ら3人もフロイグ教徒なのだそう。


ゴーフェ夫妻と一緒に来たのも、同じフロイグ教徒であった関係。


先程聞こえてきた話の通りゴーフェ夫妻から「ヤッヒル村でフロイグ教徒が亡くなった。弔いに行きたいので同行してほしい」と頼まれたので、護衛を兼ねてここまで来たとのこと。


そんなゴーフェ夫妻は今、リンツさんの仲間が取り押さえているところ。



この人達には非は無いとはいえ、ゴーフェ夫妻の言動からどうにもフロイグ教には良いイメージが持てないでいる僕。


まだ少し警戒を残したまま、リンツさんに尋ねてみる。


「無礼を承知でお尋ねしますが……さっきの異端だなんだというのが、フロイグ教の考え方なんですか?」


僕の問いかけに、慌てて首を横に振るリンツさん。


「いやそんなんじゃねえよ!?まあ確かに教義にはフロイグ教が正しいから教えを守れ、他のは間違ってるから信じるな、みたいなこと書いてあるけどさ。俺達誰もそんなの真に受けちゃいないって!」



まあ確かに「ウチのとこの教えだけが正しい!余所のところの教えなんてゴミ!カス!そんなの聞いたら耳が腐る!」なんてのは他の宗教でもよく聞く話ではあるか。


「大体が、フロイグ教なんてもうほとんど残ってなんかねえだろうよ。俺達の家は確かに爺様のそのまた爺様の代からエスク神を拝んじゃいたけどさ。他に信仰してる人なんてゴーフェさんとミルデさん以外に会ったことねえし、今どれぐらいの信徒がいるかも全然わかんねえし」


ミルデさんというのは、さっき一緒にいたゴーフェ氏の奥さんとのこと。



聞いたところによると、フロイグ教徒は昔の弾圧の時代以降、とにかく徹底的に身を潜めて信仰を続けてきたのだそう。


表向きは他のリーガ教など、認められた宗教を信仰しているように見せかけ、フロイグ教を信仰していることは決して誰にも話さない。


信徒同士で連絡を取り合ったりもしないし、たとえ顔を合わせても口に出すこともしない。


そうして細々と信仰を続けているうちに数百年。


クロウ王国がクロウ共和国に変わってからもそれは続き、気が付けばもう家族や特に親しく付き合いのある人以外は、他の誰がフロイグ教徒なのかもわからなくなっているのが現状らしい。


幼馴染み同士で冒険者になった彼らにしても「そういえば家でそんなこと言ってたな」くらいの感覚で、普段は特に意識することも無かった。


おそらくはこのまま静かに、時代の流れと共にゆっくりと消えていくんだろう。



そんな彼らがゴーフェさん夫妻と知り合ったのも、本当にたまたまのこと。


用事で外に出たゴーフェさんが人に押されてうっかりエスク神の木像を落としてしまい、それを拾ったリンツさんが実家にも同じ物があったのを思い出して「あんたもフロイグ教かい?」と声をかけたのが付き合いの始まりだった。


「何か必要があれば俺達に依頼してくれよ」なんて話をしていたら、今回ギルドにいたところを声をかけられて、一緒に来たらこの事態と。




「……あんなイカれたこと言うような人じゃなかったんだけどなあ」


やりきれない顔で呟くリンツさん。


レンダイ先生の家でも、勤務態度は真面目で周囲とも良い関係だったという話だけど、一体何が彼らを変えたのか。


それとも隠してただけで元々そういう人達だったのか。



まあどんな理由があったとしても彼らの行動を容認なんて出来ないし、これ以上は悩んでても仕方がないか。


話が終わるとリンツさんは「じゃ、ギルドには報告頼むわ。後、なんかあったらその時はよろしくな!」と言い残して、来た道を戻って行った。


この後はゴーフェ夫妻をドーヴまで連れ帰り、今後は彼らとの付き合いを控えるようにするつもりだとのこと。


駆け去っていくリンツさんに手を振って、僕達は再びドーヴへの道を進み始めた。



「それにしても、リンツさん達は話が通じる人で良かったねえ」


「でもあの人達もフロイグ教って言ってたよな?ちょっと以外だったな」


「結局のところは、人によるということなんだろうな。どこの国や組織にも、良い人もいれば悪人もいる」


「そうだよね。リンツさんだっけ。また、会えるかなあ……」


「彼らもドーヴの人みたいだし、会えるんじゃない?ていうか、どうしたのリヴ?ぽーっとなっちゃって……これは、もしかしたら!?」


「え!?そうなんですかリヴ!?」


「ち、ちが……ち……あうう」

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。


今年1年拙い物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。

来年もまた、コタロウをよろしくお願いします。

それでは、良いお年を。

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