23. かえりみち の さいかい
よろしくお願いします。
長ゼリフがあります。
盗賊の討伐を無事完了し、ヤッヒル村を出発した僕達は、街道をドーヴ市へと向かっていた。
盗賊から奪ってきた馬は、結局全頭僕達がドーヴまで連れて行くことに。
今の僕達が馬を持っていても仕方ないので、ドーヴに着いたら馬商人に売ってお金は皆で分けようということになっている。
交代で馬に乗り、僕が歌を歌いながらのんびりと山の中に拓かれた道を歩く。
季節はそろそろ秋にさしかかり、山の木の葉も赤や黄色に色づきが始まっている。
なので僕が歌うのは秋の紅葉に彩られた、山裾や谷川の美しい景色を歌った歌。
歌詞の言葉遣いは少し難しめだけど、澄んだメロディで紅葉の景色が目に浮かんでくる歌だ。
道の途中には、谷川の渓流を見下ろせる場所もあったのでちょうど良いといえばちょうど良い。
今はこんな良い景色になってますよと、マジックバッグの中にいる亡くなったリリナお嬢さんの弔いにでもなればということで歌っていると、やがてメロディを覚えた皆がハミングで合わせてくれるようになった。
途中で2晩夜営してドーヴまで後少しというところで、前方から数人の人がこちらへ歩いてくるのが見えた。
彼らは全員徒歩で、数は5人。
内3人は冒険者風の格好で、見た感じ行商人のような人達ではなさそう。
歩きながら、僕達を指差してなにやら話をしている。
はて、何か僕達に用事でもあるのだろうか。
ここにきて面倒事は嫌だな。
そんな風に思いながら一応皆で警戒していると、やがて歩いて来た彼らは僕達の前を塞ぐように立ち止まった。
見れば先頭に立っているのは、先日この件の依頼人であるレンダイ先生のお宅で見かけたゴーフェ氏。
今僕達が運んでいるリリナお嬢さんをフロイグ教に誘い、彼女が死亡する遠因となった人だ。
レンダイ先生の息子のロウダイさんに怒られてそのままどこかに連れて行かれていたけど、その後どうなったのやら。
僕達が足を止めると、ゴーフェ氏が前に進み出た。隣に寄り添うようにして立っている女性は彼の奥さんだろうか。
「そのトラ縞の服……あなた様は、レンダイ先生のお宅でお目にかかりました冒険者様でございますね?ちょうど良うございました。私達はあなた様方の所へ向かうところだったのでございます」
「……何かご用ですか?」
僕が明確に警戒心をにじませた口調で尋ねると、彼は思いがけないことを言い出した。
「リリナお嬢様を、私共にお渡しいただきたいのでございます」
「はあ!?」
ゴーフェ氏からの言葉に、僕の後ろにいたケイ達から声が上がる。
流石にこれには僕もびっくり。
唖然としている僕達に、ゴーフェ氏は言葉を続ける。
「旦那様からのご依頼を受けて、リリナお嬢様をお迎えにヤッヒル村へ行かれていたのでございましょう?リリナお嬢様は我等フロイグ教の教徒でございます。であれば、その御体はまずは我々がお引き受けするのが道理でございます。もしお亡くなりになられているのであれば、それはエスク神様の御許へお向かいになられたという、誠に喜ばしきこと。その際は我々がフロイグ教徒として相応しきお弔いをさせていただくのが当然のことでございましょう。お嬢様のお姿は見当たらない様ですが、御遺体をお運びいただいているのでございますか?であれば私共が責任を持ってお嬢様に相応しきフロイグ教の葬儀をさせていただきますので、是非この場にてお嬢様の御体を引き取らせていただきたく、お願い申し上げます」
長々と口上を述べて、深々と頭を下げるゴーフェ夫婦。
……いやいやちょっと待って。
物言いは丁寧だけどつまり何?僕達がヤッヒルで収容してここまで連れ帰ってきたリリナさんの遺体を、この場でそっくり自分達に寄越せと?
家族にも会わせずに?
んで自分達で勝手に葬式しますって?
何言ってんのこの人?
「おいちょっとアンタら!」
後ろで声を上げたケイをユーナが制する。
ここで彼らと喧嘩なんかしても始まらない。
見ればゴーフェ夫妻の後ろでは、彼らと一緒に来た冒険者風の人達が驚いた顔で夫妻を見ている。
彼らはアリサやユーナよりも少し年上くらいで3人共男性。
今気づいたけど、この人達もなんだか見覚えがあるな。
冒険者ギルドででも見かけたことがあっただろうか。
僕はそんな彼らに先に声をかけてみた。
「皆さんもフロイグ教の方ですか?そしてフロイグ教では、今言われたみたいに家族よりも信徒同士の方が優先されるんですか?」
「い、いや違う!俺達はそんな……」
弾かれた様に僕を見て、それから慌てて否定する冒険者達。
しかしそんな僕達や彼らにゴーフェ氏は言い募る。
「それはあくまで人と人との間のことでございましょう。私が申し上げているのは信仰についてでございます。この世で最も大切なのはエスク様の御意志に従うこと。我等フロイグ教徒が正しき方法でお弔いしたその時にこそ、お嬢様は真に救われるのでございます。それこそがエスク様の御意志。エスク様の御意志に従わないことは異端であり、罪でございます。悪でございます。異端者の祈りは神には届きません。我等の正しき信仰にてお嬢様をエスク様の御許へお送りするためにも、どうかお嬢様の御体を私共にお渡しくださいませ。そして皆様もフロイグの教えにお目覚めくださいませ。エスク様の教えの下、共に正しき信仰の道を歩みましょう!」
「いや、異端ってあんた……」
まくし立てるゴーフェ氏に、冒険者の男性が信じられないものを見る目で呟く。
これは……どうしよう?
ゴーフェ氏の言葉には、正直不快感しか感じない。
ちらと後ろを見ると、アリサやユーナやケイ達も皆言葉を無くしている。
とはいえ、こんなこと言われたからってリリナお嬢さんの遺体をはいどうぞと渡すことなんて出来るわけもない。
それではレンダイ先生の希望も叶わないし依頼の達成にもならない。
断るのは当然にしても……なんて言おう。
言葉が見つからず内心で頭を抱えていると、後ろからそんな僕を脇に退けてユーナが前に進み出た。
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